新会社法をめぐる騒動の種

反応がかなり遅くて恐縮だが、
ジュリスト1315号の特集『会社法規則の制定』は、
結構凄まじいことになっている。


このご時世、執筆者の筆頭に
上村達男早稲田大学教授が来ている時点で
おおよその流れは想像が付くが(笑)*1
本特集では、それ以外の執筆者にも早大教授たちと
その影響を受けた名大・中東教授のお名前が並んでおり、
法務省令の解説、という目的を超えた
新会社法体系そのものへの批判的検討がなされているのが特徴的である。


上村教授は、ジュリストの昨年の会社法特集でも、
相当痛烈な批判的言辞を述べられていたが、
今回の論稿ではそれが一気に数段階グレードアップした印象。


初っ端から「異例な新会社法法務省令の制定過程」という項を立て、
「要綱」が「法律案」になる過程で
大幅な体系と概念の改変がなされたこと、
しかもそれを法政審が了承していたとは思えない、
ということを指摘しているし*2
法務省令案についても、
中立的な研究者の意見を軽視したことを激しく非難している*3


また、「新会社法の性格に関する批判的概観」として、
「株式会社が「もっともルーズな有限会社」になった」と指摘したり、
資本金制の廃止を恒常化したことの問題点や、
法的な概念を無用に変えたことによる弊害などを主張している*4


このほかにも、今回の特集では、
企業会計法規制における
「丸投げ」や「過度の省令委任」化への懸念が示されていたり*5
組織再編に関して、
持分会社が当事者となる場合に資本充実原則への意識が乏しいこと、
資本金額ゼロを計算規則上肯定してしまったこと
への批判が述べられていたり*6
と、各執筆者から法務省令のみならず、
会社法そのものに対する鋭い批判が浴びせられている点において、
従来の「特集」記事とは大きく様相を異にするものとなっている。


法改正のキャッチアップに必死なアマチュア“実務屋”には、
高尚な議論を楽しむ暇などそうそうないから、
結局は『商事法務』の解説なり、『一問一答』、『葉玉本』、
といった一応信頼に足る“便利ツール”に全面的に頼らざるをえない、
という実態があるのも確か。
そして、その中身が理論的に正しいかどうか検証しよう、
なんて大それた着想に至る前に、
やらねばならぬことに
押しつぶされそうになっていることも多いだろう。


だが、立法担当者がいかなる見解をお持ちであろうと、
最終的に判断するのは「裁判所」であることを鑑みれば、
ここは一つ、様々な反対意見に耳をそばだてておくのも
悪くないのではないだろうか。


そういった意味では、従来のような単なる“解説”に比べると、
実務的により大きな有意義な特集だった、
といえるのかもしれない。


「実務」とは、テクニカルな技巧に走ることだけでは、
ないはずなのだから・・・。

*1:上村達男新会社法の性格と法務省令」ジュリスト1315号2頁(2006年)

*2:上村・前掲2-4頁。

*3:上村教授は、最低資本金制度の廃止が「実際に会社制度にかかわる者の要望を優先する形で」行われたことを批判し、「およそ規制の対象たる者が100%満足している法というものを信用することができようか。」とまで述べられる(前掲・4頁)。

*4:上村・前掲5-6頁。

*5:尾崎安央「会社の計算」ジュリスト1315号9頁(2006年)

*6:稲葉威雄「法務省令の問題点−組織再編に関連して」ジュリスト1315号15頁(2006年)。

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