いまさら先月のジュリストの記事にコメント付けても
仕方ないのだが、自分用の心覚えメモとして、
以下残しておくことにする。
特集・知財高裁大合議判決と今後の知財訴訟
知財高裁の意義については、
昨年の発足時に比較法的位置づけも含めて散々語られていたし、
1年後の“総括”も、その時の議論のスジを外れるものではない*1。
個人的には、目玉の一つである大合議部の“成果”が
若干物足りなくも思えるのだが*2、
そもそも“大合議”で審理することで事実上の“統一見解”を出すことの
是非についても議論がなされるべきところであるから*3、
立ち上がりとしてはこの程度でよかった、
というべきなのかもしれない。
さて、本特集で掲載されているのは、
これまでに知財高裁大合議部で出された3件の判決に対する評釈。
一太郎事件判決(知財高判平成17年9月30日)を茶園教授*4、
パラメータ特許事件判決(知財高判平成17年11月11日)を平嶋助教授*5、
インクタンクリサイクル事件判決(知財高裁平成18年1月31日)を横山助教授*6、
がそれぞれ解説されている。
前の二件については、
先に出たH17重判に掲載されていなかったのが不思議なくらいで(笑)、
既に先行して出されている評釈もいくつかある。
特に一太郎事件については、
昨年から今年にかけて多くの評釈が出されているところであり、
今回の茶園教授の評釈は、さしづめ“速報的評釈の締め”とでも
位置付けられるだろうか。
この事件に関しては、
間接侵害の成否判断がもっぱら問題となっているが、
本評釈でも、これまでの“多数説”と同様に、
101条4号所定の間接侵害の成立を否定したことについて、
批判的な見解が示されている。
間接侵害の成否を判断するにあたって
「非汎用性」「不可欠性」が要件となる以上、
「間接の間接」の場合を除外する必要はない、と
本件判決の一般論を否定する見解*7は、
これまでにも多く出されているが*8、
茶園教授は、そもそも本件判決の一般論を認めるにしても、
被告製品が
「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」に
あたり得る、とまで踏み込んで評価しており*9、
そのあたりにある種の思い切りの良さを見てとることができる。
なお、最後の章で述べられている
「この判断−その当否はともかく−のように、これまで論じられてこなかった法律解釈が述べられることは、大合議の重要性を考えると、慎重になされるべきであると思われる。確かに、全くあるいはほとんど論じられていなくても、重要である問題については、大合議による審理・判決によって、将来に様々な判断が示されることによって生じるおそれのあるルールの不明確性を未然に防止することができる。しかしながら、様々な判断が示され、その中での議論を通じて、優れた判断が現れてくることもあるのであり、大合議判決がその後の議論の発展を抑制する効果を生じる場合もあり得ないではない」(22頁)
のくだりは、一つの問題提起として、傾聴に値しよう*10。
一方、知財高裁が従来の判断の統一化を図った、という点において、
上記3つの中では、もっとも大合議部設置の趣旨に沿った判決といえる
インクタンクリサイクル事件については、
いまだ十分に評釈が出揃っているとはいえない状況下での
本家・横山助教授のコメントだけに意義がある。
田村教授がNBLで2号にわたって自説を展開されているのに比べると*11、
紙幅の制限もあってか、
穏当な解説に終始されているような印象を受けるが、
「なぜ“消尽アプローチ”なのか?」を解説されているくだりなどは*12、
『特許法判例百選〔第2版〕』に掲載されている解説*13と
合わせて読むと、より面白いのではないかと思う*14。
なお、本号では、
今もっとも華やかなりしテーマ「著作権の間接侵害」について、
塩月・前知財高裁判事が事例分析を掲載されるなど*15、
“夏の知財祭り”的な一冊になっている*16。
年に一度といわず、知財特集号をもっと増やして欲しい、と
個人的には願っているのであるが・・・。
*1:篠原勝美「知財高裁大合議部について」ジュリスト1316号8頁(2006年)。
*2:そもそも商標権や著作権に関する事件が対象になっていないところに物足りなさを感じる。
*3:後述する茶園教授のコメントも参照。
*4:茶園成樹「ソフトウェアの製造販売と特許法101条2号・4号所定の間接侵害−一太郎事件大合議判決」ジュリスト1316号14頁(2006年)。
*5:平嶋竜太「特許出願における発明開示と実効的保護の調和−パラメータ特許事件大合議判決と今後の方向性」ジュリスト1316号23頁(2006年)。
*6:横山久芳「特許製品のリサイクルと消尽理論−インクタンクリサイクル事件大合議判決を読んで」ジュリスト1316号34頁(2006年)。
*7:茶園・前掲21‐22頁。
*8:愛知靖之「ソフトウェアの製造・譲渡につき間接侵害・権利行使制限の抗弁の成否等が争われた事例−「一太郎」事件控訴審−」L&T31号69‐70頁(2006年)
*9:茶園・前掲21頁。
*10:個人的には、本件が上告されなかった理由は、本件が大合議判決だったからではなく、104条の3第1項の抗弁を覆すことが不可能であると原告サイドが悟ったからだろう、と思っている。最高裁による破棄差戻しの余地が残されている限り、大合議判決とはいえ、確定的な統一判断にはなり得ないのであり、それゆえ、それによって議論が停滞することも考えにくいと思っているのであるが・・・。
*11:田村善之「費消済みインクタンクにインクを再充填する行為と特許権侵害の成否(上)(下)」NBL836号18頁、837号44頁)
*12:横山・前掲38-39頁。
*13:横山久芳「特許製品に対する変形行為と特許権侵害」(東京高判平成13年11月29日)別冊ジュリスト170号130-131頁(2004年)。
*14:もっとも、筆者自身は以前にも書いたとおり、「生産」アプローチと「消尽」アプローチの違いが、何となく分かったようで、イマイチ理解できていないキライがあるので、これ以上恥をさらさないように、この辺で逃げておくことにする(苦笑)。
*15:塩月秀平「著作権侵害主体の事例分析」ジュリスト1316号140頁(2006年)。個人的には「2ちゃんねる小学館事件」に関し、「マニア向けでしかも一過性の対談記事であること」「掲示板管理者にとって掲示板発言が著作権侵害に当たることが明白であったこと」から、相当踏み込んで差し止め認容判決に肯定的評価を与えているのが印象深い(145頁)。
*16:一応、4年ほど前から定着しつつある慣行(笑)といえるだろうか。