『東大法科大学院ローレビュー』より。

以前、本ブログで取り上げた『東大法科大学院ローレビュー』*1
学生論稿をひと通り読んでみてまず思ったのは、「皆読みやすい文章書くなぁ・・・」ということだろうか。


悪文を日々羅列している*2本ブログの文章は論外としても、法律雑誌に掲載されるような文章は、レベルの高低を問わず、概して読みにくいのが常であるから、こういうきれいに整理された文章に接すると、さすがは実務家養成教育を受けただけのことはある、と感心してしまう。
また、どの論文も裁判例、学説、ときっちり丁寧に検討していくスタイルをとっているので、その点においても好感が持てる。


一方、気になった点としては、掲載されている論文のジャンルが若干偏っていること*3


公法系がないじゃないか、公法系が!(笑)*4


どういう方が編集委員をやっているのか外からは窺い知ることはできないのだが、元々書いた人がいなかったのか、それとも選ぶ側の琴線に触れるものがなかったのか・・・。


関係分野の先生が目を通すとはいえ、最終的には編集側が掲載可否のジャッジを下すのではないかと推察されるのであるが、複数のジャンルにわたって論文を“読める人”はプロ研究者にだってそんなにいるとは思えないだけに、どういう過程で選考がなされたのかが興味深い。


さて、肝心の中身に関してであるが、残念ながら、筆者に“実質的審査”をする能力があるはずもないので、あくまで“感想”レベルで。


試験を控え、そうでなくても時間がない中で、よく書いたなぁ・・・と感心したのが、村上祐亮「逮捕に伴う捜索・差押えと逮捕後の移動」と、高松顕彦「労働協約の不利益変更と司法審査」の二本。


前者は、U,S.判例のオンパレードだし*5、後者は、学説・判例を力技で整理した苦労の跡が窺える*6


いくつかのブログで言及されていた*7
川原健司「引用の適法要件」については、「隙がない論文だなぁ・・・」というのが率直な感想だろうか。


実質論に関して言えば、「明瞭区分性」要件はともかく、「主従関係」要件は、論者や裁判例によって中身が異なる“マジックワード”になりつつあるように思えるし、それゆえ、論文中でも紹介されている飯村説、上野説の問題意識に対してもう少し実質的な検討を加えても良かったのではないか*8、と思ったりもするのであるが、本論文自体は一貫した流れに沿って矛盾なく完結しているのであって、
上記のような指摘をするのは野暮というものであろう。


いずれにせよ、こういった“頭の良い”文章をさらっと書ける人々の何と羨ましいことか*9


ま、ないものをねだっても仕方ないので、筆者は自分の仕事に戻るとしよう・・・*10

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060908/1157821543

*2:半ば意図的ではあるが・・・(笑)。

*3:商事・租税が3件、知財、労働、民訴、刑訴が1件ずつ。

*4:まぁ、これは2年後に期待するとしよう(笑)。

*5:筆者の英語力では外国法文献センターに半年こもっても無理(苦笑)。

*6:荒木教授を指導教官と仰ぎつつ、労働協約不利益変更の論点で、「手続審査重視説」へのネガティブな評価へと結論を持っていっているあたりにも個人的には好感が持てるが(笑)。

*7:http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50596716.htmlhttp://d.hatena.ne.jp/lxngdh/20060915など。

*8:この点につき、本論文では、「形式論」の章でのみ論じられているに過ぎず、しかも判例のアプローチと条文文言に沿ったアプローチのどちらが妥当か、という文脈で検討されているに過ぎない。両説の元になっている論文そのものに当たっていないのであくまで推測に過ぎないのだが、上野助教授の問題意識は考慮要素そのものの見直しに向かっているようにも思えるから、その点も含めて検討の俎上に乗せる意義はあっただろうと思う。

*9:もちろん、書き上げるまでには相当の苦労があるのだろうけど。

*10:締め切りまであとX日・・・鬱。

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