フラッシュメモリー特許訴訟

4件目の大合議がニュースになった。

「大容量フラッシュメモリーを巡り特許侵害されたとして、東芝が韓国ハイニックス半導体の日本法人に製品の輸入・販売差し止めや損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、知的財産高裁は18日、5人の裁判官による大合議(篠原勝美裁判長)で審理することを決めた。重要な法律問題を含む場合に開かれる大合議での審理は、2005年の同高裁発足以来、4件目」(2007年1月19日付け朝刊・第38面)

日経新聞の記事によれば、

「2004年の特許法改正により、特許庁を相手とする審決取り消し訴訟だけではなく、当事者同士の損害賠償訴訟の中でも特許の有効・無効を判断できると明記された。知財高裁は、審決取り消し訴訟と損賠訴訟とで特許の有効性の判断が異ならないように、統一基準を示すとみられる。」

ということなのだが、これだけでは良く分からないので、原審判決(東京地判平成18年3月24日・H16(ワ)23600号*1)を見ると、被告側の主張の多くを占めているのが、

「後記2〔被告の主張〕のとおり,本件特許発明にはその発明に必要不可欠な構成が記載されておらず,まとまりのある1つの技術思想としての発明を把握することができない」

という点であり*2、それにもかかわらず、裁判所(高部眞規子裁判長)は、構成要件充足性判断に際しても、「新規性欠如により特許法104条の3が適用される」という主張の是非の判断に際しても、「特許請求の範囲」以外の明細書の記載を参酌して被告側の主張を退けているから、控訴審においてもそのあたりが突かれているのであろう、と推察される*3


審決取消訴訟の際の「発明の要旨認定」と、侵害訴訟の際の「特許の技術的範囲の確定」とでは、裁判所の解釈態度が異なる、というのは以前から指摘されていたことで、それぞれ最高裁判例まで出されているのだから、本来であれば“そういうもんでしょ”と片付けられてしまうところなのだが、侵害訴訟において特許の有効・無効の判断までなされるようになっている今、果たしてそのような“分裂した解釈”でよいのか、という指摘も近年なされるようになってきており、それが今回大合議マターとなった理由でもあるのだろうと思う。


もっともことが侵害訴訟だけに、決定的な新証拠がアメリカあたりで発見されて、クレーム解釈云々に踏み込むまでもなく新規性(進歩性)欠如が認定されてしまったら、“何のための大合議?”ということにもなりかねないのであるが・・・(笑)*4


ちなみに、朝日新聞のサイト(1月18日付)*5には、

「争点は、問題となっている特許の有効性を「特許請求(クレーム)に記載された範囲」に限定して解釈するか、「添付の明細書」まで考慮対象に含めるかだ。大合議の結論は、特許訴訟一般に広く影響を与えそうだ。」
東芝勝訴とした06年3月の一審判決は、発明を特定するための「特許請求の記載」に限定せず、添付の明細書の記載も考慮して判断。ハイニックス製品が東芝の特許を侵害していると結論づけた。この方法は、従来の侵害訴訟での判断手法を踏襲したものだった」
「これに対し、ハイニックス側が「問題の機能は特許請求には明記されていない」として控訴していた。特許自体の効力を争う訴訟では、特許請求に絞って判断するのが判例になっている」

という記事が掲載されていて、日経の記事の足りない部分をきっちりフォローしてくれているのだが、如何せん「特許請求の範囲」という用語をきちんと使えていないなど、素人感が漂う書きぶりになっているのがいかにも残念*6

*1:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060327185227.pdf

*2:ついでに、被告側代理人に何名かの大物弁護士の方のお名前が連なっていることも分かる(笑)

*3:もちろん、原審に続いて特許法36条5項2号違反も激しく主張されることになるであろう。

*4:一太郎判決も結局は進歩性欠如によって104条の3が適用されたがゆえに、間接侵害に関する判示が世間的にはあまり注目されない地味なもの(ただし、傍論ではない by...以下自主規制)になってしまったように思う。

*5:http://www.asahi.com/digital/av/TKY200701180334.html

*6:日経紙以外の新聞社が書いている裁判記事は、どこもその程度のレベルでしかないのだが・・・。

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