ゾンビ法案、ついに成立か?

本来、“国民に対する説明責任”など負う道理はない朝青龍*1や亀田親子を連日のようにバッシングするこの国のメディアにしては、公党、しかも次期政権を担うかもしれない野党第一党党首に対する態度がいかにも優しすぎやしないか、と思う今日この頃。


あれだけボロカスに叩かれている相撲の世界にすら、「一度引退を口にしたら、場所中だろうが以後土俵には立たせない」という厳格なルールが存在するのであって、「慰留されたんで辞めるのやめました」なんて口上がまかり通る世界よりはよっぽど清々しい世界だと思うのだが、それでもメディアは民主党を持ち上げ、朝青龍を叩き続けるのだろうか?


全くもってこの世は複雑怪奇なり・・・。



なんて悪態をつきたくなる今日この頃だが、こういった最近のドサクサには思わぬ副次的効果もあったようで、お蔵入り目前だった「労働契約法案」が、自民・民主の修正合意成立によって、一転日の目を見ることになりそうな状況である。

衆院厚生労働委員会は6日の理事会で、雇用ルール見直し三法案のうち、地域別の最低賃金の引き上げを促す最低賃金法改正案と雇用条件などを明文化する労働契約法案について、7日に採決すると決めた。民主党も賛成し8日に衆院を通過する見通し。政府・与党は10日までの今国会の会期を延長する方針で、両法案が今国会で成立するのは確実となった。」(日本経済新聞2007年11月7日付朝刊・第5面)

最低賃金法案はともかく、労働契約法案まで今国会で通るとは思わなかった。


筆者自身、3月に法律案要綱をご紹介していたのだが*2、春先から国会がグダグダになっていたこともあって、その後のフォローをほとんどしていなかった。


だが、第166国会の内閣提出法案は依然として継続審議になっていたようだし*3、今国会では民主党議員による議員立法としての対案も出されており*4ホワイトカラーエグゼンプションとともに露と消えたと思われていた「労働契約法案」は着実に生き延びていた模様である。



「小さく産んで大きく育てる」方針らしい閣法の方は、予想通り「骨」だけの中身*5で、ここに来てあらためてコメントするようなこともないのだが、民主党議員が今国会に提出した法案などは、細かい論点についても丁寧に条文起こしがなされており、なかなか迫力がある。


特に、

(採用選考時の健康診断)
第八条 労働者の募集又は採用を行う者は、労働者の選考のための健康診断を実施する場合には、労働者になろうとする者の適性と能力を判断する上で必要のない事項について健康診断を実施してはならない。
2 労働者の募集又は採用を行う者は、前項の健康診断を実施するに当たっては、労働者になろうとする者に対して、書面により、当該健康診断の項目ごとに当該健康診断を実施する理由を明示しなければならない。

(労働者の退職後の競業避止義務)
第二十条 使用者は、退職後の労働者の競業により使用者の正当な利益が侵害されるおそれがある場合には、労働者との合意又は労働協約若しくは就業規則で定めるところにより、当該競業を制限することができる。この場合において、当該制限の内容は、当該制限により侵害される労働者の利益と当該制限の必要性との間の均衡が図られるものでなければならない。
2 使用者は、前項の規定により競業を制限しようとする場合には、労働者に対し、次の各号に掲げる事項を当該労働者の退職の際に、書面により明示しなければならない。
 一 制限の対象となる業種又は職種の範囲
 二 制限の期間
 三 制限の地域

(研修の費用の返還の制限)
第二十一条 使用者は、労働者が退職した場合において当該労働者に対し行った留学等の研修(労働契約の履行として行われるものを除く。以下「研修」という。)に要した費用の返還を当該労働者に対して請求しようとするときは、返還すべき費用の額、返還の手続並びにその方法及び期限を定め、当該研修開始前に、当該労働者に対し書面により明示しなければならない。
2 前項の規定により定められる返還すべき費用の額、返還の手続並びにその方法及び期限は、合理的なものとしなければならない。
3 使用者は、労働者が研修の期間の末日の翌日から起算して三年(病気その他厚生労働省令で定める事由により労働者が労働に従事しなかった期間がある場合には、三年に当該期間を加算して得た期間)を経過した日以後に退職した場合においては、第一項の費用の返還を請求することができない。

(労働契約変更請求権)
第二十四条 当事者の一方が、労働契約の内容を維持することが困難な事情が生じたため相手方に労働契約の変更を申し込んだ場合において、当事者間の協議が調わないときは、当該変更を申し込んだ者は、別に法律で定めるところにより、当該労働契約の変更を裁判所に請求することができる。

といった内容が条文化されているあたりは、このまま成案になれば、理論的にも実務的にも画期的と言えるような出来事になったはずであり、民主党が“修正協議”に応じたことで、その全てが実現しそうな状況ではなくなってしまったのが何とも残念に思える。


新聞記事によると、

民主党は正社員だけでなくパートや派遣社員などにも配慮する文言を盛り込むよう要求していた。今回の法案では「均衡の待遇」との文言を明記。正社員と非正社員の待遇格差が是正されやすくなるように政府案を修正することで合意した。」

と一定の配慮がなされた箇所はあるようだが、果たしてどのような形で成案になるのか、よくよく確認しなければならないだろう。


いずれにせよ、皆忘れかけた頃に日の目をみたこの労働契約法案。


余裕があれば、今後はきちんとフォローしていきたいと思っているのだが、果たしてどうなることやら・・・。

*1:公益法人としての日本相撲協会(及びそのトップにいる北の湖何某)はともかくとして・・・(笑)。

*2:以前のエントリーーについては、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070318/1174243690#tb参照。

*3:http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16605080.htm

*4:http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16801001.htm

*5:この点については、「中身」よりもそもそも「作った」こと自体に意味があるという理解で良いと思う。

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