著作権法改正をめぐる進捗状況

今国会に提出されている「著作権法の一部を改正する法律案」。


国会の状況如何によっては、“次の国会でまたやり直し”となってしまう可能性もあったのだが、現在の評論家筋の予想が正しければ、今国会中に改正案が可決される可能性も高いのではないかと思う。


国会関係のHPからちょっと覗いて見たところ、これまでの進捗状況は、

衆議院議案受理年月日 平成21年 3月10日
衆議院付託年月日/衆議院付託委員会 平成21年 4月23日(文部科学)
衆議院審査終了年月日/衆議院審査結果 平成21年 5月 8日/可決
衆議院審議終了年月日/衆議院審議結果 平成21年 5月12日/可決
参議院議案受理年月日 平成21年 5月12日  

となっているようである。


随所で指摘されているように“私的ダウンロード違法化”規定(30条3項)*1がユーザーの反対論を押し切る形で盛り込まれているのはいただけないし、「検索エンジン」サービスの提供に伴う翻案、公衆送信等を権利制限対象とする規定で、「送信元識別符号」なる分かりにくいフレーズ(&概念)が使われているなど、分かりにくい点があるのも事実だが(しかも「著作権を侵害するものであることを知ったときは・・・自動公衆送信を行ってはならない」と書いているあたりなどは、ちょっと気持ち悪い)*2、基本的にはこれまで課題になっていた権利制限拡張がてんこもりになっている改正案だけに、国会が突然死しない限りは大丈夫だろう・・・というのが関係者の見立てではなかろうか。



ちなみに、文部科学委員会で改正案が審議された際の質疑応答を簡単にまとめると、

高井美穂議員(民主党):「障害者のための著作物利用の円滑化」「図書館資料のアーカイブ化」「著作権教育の充実」
松野頼久議員(民主党):「JASRACに対する公取委排除命令について」
川内博史議員(民主党):「ダウンロード違法化の問題点について」「電子計算機における著作物の利用に伴う複製(47条の8)の解釈について」「着うたフルに独禁法違反の疑義があることについて」「日本版フェアユース規定の導入について」
和田隆志議員(民主党):「著作物の適正取引価格について」「グーグル社和解案の問題点について」「著作権教育について」
石井郁子議員(共産党):「私的録画補償金対象拡大への対応について」「裁定制度と著作隣接権者の保護について」
日森文尋議員(社民党):「著作権保護とコンテンツ流通の両立について」「グーグル社のブックサーチサービスの問題について」「日本版フェアユースについて」「裁定制度について」「インターネットオークションにおける画像利用円滑化について」

ということになる。


各議員の拠って立つスタンスがバラバラで、著作権政策をどういう方向に持っていこうとしているのか分かりかねる民主党所属議員の質問内容には相変わらず首を傾げたくなるところもあるのだが、それ以上に、共産党の石井議員の発言には驚かされた。

(議員)「社団法人の私的録画補償金管理協会あてにパナソニック側からこういう四月八日付の文書があるんですよね。それを見ますと、デジタル放送用DVD録画機はそもそも私的録画補償金の対象機器であるか否かについて疑義があるということから、デジタル放送用のDVD録画についての私的録画補償金の徴収に協力することは差し控えるべきであるというふうに言っているわけですよね。こういうことが通用するのかどうかという問題なんです。ですから私は、こういう主張というのは、現行法からしてみても、これを無視したものにもなるわけですし、それから著作権法を持ち出すまでもなく、著作権法百四条の五では、メーカーに補償金支払い請求、受領に協力することを義務づけているということがありますよね。だから、徴収に協力することができないということは、この法律にも抵触する。協力を拒否するということなどはできないと思いますけれども、この点はいかがですか。」
(政府参考人
「この文書を受けました私的録画補償金管理協会におきましては、今後、これはパナソニック株式会社と協議をしてまいりたいという立場をとっているというふうに承知いたしておりまして、私どもはその推移を見守りたいと思っております。」
(議員)
「こういうパナソニック側の主張というのは、私はこういう行動は現行法上からも道理がないというふうに思うんですね。こういうことがどんどん許されたら、次々、協力しなくても何も問題は起こらないということになっていきまして、補償金制度そのものが崩壊しかねないというふうに思うんですね。ですから私は、こういう一方的な文書というのは、この法律上、著作権法上に定められている協力義務があるわけですから、これに違反する。これは政府としてもやはり法にのっとって対処していく、是正を求めるべきだというふうに思いますが、この点は大臣の御見解を伺いたいと思います。大臣、いかがでしょう。」
(政府参考人
「確かにその文書につきましては、この補償金制度に照らし合わせて問題があると考えております。今後この制度をどうするかということにつきましては先ほど答弁したとおりでございまして、この問題、今後もしっかりとした協議を続けていく必要があると思っておりますので、今の文書の問題とあわせて検討してまいりたいと考えております。」


ブルーレイへの補償金課金の拡大は、22日の改正著作権法施行令の施行により名目的にはスタートしているのだが、メーカーと権利者との話し合いがなかなか進まない、という現状は以前にもご紹介したとおりで*3、そのような状況において、権利者サイドの声を代弁するかのような質問*4を“共産党の”議員がしている、というのは、ちょっと意外な感もあるところである*5



最終的に法案とセットとなるであろう附帯決議の内容を見る限り、

著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
 政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 違法なインターネット配信等による音楽・映像を違法と知りながら録音又は録画することを私的使用目的でも権利侵害とする第三十条第一項第三号の運用に当たっては、違法なインターネット配信等による音楽・映像と知らずに録音又は録画した著作物の利用者に不利益が生じないよう留意すること。
  また、本改正に便乗した不正な料金請求等による被害を防止するため、改正内容の趣旨の周知徹底に努めるとともに、レコード会社等との契約により配信される場合に表示される「識別マーク」の普及を促進すること。
二 インターネット配信等による音楽・映像については、今後見込まれる違法配信からの私的録音録画の減少の状況を踏まえ、適正な価格形成に反映させるよう努めること。
三 障害者のための著作物利用の円滑化に当たっては、教科用拡大図書や授業で使われる副教材の拡大写本等の作成を行うボランティア活動がこれまでに果たしてきた役割にかんがみ、その活動が支障なく一層促進されるよう努めること。
四 著作権者不明等の場合の裁定制度及び著作権等の登録制度については、著作物等の適切な保護と円滑な流通を促進する観点から、手続の簡素化等制度の改善について検討すること。
五 近年のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴う著作物等の利用形態の多様化及び著作権制度に係る動向等にかんがみ、著作権の保護を適切に行うため、著作権法の適切な見直しを進めること。特に、私的録音録画補償金制度及び著作権保護期間の見直しなど、著作権に係る重要課題については、国際的動向や関係団体等の意見も十分に考慮し、早期に適切な結論を得ること。
六 国立国会図書館において電子化された資料については、図書館の果たす役割にかんがみ、その有効な活用を図ること。
七 文化の発展に寄与する著作権保護の重要性にかんがみ、学校等における著作権教育の充実や国民に対する普及啓発活動に努めること。
以上であります。
 何とぞ御賛同くださいますようお願い申し上げます。

と、もっぱらユーザーサイドの視点から条項が作成されているように見受けられるだけに、余計に上記質疑との内容のギャップが気になってしまうのであるが・・・・



ここはひとまず、今後の参院委員会での議論にも注目しておきたいと思う。

*1:私的使用複製が認められない例外として、「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」が新たな類型として規定されている。

*2:条文は、「第47条の6 公衆からの求めに応じ、送信可能化された情報に係る送信元識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。以下この条において同じ。)を検索し、及びその結果を提供することを業として行う者(当該事業の一部を行う者を含み、送信可能化された情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、当該検索及びその結果の提供を行うために必要と認められる限度において、送信可能化された著作物(当該著作物に係る自動公衆送信について受信者を識別するための情報の入力を求めることその他の受信を制限するための手段が講じられている場合にあつては、当該自動公衆送信の受信について当該手段を講じた者の承諾を得たものに限る。)について、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行い、及び公衆からの求めに応じ、当該求めに関する送信可能化された情報に係る送信元識別符号の提供と併せて、当該記録媒体に記録された当該著作物の複製物(当該著作物に係る当該二次的著作物の複製物を含む。以下この条において「検索結果提供用記録」という。)のうち当該送信元識別符号に係るものを用いて自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該検索結果提供用記録に係る著作物に係る送信可能化が著作権を侵害するものであること(国外で行われた送信可能化にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであること)を知つたときは、その後は、当該検索結果提供用記録を用いた自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行つてはならない。」というもの。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090511/1242057836参照

*4:しかも特定のメーカーを名指しで批判しつつ・・・。

*5:権利者の中にも同党を支持する零細事業者がいるから、というのが一つの回答なのだろうとは思うのだけれど・・・。

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