著作権法パブコメ(前編)

遅きに失した感はあるが、とりあえずコメントしてみる(元々パブコメ書く予定もなかったので、あくまで「コメント」仕様)。

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会・平成19年度中間まとめ*1

1.「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
2.海賊版の拡大防止のための措置について
3.権利制限の見直しについて
4.検索エンジンの法制上の課題について
5.ライセンシーの保護等の在り方について
6.いわゆる「間接侵害」に係る課題等について
7.その他の検討事項

という章立てになっているこの「中間まとめ」。


インターネット上の著作物の利用を中心に、かなり大幅な変更が予定されている項目もあるのだが、結論から言ってしまうと、「総論賛成でも、各論になると、・・・?」というものが多すぎるような気がする。


例えば海賊版の拡大防止のための措置について」


海賊版」というおどろおどろしい単語の前には、“拡大防止、そりゃ当然”という感想を抱いても不思議ではないところで、激しい議論のあった「親告罪の範囲の見直し」は見送り、「海賊版の譲渡のための告知行為の防止策」のみの導入を検討する、という「概要」だけみれば、“まぁ、いいんじゃない?”というところに落ち着きそうなものである。


だが、「中間まとめ」の本文を読むと、「海賊版」とは「著作権等の権利を侵害する物品」の総称に過ぎない(11頁)。


ということは、悪質なデッドコピー品だけでなく、一見、正規品のように見えるもの(パンフレットに使った写真一枚がたまたま利用許諾期限切れだったような場合)であっても、ここでいう「海賊版」にあたってしまうことになる。


そう考えると、いかに“プロバイダを楽にする”という目的があるといえ、「頒布の前段階の行為である海賊版の譲渡告知行為」を規制することは、「中間まとめ」自身が認めているとおり、「広告関連業界にまで萎縮効果を生じさせてしまうとともに、過大な事前調査義務を課すことになる可能性」(16頁)につながることは否めないだろう。


もちろん「情を知って」等の主観的要件を課すことで(16頁)、ある程度萎縮効果を和らげることは可能かもしれないし、今でも、権利侵害品の広告を請け負うことは相当のリスクを伴う行為(それゆえ広告代理店は細心の注意を払っている)だから、実務的にそんなにあたりはない、というべきなのかもしれないが、筆者としては、「海賊版」というおどろおどろしい言葉の衣が、問題の本質を覆い隠してしまわないかと心配している。


また、今回の見直しは、「インターネット」という媒体のみを対象としたもので、

「インターネット以外の媒体には、放送、新聞、雑誌からチラシの印刷まで多様な業態があり、それらを一律に取り扱うことは必ずしも妥当ではないため、各事業の実態とともに同様の規定を設ける必要性を見極めたうえで必要な措置を講じることが適当である」(16頁)

というコメントが付されているのだが、この辺を見ると、上記のような批判がメディア等から出るのを避けるため、規制しやすいところだけ規制したと読めなくもない。


一応「中間まとめ」では、

「匿名性の高いインターネット環境においては、・・・(略)・・・権利者に必要な措置を講じるための法的な限界がある点で他の媒体と差がある」(16頁)

と説明しているのだが、法がひとたび施行されれば、匿名性の有無にかかわらず規制対象になるのであって、果たしてそんなに差があるものだろうか、とクビを傾げざるを得ないのである。



続いて、「権利制限の見直しについて(3)」においては「ネットオークション等関係」の措置について、従来の「複製」、「引用」概念の解釈論を超えて、新たな権利制限の対象とする方向性が示されており(43-44頁)、それ自体は評価できるのだが*2、その一方で、

「インターネット等に掲載された画像そのものが鑑賞に堪えられるものであるときには、販売目的以外で複製その他の利用が行われることが想定され、権利者の利益に及ぼす影響が大きくなると考えられることから、この弊害を抑える必要がある」

という意見を受けて、

「複製を防止するための技術的な保護手段を施す」

ことなども提案されているあたりはどうだろう?


オークション等の事業者にしてみれば、誰かが公売画面上の画像を持っていって使うことなんて、本来知ったことじゃないにもかかわらず、技術的保護手段が義務化されるようになったとしたら、かえって過剰な負担を強いられることになるのではないだろうか(違法にならないだけマシ、というべきなのかもしれないが)。


少なくとも「小さな画像」については、「引用」概念で整理する等、より積極的な解釈を進めていく必要性を改めて感じさせられる。



以下、それ以外の項目についても、ちょっとずつ感想を述べてみたい。


◆「デジタルコンテンツ流通促進法制」について


この項は、我が国の誇る“超素人集団”「経済財政諮問会議」に対するあてつけ、と読めなくもない中身になっている。

「デジタルコンテンツ流通促進法制」として経済財政諮問会議が課題として掲げているものは、「特定の流通媒体での流通など特定の利用方法を想定して既に製作されているコンテンツを、他の流通媒体(特にインターネット)で二次利用するにあたっての課題」と整理できると考えられる。」(7頁)

と丁寧な書き方をしているが、言ってみれば、まぁ要は“大げさなタイトルつけんなや、ゴルァ!”ということだろう。


「コンテンツの二次利用に関する課題」として挙げられている内容も、著作権契約に関する課題と同じくらい、「ビジネス上の課題」と「技術的課題」の指摘に大きな紙幅が割かれており、“法改正を叫ぶ前にできることがあるだろう”、というのが小委員会の率直な本音だと思われる。


海賊版の拡大防止のための措置について


前半については先ほど述べたとおりだが、後半では「親告罪の範囲の見直し」という注目論点に対して、非親告罪化は「適当でない」(26頁)という見解が明確に打ち出されており、少なくとも小委員会における議論としては、決着が付いた感がある。


捜査実務の観点からの指摘(25頁)も、至極まっとうな内容であり、ここは妥当な線で収まった、と考えるべきだろうが、今後も“悪しき議員立法”によって導入される懸念がないとはいえないのであって、非親告罪化を良しとしない立場を取るのであれば、まだ安心できない状況ではある。


◆権利制限の見直しについて


オークション関係以外では、「薬事関係」や「障害者福祉関係」についていろいろと論じられているのだが、以前も指摘したとおり、(特に後者については)、イチイチ法改正されるのを待たないとやってはいけないことなのか・・・?と率直な疑問が湧いてくるところである。


検索エンジンの法制上の課題について


現行法の解釈による侵害回避が困難であることを指摘しながら、権利制限の必要性を認めた結論(61頁)は、評価されてしかるべきだろう。


だが、そもそもここでいう「検索エンジンサービス提供者」とは一体どこまでの広がりを持つ概念なのか、少なくとも「中間まとめ」を読む限りでは良く分からない。


議論の段階で想定されたグーグルやヤフーといった一流事業者以外の事業者に適用した時に具体的にアタリが生じないか、定義規定等も含めてしっかり検討した方が良いと考えられるところである。


◆ライセンシーの保護等の在り方について


「中間まとめ」を読むと、少なくともコンピュータ・プログラムに関しては、新しい登録制度が導入されそうな気配なのだが、この案に上がっているような内容であれば、通常のユーザーにとっての使い勝手は決して良いものと思えないし、
仮に導入されたとしても、ニーズは一部の事業者等に止まるように思える。


このあたり、地に足の付いた制度改正の意義を強く感じた次第なのであるが、如何・・・?



以上、取り急ぎ法制問題小委員会の「中間まとめ」についてコメントをまとめてみた。


私的録音録画の問題については、また別途、稿をあらためてコメントすることにしたい。

*1:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=2&CLASSNAME=Pcm1080&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000030139

*2:「中間まとめ」では、「本来、著作権の及ぶ範囲ではない取引行為にまで、事実上著作権によって影響が及ぼせる結果になってしまう」という点を指摘している。

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