日教組教研全体集会・会場使用拒絶問題

日教組は1日、今月2日から開く教育研究全国集会の全体集会を中止すると発表した。会場に予定していたグランドプリンスホテル新高輪(東京・港)の使用契約をプリンスホテル側に一方的に解除され、開催のメドが立たなくなったため。1951年に始まった教研集会の歴史で全体集会が中止に追い込まれたのは初めて。」(日本経済新聞2008年2月2日付朝刊・第38面)

記事にもあるとおり、今年1月に東京地裁が会場使用を認める仮処分、さらに東京高裁でも抗告が棄却されていたことから、一件落着したものと思っていたが、ホテル側は頑なに会場使用を拒み続けた模様である*1


記事の中では、「集会の自由などを巡る論議を呼びそうだ」とコメントされているが、本件は市民会館や公立学校施設のような公共施設の使用をめぐる問題ではなく*2、あくまで一民間事業者(ホテル)と日教組の間の取引上の問題だから、憲法論議を持ち出すのが相応しいとはいえない。


民間のホテルである以上、誰に自らの施設を利用させるかを決める自由も当然持っているのであり(営業の自由)、ある程度恣意的な基準で取引を断ったからといって、いちいち憲法問題にされたのではたまったものではない。


だが、本件で解せないのは、以下のような経緯にある。

2007年3月 日教組が会場使用を申し込み。
2007年5月 契約成立
2007年7月 日教組が会場費の半額を支払い。
2007年11月 ホテル側による使用契約解除通知。

日教組が集会を開けば、右翼の街宣車も一緒についてくる」ということは、子供でも知っていることで、それにもかかわらずホテル側では一度会場使用の申込を受理し、会場費の半額支払いも受けている。


それが契約成立から半年後、開催の僅か3ヶ月ほど前になって、契約解除を通知する、という不可解さ。


東京で大人数が入れる会場を押さえようと思ったら、1年前に動き出しても遅すぎるくらいで、こんな時期になって、

「他の客や周辺への騒音を考えると会場を貸すことはできない」

などというありきたりな理由を持ち出されても、2,000人以上の集会を予定していた日教組としては如何ともし難いだろう。


ホテル側の“堂々とした姿勢”を見ると、おそらく使用契約のオプションとして、「特定の事由に該当する場合は一方的な解除も可能」という作りになっているのだろうが、「荒れる学校、荒れる日教組」の時代ならともかく、最近では右翼の街宣活動と合わせて単なる“伝統芸能”的活動に留まっているのが実態である以上(しかも、「騒音」を引き起こすのはあくまで今回の使用に無関係な「右翼」であり、契約当事者である日教組が直接的な責めを負う話ではない以上)、果たして契約の一方的解除に値するのか、という疑問が生じるし、上記のような理由であれば、申込みがあった時点で分かっていた話なのであるから(偽名で申し込んでいたのであれば話は別だが)、断るならその時点で断るべきだった、という批判も免れまい*3


単に、申込があった時点でのホテル側のリスク認識が不十分だっただけなのか、それとも何か裏から強い圧力がかかったのか、実際のところは知る由もないのだが、森越康雄・日教組委員長の会見を待つまでもなく*4、今後泥沼的訴訟に発展するのは避けられない(相手が相手だけに・・・w)。


ホテル側のコメントにもあるように、短期間の審理で結論が出される仮処分決定の判断内容が必ずしも的確なものといえるか、には疑問もあるところなのだが、

「裁判所に言われたから仕方なく貸してるんです・・・」

とお客さまに“言い訳”するにはちょうど良い材料だったのだから、仮処分が出た段階で妥協する、という手もあったわけで、企業法務的側面から言えば、今回のホテル側の判断には大きな疑義があるといわざるを得ない。


なお、素朴な疑問として、「何で日教組がこんなオサレなホテルを教研集会の会場にしようとしたのか?」というのも当然出てくるわけだが、石原慎太郎の足元で左翼系団体が公共施設を利用することのはそんなに大変なのか、それとも単にいいハコを押さえるのに失敗しただけなのか、その辺もいずれ訴訟等を通じて、明らかになることだろう・・・。

*1:仮処分決定が確定していればもっと違った展開もありえたのかもしれないが、おそらくまだ確定はしていなかったのだろう。

*2:その意味で広島の教研集会を巡る事件(最三小判平成18年2月7日)とは事例を異にする。

*3:ひとたび契約に入った以上、相手方に不測の損害を与えないよう配慮する義務が生じるのは当然のことである。

*4:記事によると「司法判断を無視したこと自体が大きな問題」と損害賠償訴訟を検討することを明らかにしている。

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