「法務部の一般社員」をなめたらあかん(笑)

法曹大量増員時代を迎えて、俄かに注目を集めている「企業内弁護士」という生き方。


日経新聞の記事によると、

「弁護士資格を取得しながら企業に勤務する企業内弁護士が、昨年末で242人に上ることが、日本組織内弁護士協会の調査で分かった。前年の165人に比べ、約1.5倍に増えた。」(日本経済新聞2008年2月6日付朝刊・第13面)

ということである。


「法曹を採用してくれない企業が悪い!」的なあてつけ的恨み節を随所で聞かされることが多い今日この頃であるが、そうでなくても法務の現場は、どこも慢性的な人材不足に苦しんでいるのだから、本来であれば、「高度なバックグラウンドが資格で担保されている」人材を欲しくないはずがない。


現在の数字を多いと見るとか少ないと見るかは、人によって違うだろうが、今後この数字が増えることはあっても、減ることはないだろう、と筆者は思っている。


もっとも、古典的な日本企業の場合、「大きな人事部」が新規・中途問わず採用から人事運用まで仕切っていて、専門性が強すぎる人材をなるべく組織から排除する(あるいは入れるとしても最小限にとどめる)傾向にあるから*1、ニーズに対応するだけの頭数を得られるようになるまでにはもう少し時間がかかるだろうが・・・*2


個人的に興味深かったのは、

「242人の中には弁護士事務所で経験を積んだ人ばかりでなく、07年に弁護士登録をしたばかりの新人が少なくとも26人含まれるという。前年は9人どまりだっただけに、当初から自社業務に即した育成を目指す動きともいえそうだ。」

というくだり。


こと法務の仕事に関して言えば、金融、商社といった特殊な業種を除いて“個々の会社独自の業務”なるものを観念する素地は乏しいというべきで、「自社業務に即した育成」というフレーズにどれだけ意味があるのかは怪しいのだが、ある程度中期的な視点に立って“即戦力”ではない弁護士を採用する流れが出てきている、ということは、多くの法曹関係者(特にこれから就職を考えている法曹の卵の皆さん)に歓迎されるべきことと言えるだろう。


なお、この種の記事に付き物のフレーズとして、ここでも、

法務部などの一般社員だけでは解決できない複雑な法的問題も増えている。司法制度改革で弁護士数は増えており、今後さらに企業内弁護士は注目されるだろう。」(日本組織内弁護士協会理事長の梅田康宏弁護士のコメント)

などというコメントが紹介されている。


後段については同意するが、前段については「ふーん、そうなの?」といった感じで・・・(笑)。


少なくとも自分の経験則からすれば、法務の現場で直面するような問題の多くは、「法務部の一般社員」でも過去の事例や諸文献、判例等の分析検討のプロセスを経て、答えを導くことが可能なものであるし、「法務部の一般社員」が解決できないような「複雑な法的問題」に明確な解決策を提示してくれる弁護士なんて、そうそうお目にかかれるものではない*3


ましてや、上記で紹介したような、「弁護士登録をしたばかりの新人」が、法務部で10年、20年経験を積み重ねている人間に太刀打ちできるはずもないのだから、「問題解決能力」をいかにアピールしたところで、積極的な法曹の採用にはつながらないだろう*4


筆者自身は、「社内弁護士」に期待されるのは、「周囲に与える信頼感」や「社外に広がる人脈の活用」だったり(これらはある程度経験のある弁護士に限られるが)、「交渉のときの肩書の強さ」だったり、「普通のサラリーマンにはない独自の価値観を発揮してもらって職場を活性化すること」*5だったりするのではないか、と考えていて、そのようなニーズに応えられる人にこそ、企業の門を叩いて欲しいと思うのであるが、果たしてこういった需要が満たされるのか、これからの5年くらいが勝負だと思う。


弁護士を目指す人々にとっても。そして、法務部にとっても。

*1:なぜならそれだけ人事部による“柔軟な”運用の可能性が閉ざされるから。人事の連中にとって自らの権限が制約されるというのは実に屈辱的なことらしい。

*2:ゴールドマン・サックス証券(10人)、日本IBM(8人)、松下電器産業(7人)、メリルリンチ日本証券(7人)と、“小さな人事”で統治している外資系企業の弁護士在籍人数が突出しており、法務部門の力が強いパナソニックが辛うじてそこに食い込んでいるだけ、という状況が、現状を如実に表しているように思う。

*3:こういう問題に対する公式な回答では、大抵「本件は関係各所で十分な検討がなされていない未知の問題であり」とか、「○○だと思われますが、××になる可能性もあります」などと矛盾する二つの結論が並べられていたりするのが常である。

*4:逆に、法科大学院出たての新人が「高度な法律知識があります!」といって、「それは素晴しい」と採用してしまうような会社で働いても、得られるものは少ないだろう。

*5:サラリーマン根性ムキだしの連中ばっかり職場にあふれていると、だんだんと職場が腐っていくので・・・(苦笑)。

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