「受け皿」とは失敬な(怒)。

いろいろなところで注目されている日弁連調査のニュース。

「企業や官公庁の中で働く「組織内弁護士」について、9割以上の企業が採用する考えのないことが21日、日本弁護士連合会の調査でわかった。司法制度改革の進展で今後増える弁護士人口の受け皿を模索する日弁連は「コンプライアンス(法令順守)強化に弁護士活用の意義は大きい」と採用増を訴えている」(2007年2月22日付け朝刊・第43面)

まぁ、企業でそれなりに法務の実務経験を積んでいる側から見れば、そもそも企業の法務部門を“受け皿”にしようなんて発想がおこがましいわけで、「弁護士の資格を持っているんだから、一般の企業人よりも知識や問題解決能力が高い」ということを実証する努力をしない限り、積極的に弁護士を採用しよう、なんて会社は未来永劫現れないだろうね、と怒りを込めて叫んでみる(笑)*1


実際、「一定の資格試験をクリアした」といったって、それは一瞬のことでしかないし(磨かなければ当然に知識は劣化する)、資格を持っていなくても、もともとのポテンシャルと経験の積み重ねで、通常の弁護士業務より遥かにレベルの高い仕事をしている法務部門のスタッフはたくさんいるのであって、この国の第一人者と目されるレベルの先生ならともかく、修習を終えて弁護士登録したばかりの“先生”や、一般の事務所からあぶれてしまったようなレベルの“先生”が、会社に入って肩書きだけで仕事をしていくことなど到底無理というほかはない。


また、「弁護士」にあって、一般の法務担当者にない唯一の点といえば、訴訟における代理人として法廷に立てること、なのであるが、どんなに訴訟件数が多い、といっても、せいぜい1〜2名の社内弁護士を置いておけば対応は可能だし、そもそも日弁連自体がそういったメリットを強調することなく「コンプライアンス(法令順守)強化に弁護士活用の意義が・・・」などという寝ぼけたことをいっているから、なおさらたちが悪い*2


更に言えば、いかに「コンプライアンス」だの「法化社会」だのといったところで、法務部門自体の会社内での地位はまだまだ低い、というのが実態なのだから、仮に組織強化のために「弁護士」を積極登用しよう、と法務部門が思ったとしても、社内的にそれを押し通すのはかなり厳しい状況なのである。


そういった状況も顧みず、頭ごなしに「弁護士を獲れ獲れ!」と音頭をとって、その挙句、「弁護士を組織内で活用するという司法制度改革の狙いと大きく乖離(かいり)している」などと嘆くのは、ほとんど児戯に等しい所業だと断罪せざるを得ない。


このような状況は、筆者が一昨年の秋に指摘した状況と何ら変わっていないように思えるのであるが*3、この1年半、何千人もの修習生が新たに誕生し、世に送り出される間、法曹界のエライ人々は一体何をしていたのだろう(苦笑)。



・・・といった感じで、皮肉はいくらでも出てくるのであるが、それだけだと非建設的なので、最後に一つだけ、“法曹過剰”といわれるこれからの状況を打開するための処方箋を示すことにしよう。

①まず、日弁連や発言権のある弁護士の先生方が、経営者に対して企業の法務部門の重要性を説き、個々の企業における法務部門のステータスの引き上げに努める。
             ↓
法科大学院を出た新卒の院生や、ある程度社会人経験のある院生を、積極的に企業の新卒採用や中途採用に挑戦させる*4
             ↓
③社内的な発言権が強まり(①)、かつ一定の素養をベースに鍛え上げられた叩き上げの有資格者(②)が企業内にある程度浸透することで、市井の「プロ」法曹へのニーズもより高まり、現状よりもはるかに多くの仕事を受任することができるようになる。

ここまでいかなくても、時間をかけて生地を育てればパイのサイズも少しは大きくなっていくはずだし、逆に、生地を育てる努力を怠ればパイを膨らませることは決してできない、というのは自明の理で、企業法務の分野で企業に「受け皿」としての役割を求めるのであれば、それくらいの深謀遠慮があっても良いはずだ、と筆者は思う(日弁連ほどの“頭のいい人たちの集まり”であればなおさら・・・w)。



もっとも、自分で書いておいて何なのだが、筆者自身は、上記のようなパイの拡大基調がうまく軌道に乗るとは思っていないし(笑)、企業法務という分野自体が、そんなに成長する旨味のある市場だとも思っていない*5


むしろ、現在のプレイヤーが顧客のニーズを十分に満たしているとは到底いえない、一般市民向けの法律サービスを提供する側に回った方が、はるかに役得もやりがいも味わえるのではないだろうか(雇用関係をめぐる問題のように、潜在的な需要を多数抱えている分野も多い)。


少なくとも、原告に勝ち目のある訴訟で、本人訴訟だったり、代理人がヘボだったりしたがタメに、本来負けるべき企業側が勝ってしまう*6ような事態が頻発している現状を見る限り、“能力のある人にとってはこんな有望市場はないだろう(笑)”と思えてならない。


以上、老婆心ながら、徒然に述べてみた次第。

*1:そして、自分の経験則上、一般論としてそれを実証することは恐らく不可能だと思われる(爆)。

*2:コンプライアンス」というのは、法律をいかに使うか、という能力よりも社内組織をいかに動かすか、という能力の方がはるかに求められるジャンルなのであって、現場も、管理部門の仕事の回し方も知らずに会社に入ってきた「弁護士」と、新入社員時代から否応なしにその辺りを学んできた「叩き上げの法務担当者」とで、どちらが役に立つかと問われれば、まともな経営者や法務部門の人間なら、“後者”と答えるに決まっている。

*3:当時のエントリーは、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051208/1133977138#tb

*4:よく誤解されがちだが、企業側は少しでも優秀な人材を確保したいと思っているのだから、法科大学院卒のキャリアは、通常の就職活動の市場においては有利にこそなれ不利になることはまずない、といってよい。それゆえ、弁護士を獲るか、社内リソースを有効活用するか、という“競争”においては明らかに分が悪い“法曹”側も、この段階で他の一般新卒と競争する分には明らかに有利な地位に立つ。だとすれば、使い勝手の悪い「弁護士」の受け皿を探すより、院卒の学生を送り出して企業内で育ててもらう道を探す方が、よほど有効な施策たりうるというべきだろう。

*5:これからは、既存の参入者同士で報酬切り下げも含めた激しいサービス競争が巻き起こることが予想されるジャンルであり、新たに人を送り込んで何かメリットがあるかと問われれば、それは多いに疑問である。

*6:筆者自身、これまで“被告側”のスタッフとして何度となく経験している(苦笑)。

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