これからの「企業法務弁護士」像を考える上で

発売日にご紹介した↓の雑誌。


特集*1をじっくり読んでみると、なかなか奥深いテーマだなぁ・・・と考えさせられる。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2008年 07月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2008年 07月号 [雑誌]


覆面座談会から、各社の法務部長、そして元法務部員ブロガー(ろじゃあ氏のこと)まで、様々な記事が並んでいるのだが、多くの法務関係者に共通している関心事は、

(1)弁護士への仕事依頼時のFee
(2)弁護士の仕事の質(意見書、相談への対応など)
(3)弁護士の選び方、探し方
(4)若手弁護士の育て方&古い顧問弁護士の“斬り方”

といったところに集約されているように思われる。


このうち、(1)“Fee”の話には自分はあまり関心がないのだが*2、残りの3つのテーマについては、いろいろと思うところもあるので、若干記事から引用しつつ感想を書いてみることにしよう。

「弁護士の仕事の質」

やっぱり出るだろうなぁ、と思っていたら案の定でてきたのが、「意見書作成時のスタンス」の話。


例えば、「法務部長覆面座談会」と題したコーナーでは、「外資系メーカーTさん」が、

「こちらの要求があまりに厳しい場合、事務所の保身を考えて書いている意見書が出てきたことがあったのですが、そのときは別の事務所にもう一度書いてもらいました」

と厳しい指摘をすれば、「化学・Hさん」も、

「法律論は弁護士に任せますが、ポイントについて顧客の要請を聞いてくれる弁護士は必要です。書いてもらいたいポイントについて意見を書いてくれる人に頼まないと時間の無駄です」

とバッサリ切り捨てる。

「業法等の特殊な分野については、判例取捨に偏りがあることも少なくないので、こちらでかなり調べこんで行って、基本的なスキームはこちらから提示しないと・・・(略)」
(不動産・Fさん)

という意見とも合わせて、ここには、相談を受ける弁護士(事務所)の側の“感度の鈍さ”に企業法務サイドが辟易している実態が、如実に現れているように思われる。


もちろん、何でもかんでもクライアントのお望みどおりに、ということでは却って困るのであって*3、「専門家」としてクライアントと対等な立場で議論する役割を担っている以上、会社の考え方が法的見地からみて間違っているのであれば、KYと言われようが何と言われようが、「間違っている」と言い切ってくれないと困るのであるが、上で叩かれているような問題は、それとは別次元の話。

◆「仮定法を駆使した逃げの一手」の意見書
◆論点がずれている意見書
◆そもそも日本語の使い方が怪しい意見書

が法務の人間に嫌われる典型的な意見書(見解ペーパー)だと思うが、こういう成果物を出してきて、それでいてチャージはキッチリ請求、という弁護士(事務所)も決して少なくない(いずれは淘汰されていくだろうが)のが現状であり、その意味で、“企業側が何を求めているか”をスカッと書いてくれた上記コメントの意義は大きいと思っている*4


他にも「若手法務担当者から見た理想の弁護士サービス」の冒頭で出てくるような「実務感覚の鋭い若手の弁護士」の例など、クライアントが求めているもののエッセンスが惜しげもなく開陳されているこのテーマ。


できればこのあたりは、法務担当者よりも先生方に読んでいただきたいものだなぁ、と思ったりしている。


逆に、法務担当者の側で肝に銘ずべきなのは、

「弁護士の意見は、自動販売機を押してコロッと出てくる免罪符ではありません。」(外資系メーカー・Tさん)

というフレーズだろうか。


若手弁護士による、「弁護士から法務担当者へのアドバイス」も記事も参考になる。

弁護士の選び方、探し方

このテーマに関しては、内藤篤弁護士の記事(「弁護士の選び方と頼み方」)にある、

「いかにミシュラン本の類で高い評価を得たレストランでも・・・」

のくだりに尽きるように思える。


覆面座談会でも、

「ランキングなどの情報は宣伝の色合いが強いので。」

とはっきり言い切ってしまっているし(不動産・Fさん)*5


こういう流れだけに「町医者タイプ」と「大学病院タイプ」の使い分け*6といった程度の抽象的な話しか出てこないのだが、それでも、評価項目、評価手法等、参考になるネタはあちこちに潜んでいる。

若手弁護士の育て方&古い顧問弁護士の“斬り方”

自分が思わず笑ったのは、若手弁護士とのコミュニケーションのあり方を論じる中での以下のくだり。

「若手の弁護士はそんな場(注:事務所主催の豪華なレセプション)でも大学の延長みたいに仲間内だけでしゃべっていたりして、客をとるために集まっているのがわかっているのか、他人事ながら気になります。」(化学・Hさん)

ホント、他人事ながら気になる・・・(笑)。


まぁ、「覆面座談会」に登場される法務部長さんたちは、「若手」から見たらただの説教好きなおっさん世代だろうから、「とりあえず聞き流しておけ」と片付けても良いとは思うが*7、やっぱりビジネスの世界に生きている人々を相手にメシを食っていこうとするのであればパーティ一つでも意識を変えたらどうかなぁ・・・?と思うことは(比較的近い世代の自分らあたりから見てても)あるわけで。


一方、“斬り方”に関しては、「百戦錬磨の元法務担当者」こと、「ろじゃあ」氏の記事(「弁護士とのトラブル・スッキリ解決法」)に尽きる。

「そろそろ事務所の若い先生に活躍の場を提供していただくのはどうでしょう」

に近いセリフは、自分の会社でも、年度末が近づくと、偉い人たちがあちこち回って言っていたりするわけで。


ただ、ホントに親密(だった)弁護士に対しては、そのセリフを言うことさえ躊躇われる・・・と言う実態もあるわけで*8、その辺まで踏み込んでどなたか書いていただけるともっと面白かったりするのであるが、それはちょっと欲張りすぎか・・・。


以上、ちょっと尻切れトンボ気味ではあるが、以上が筆者自身の感想。


繰り返しになるが、この特集は、法務担当者以上にセンセイ方、それもまさに企業法務弁護士への道を歩き始めようとしている若手の先生方(ないしその卵さんたち)に、読んでいただきたいなぁ・・・と思う次第である。

*1:「今の弁護士に満足ですか?」。目次/http://www.businesslaw.jp/contents/index.html

*2:だって、自分の財布から払うわけじゃないもん・・・(笑)、というのは冗談で、結局「質」が高ければ、少々のコストは割り切るしかないのがこの世界なので(しかも“高い”といってもデカイ設備投資に比べれば桁が3つ、4つ下のレベルの話だし)、あまりケチケチしたことを言ってもしょうがないだろう、というのが筆者の本音である。

*3:別の士業の先生方の中には、「言われたとおりに書きますよ」というのが露骨に出てしまっている人も多くて、かえってマズイことになってしまう傾向が・・・。

*4:的確な分析を元にきっちりと意見を表明してくれる先生であれば(その内容が会社にとって少々耳が痛いものだったとしても)、会社とて無碍な扱いはできないというものである(笑)。

*5:このあたりに『日●ビジネス』とは違う、この雑誌の良さを感じる(笑)。

*6:上記「若手法務担当者から見た・・・」。

*7:特にロースクール教育への批判などは、若干ピントはずれなところはあるような気がする。

*8:ついでに言えば、活躍の場を提供したくなるような若い先生が、同じ事務所にいなかったりすることもあるからより悩ましい。

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