「準正社員」というと聞こえは良いが・・・。

日経紙の一面に、「準正社員」という聞きなれないフレーズとともに、以下のような記事が掲載されている。

「政府は職種や勤務地を限定した『準正社員』の雇用ルールをつくる。15日に開く産業競争力会議で提案し、6月にまとめる成長戦略の柱とする。職種転換や転勤を伴わない分、企業は賃金を抑え、事業所の閉鎖時に解雇しやすい面がある。労働者は人生設計にあった働き方の選択肢が増える。人材移動を促して産業構造の転換に柔軟に対応できるようにし、日本経済の底上げにつながる。」(日本経済新聞2013年3月14日付け朝刊・第1面)

まるで、経●連の政策提言ペーパーを引き写しにしたような口当たりのいい言葉が躍るが、要するにこれって所詮は、労働契約法が改正されたことで、有期雇用契約社員の「2018年問題」が生じることに備えた“先取り”策に過ぎないよなぁ・・・というのが、直感的な印象である。

契約社員」のカテゴリーに属する限り、通算5年を超える前にきっちり雇い止めする、という割り切りができる会社は良いが、人材確保に苦心する会社の多くは、優秀な有期契約社員の契約更新を無限に繰り返しているのが実情。ゆえに、5年経過して無期転換権を行使された場合にどういう“受け皿”を用意するか、というのが、現在、人事労務業界の最大の関心事となっている。

そんな中、「企業が正社員とパートの中間的な位置づけで地域や職種を限定した準正社員を雇いやすくするよう政府が雇用ルールをつくる」というのが本当なら、業界にとってはまさに渡りに船*1、ということになる。

「自分が身に付けた技量を、慣れ親しんだ職場で少しでも長く発揮し続けたい」というのは、働く側にとっても重要なニーズだと思うし、奇しくも同日の紙面で、裁判所に「違法」判断を受けたと報じられているマツダの「サポート社員制度」のような歪んだ雇用慣行(?)に企業を走らせるくらいなら、多少なりとも身分の安定性が保障される「準正社員」制度を検討することも、一概に悪いこととは言えないのだろうけど・・・


個人的には、「企業の解雇のハードルを下げる」という効果と「賃金を抑えることができる」という効果が、当然のごとく両立するかのような制度論には強い違和感がある*2

人材リソースの有効活用を図ろうとするのであれば、「雇用契約の長期間の継続が保障される代わりに、会社側が職種転換や異動の裁量権を持ち、賃金も低く抑えられる社員層」と、「雇用契約関係が短期で解消するリスクはあるが、その代わり、特定の職種、勤務地が保障され、賃金も高い社員層」を組み合わせた制度にするのが経済合理性にも、働く側のニーズにも最もかなうはず。

そして、会社を超えた融通性のあるスキルを持つ労働者をなるべく後者の方に誘導して、特定企業の囲い込みによる価値減耗を防ぐことこそが、制度設計者に求められることだと思う。

それなのに、“正社員最強”的な、旧時代の価値観を補強するような制度が、「成長戦略」の一環として登場してきてしまう、というところに、現在議論のテーブルに付いておられる方々の“限界”を感じざるを得ないわけで・・・

この先、この話がどういう方向に進んでいくかは分からないけれど、“従来型正社員の聖域防御”といった矮小なところに議論が収束しないことを、ただただ願うのみである。

*1:「雇用ルールを作る」といっても、いったい何をするつもりなのか、労働契約法をさらに手直しして、解雇権濫用法理の例外規定を設ける、ということなのか、それとも「パートタイム労働法」的な特別立法をするつもりなのか、それとも単なるガイドラインレベルでルールメイクするのか、記事を読んだだけではさっぱりわからないのではあるが・・・。

*2:身分が不安定なら、その分「正社員」よりも金銭的な条件を引き上げる、というのが、経済原理上は当然のことだろう。

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