0.17点差の重み。

最後の一枠をめぐって、歴史に残る戦いが繰り広げられた今年の全日本フィギュア女子。


最終グループの第1滑走者として中野友加里選手が登場し、ガチガチ感を随所に醸しだしながらも、素人目には最初の3ルッツ以外大きな失敗もなく「火の鳥」を滑り終えたように見えた時点で、そして、SPスコアとの合計195.73点、という、これがグランプリシリーズの大会なら楽々優勝に手が届くようなスコアが飛び出した時点で、大逆転での五輪代表はほぼ当確かと思ったのだが・・・



バンクーバーへのシンデレラストーリーを完結させた鈴木明子選手の滑りは、もう夜のニュースで何度も流れているから、あらためて語るまでもないだろう。


最後の見せ場のステップは、中国杯やグランプリファイナルの時の方が伸び伸びしていて良かったように思えたし*1、序盤のループジャンプを降りた直後の転倒もあった。


でも、転倒した後も演技を乱さなかった集中力、そして、究極的にギリギリの状況の中でも、これまでの大会と同じような“顔”を作り続けた精神力の強さは、まったくもって見事の一言。


そして、キス&クライで出た点数は、フリー128.06点、SPスコアとの合計195.90点。


「0.17点」という僅かな差で中野選手を上回って2位に立った瞬間の映像が、(編集のトリックが入っているとはいえ)激しくも残酷な「最後の一枠」争いに決着が付いたことを明確に物語っていた。


鈴木選手の場合、転倒による1点の減点もあったし、ジャンプの美しさや全体のメリハリ等、素人目に見た完成度の高さからすれば、もっと中野選手と点差が開いても不思議ではない状況ではあったと思うのだが、いずれにせよ、実質的に今年限り*2の実績で勝負していた鈴木選手が、05-06年のGPシリーズ以来、約4シーズン日本女子フィギュアの屋台骨を支えてきた中野選手を「結果でねじ伏せた」ことの意味は大きかったと思う。


もし仮にこの順位が逆転していたら、どちらを選んでも賛否両論・喧々諤々な状況になって、またしても後味の悪さを残すことになりかねなかっただろうから。


ちなみに、最終グループで滑走した6名のスコア(SPスコア、技術要素点、演技構成点、FSスコア、合計の順)は、

中野友加里選手 68.90(2)/63.55 63.28 126.83(3)/195.73点(3)
安藤美姫選手  68.68(3)/52.12 64.64 116.76(4)/185.44点(4)
浅田真央選手  69.12(1)/67.90 67.60 135.50(1)/204.62点(1)
村主章枝選手  58.70(6)/42.83 59.76 102.59(9)/161.29点(7)
鈴木明子選手  67.84(4)/65.78 63.28 128.06(2)/195.90点(2)
村上佳菜子選手 60.28(5)/59.77 50.72 116.33(5)/176.61点(5)

となっている。


浅田真央選手に関しては、勝っても負けても五輪代表から漏れることは考えにくかっただけに、今回大負けするようなことがあると4年前の“悪役”の地位をそのまま引き継ぐ可能性もあったわけだが、そこできっちりと結果を出すのが一流の証。


完全復調を予感させる最初の3アクセルといい、何かが乗り移ったような鬼気迫るストレートラインステップといい*3、タラソワコーチが表現させたかった世界はこれなのか、というのが、画面の向こう側にビンビン伝わってくるような物凄い演技だった。


決めるべき時に決めて、周囲の雑音を自分の力でシャットアウトする・・・


既に代表内定を決めていた安藤選手が、4年前と同じく不甲斐なさ全開の演技に終始していただけに*4なおさら、ということもあるが、常人には容易に成しえないことを10代でできてしまう浅田真央選手の強さに、あらためて敬服した次第である。



なお、前回五輪前から応援してきた村主選手だが、さすがに昨年の世界選手権あたりから潮時感を抱かざるを得なかったのは事実で、今回の結果もファンとしては甘んじて受け入れざるを得ない。


ただ、結果だけ見て*5、この4年間に価値がなかった、というのはあまりに短絡的に過ぎるだろう。


メディアの関心が薄れている今だからこそ、挑戦し続けた彼女の勇気をあらためて称えたいと思う。

*1:それでも今大会のストレートラインステップには7人の審判中4人が+3を付けているのだが。

*2:去年のNHK杯や全日本での活躍を含めても1年ちょっと。

*3:実に7人中6人の審判が+3を付けた。

*4:「52.12」という要素点のスコアは、上位3名はおろか、村上選手や今井遥選手、武田奈也選手、後藤亜由美選手・・・といった選手たちの後塵を拝する点数(全体10位)である。演技構成点の高さゆえ「4位」というポジションを保ててはいるが、代表内定者がこれでは、ちょっと寂しすぎる。

*5:それまでの輝かしい戦績と比べてしまうと、トリノ五輪以降の彼女の戦績に光るものがなかったのは事実で、特に、まだ勢いが残っていた3季前に地元での世界選手権出場を逃したことと、今年世界選手権に久々に出場しながら、結果を出せなかったのは痛かった。

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