大阪の高校球児の悲劇。

「これじゃまるで、大阪の高校球児だなぁ・・・」と見た瞬間に思ってしまった。

「予備試験の実施方針について(案)」

という司法試験委員会名で出されたペーパー。


ちょうどパブコメにもかかっているものなのだが*1、中身を見ると、当の試験は短答式、論文式、口述式のフルコース。


しかも、短答式から商法、両訴+行政法が科目に入ってくる上に、公務員試験チックな一般教養科目やら英語やら、も漏れなくついてくる。


そして、とどめは“どこで勉強しろと・・・?”という感のある、「法律実務基礎科目」。


受験しなければならない科目の数と、科目ごとに要求される能力水準値(いわゆる“合格ボーダー”)が反比例する、というのは、各種入試・試験のデータによってある程度実証されていることだし、法科大学院→法曹ルートがデフォルトになりつつある今、新たにこのルートに参入してくる受験者層が“激戦”を演出するだけの厚みを持っているのかどうか、ということに疑問を呈する声もあるだろうが、「予備試験」という性格上出口が限られている(おそらく数百人、数千人といった規模にはなりえない)ことや、「年3回」というタイミングにピークを持っていくことの大変さを考えると、決して「楽な試験」にはなりえないのは明らかだと思う。


しかも、クリアした者に与えられるのは「スタートラインに立つ資格」に過ぎず、「合格者」という称号は、更にその先にある・・・と来れば、メンタル的にも相当タフでなければ乗り切れないだろう。


 * * * * *


才能ある球児たちが集う大阪府で、夏の甲子園の切符を掴むためには、ライバル校との激しい予選をくぐりぬけなければならない。


日々厳しい鍛錬を積んでいるにもかかわらず、甲子園に行けるチームはたった一つ。


ゆえに、

大阪府の代表校になるのは、甲子園で勝つより難しい」

というフレーズが良く多用されるわけだが、今回公表された「方針」が実行に移された場合、まさにそのような状況が生じかねないわけで、冒頭の本記事のタイトルのような表現も決して大げさなものではなくなってしまう可能性がある(タイトルはあくまで“喩え”で、これを「静岡のサッカー少年の悲劇」に変えても同じことである)。


もちろん、「予選」が厳しくなればなるほど、「本大会」に向けた調整やピーク合わせが難しくなってくるから*2、「代表」になれたからといって、必ずしも「甲子園で勝つ」ことができるとは限らないのだが、そういったハンディキャップを課すことが、

「予備試験が,法科大学院に行くことができない人にも法曹資格を取得する途を確保するために設けられた趣旨から,それらの人にも,公平に新司法試験の受験資格が与えられるよう配慮する必要がある。」

という制度目的に果たして適うのだろうか?



 * * * * *


本試験を実施する上での物理的制約を考えると、受験者数をある程度絞り込む必要性があることは理解できるが、そのために、異なるパターンの3種の試験を、一年もかけてやる必要はないだろう、というのが筆者の意見である。


人数を効果的に絞り込むのであれば、知識の広がりを満遍なく試すための短答式試験を本試験前年の秋〜冬あたりに一発やれば済む話で、この方式であれば、足切りのボーダーが少々厳しい数字になったとしても、受験者と試験運営者双方にとって、かかる負担は(少なくとも現在の案よりは)少なくて済むはずだ*3


そして、問題が適切に作成されるならば、本試験では、

法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の理念」

を体現したロースクール出身者にアドバンテージがあるはずだから、業界関係者が憂慮するような事態も生じない*4



「悲劇」は美しいが、決して生産的なものではない。


そのことが分かっていれば、無益な労力をかけることも、無益な負担を強いることもなく、真に才能ある人々を選抜することができるはずなのであるが・・・・


ちなみに、野球の話に戻すと、「苦労しても甲子園に出られない(=報われない)」がために、他県に野球留学したり、他の競技に転向したりする野球少年が増えて、大阪の高校野球界が“空洞化”し、代表校が甲子園で勝てなくなった、なんて説も世の中では唱えられているわけで、“野球留学”に匹敵する妙案が思い浮かばないこの業界で何が起きるかは、自明の理ではないか、と思ったりもしている。



パブコメの受付締切日は、「2009年3月6日」。


無駄かもしれないけれど*5、心ある人の声がちょっとでも届くよう願っている。

*1:http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000048782

*2:どんな剛速球投手でも、息が詰まるような試合を夏の暑い最中に連日やっていたらどっかしら調子を崩してしまうし、“宿命のライバル”を倒した時点で気持ちが緩んでしまっても不思議ではないわけで、甲子園に出てくる大阪府代表や、選手権に出てくる静岡県代表が、予選のレベルに相反して本大会で早々と姿を消してしまうことが多い理由も、その辺にあるのではないかと思われる(後述するような“空洞化”も理由の一つには挙げられるだろうが。)。高校野球であれば、継投策や複数のピッチャーのローテーションで消耗を最小限に抑えることもできるが、残念ながら、この種の試験では、科目や日程ごとに受験者を交替するという手段はこれまで認められてこなかったし、この先も永久に認められることはないだろう。

*3:そうでなくても国の財政が厳しい折に、本試験1セット分に相当するようなコストをかけて「予備試験」を実施する、ということの不効率さにももう少し目が向けられて良いと思うのだが・・・。

*4:短答式対策に専念してきた「予備試験組」と「ロースクール組」との能力差を見分けることができないような問題しか作成できないのなら、あるいは、仮にアドバンテージが与えられてもそれに応えられないような学生しか育てることができないのなら、制度ないし教育機関そのものに欠陥がある、といわざるを得ないだろう。

*5:一度公表された政策がパブコメで大きく転換した、なんて話は、たぶん皆無に等しいんじゃないかと思う。

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