「社会的責任のブーメラン現象」

今さら、ではあるのだが、「BUSINESS LAW JOURNAL」の7月号から。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 07月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2010年 07月号 [雑誌]


巻頭言も相変わらず大胆で面白かったのだが(今号は加藤雅信・上智法科大学院教授)、自分が一番印象に残ったのは、シンドラーエレベータの事件などを例に挙げて、

「本来なら刑事責任が追及されるようなケースではないはずですが、それでは世の中が収まらず遺族も許さないということで、最後には法的責任すら免れなくなり、起訴されてしまったわけです。」
「私はこれを「社会的責任のブーメラン現象」と呼んでいます。法的責任を負わないための方策ばかりを考えていると、そこから外れた社会的責任が法的責任としてブーメランのように戻ってきてしまうのです。」
(BLJ28号14頁)

と説く、郷原信郎弁護士のインタビュー記事。


ちょうどインタビューの次のページに「ビジネスコンプライアンス検定」*1の広告が載っているということもあって、“宣伝記事”じゃねえか、という突っ込みも見かけたし、実際そうなのだろうけど、インタビューの内容自体は、自分の最近の感覚にも近く、共感できるところは多い*2


日頃から最近の“何でも刑事罰”的風潮に厳しいコメントを残されている郷原弁護士のこと*3。是非今後も悪しき風潮を是正するための活動に勤しんでいただきたいものだと思う*4


なお、特集の「重要リーガルリスク35」だが、テーマによっては少ないページ数をうまく使って、非常に興味深いトピックで構成されていたりして、なかなか興味深かった*5


ただ、せっかく脂の乗った実務家の先生方を集めて執筆してもらっているのだから、想定する“読み手のレベル”は、テーマをまたいでもう少し統一感を持たせても良かったのではないかと思う*6


あと、BLJという雑誌の特性からして、そもそも一般の弁護士等に記事を依頼する必要があったのかどうか。


身近なリーガルリスクをテーマにするのであれば、社内法務の実務経験が豊富な人々に書いていただく方が、分かりやすく、記事内容の汎用性も高くなったのではないかと思う。


次回以降、同種の企画が立てられるのであれば、そのあたりも合わせて期待したいものである。

*1:郷原弁護士が委員長を務めるサーティファイコンプライアンス検定委員会が主催する検定試験らしい。

*2:「こうした問題(クライシス・マネジメント)は一般の弁護士には向いていない」というコメントも含めて。郷原弁護士が持っていこうとしている方向からは離れてしまうかもしれないが、真の危機下での企業のリスク判断を、企業勤めもしたことがないような弁護士に委ねること自体がそもそも間違っていて、そういう場面では、経験豊富な社内の法務プレイヤーが全身全霊を尽くして対応するか、(次善の策としては)普通の企業組織の中で実績を残してスピンアウトしたような弁護士の協力を仰ぐのがベストだと思う。

*3:小沢幹事長の一件以来、最近何となく党派色が付いて見えてしまうところが残念なのだが・・・。

*4:もっとも、この過剰なまでの“刑事処罰信仰“を是正するためには、民事で懲罰的損害賠償を導入するくらいの劇薬は必要かな、とも思う(それでも、本来、企業全体で負うべき責任を特定の個人にかぶせる刑事処罰の残酷さ&理不尽さに比べれば、企業に多額の賠償責任を負わせる制度設計の方がまだマシだと思う。

*5:特に、青木博通弁理士の記事(商標・意匠・デザイン)などは、さすが!という感がある。

*6:おいおい・・・ってくらい初心者向けの記事があるかと思えば、先端的な論点に飛びこもうとしている記事もあって、その辺の統一感がイマイチ感じられなかった。この種の雑誌の宿命、というべきなのかもしれないけれど。

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