法律雑誌としての立ち位置

債権法改正「中間試案」の座談会が連続で掲載されたこともあって、ここ数か月は、毎月読むことが習慣化している(笑)BLJ誌について。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 08月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 08月号 [雑誌]

「中間試案」に対する誌上座談会に関して言えば、今回は、「今後の改正論議に向けて」というタイトルの下、某マッチポンプ誌の座談会への批判から「こびとのくつや」の話まで、参加している各実務担当者から相当踏み込んだ発言も出てきており、いかにもこの雑誌らしい仕上がりになっている、という印象を受ける。

もちろん、これまで掲載されていた、個別論点に対する分析・検討も、ビジネス系法律雑誌にしては異例の紙幅を割き、実務者にとって気がかりな細かい解釈にまで入り込んだ議論が展開されていた、という点で貴重な資料になっていたと思うのだが、後から出てきたジュリストの特集で、法制審部会委員の先生方をずらっと揃えて、主要な論点について網羅的な議論が掲載されているのと見比べてしまうと、どうしても同じ方向性だけでは難しいなぁ・・・と思うところはあるわけで*1、その意味では、連載の最終回になって、ようやく本来の持ち味を発揮できた、というところなのかもしれない。

(参考)


で、同様に、8月号の中で、「BLJらしさ」が十分に発揮されているのが、「消費者裁判手続特例法のインパクト」というシリーズの第2回(五條操「消費者団体側から見た新制度活用法」68頁)であろう。

何と言っても、ビジネス系の法律雑誌に、適格消費者団体側の弁護士が、思いっきり“自分たちの視点”から書いた記事が掲載されている、というのはそれ自体が貴重なこと。

特に71頁以降の「手続における留意点」や「新制度への懸念等について」といった項では、企業側の実務家から見れば物議をかもしそうなフレーズが、あちこちで登場してくる。

例えば、「仮に第一段階(共通義務確認訴訟)において、義務の存在を争った場合であっても、事業者が情報の開示に積極的かつ適切に協力することを期待している」と述べた上で、注17)で

「事業者にとっても、情報開示に協力せずに消費者の権利行使を妨害したと評価されれば、その後の事業の継続にとって大きなダメージとなるであろう」(71頁)

と、ジャブどころかいきなり本気モードで喧嘩を吹っかけているし、「施行前事案との関係」として、附則2条により施行前の契約が対象とならないこととなったことに対しては、問題点をひとしきり指摘した上で、

「この手続分離による消費者の不満は主として事業者に向かうと予想される。」
「他方、事業者の中には紛争を一回的かつ公平に解決するため、施行前の事案についても新制度の適用を希望する可能性もある。立法論ではあるが、申立団体と事業者の合意により、施行前事案に新制度を適用する余地が制度上残ることを期待している」
(72頁)

と、殴りかかりながら秋波を送る・・・という、極めてややこしいことをやっておられたりもしている*2

↑の注)などでも書いた通り、“敵方”の理屈ゆえ、突っ込みどころを挙げればキリがないのは事実である。

ただ、伝統的法律雑誌にあるような“おすまし”的な記事ではなく、企業実務家という読者を意識しながら、それでもなお筆を走らせた著者の弁護士の勇気と、この原稿をBLJという雑誌に掲載した編集部の英断が、僅か6ページ程度の記事にとてつもない緊張感をもたらしている、ということは、やはり特筆すべきことだろう。


こういった“対角線上にある記事”を、いかに取り上げて、実務にもっとも近い“BLJ”という雑誌の存在意義をいかにアピールしていくのか、というところに、今後、より注目していきたいと思うところである。

*1:本当は、ジュリストに掲載されたような「基調報告」の後に、BLJの過去2回の座談会を持って来ればバランス的には良くなったのだろうけど、先にBLJの座談会の方から読んでしまうと、これまで深く検討してきた人以外は、微妙に“ちんぷんかんぷん”なことになってしまうんじゃないか・・・という懸念もある。

*2:このような見解に対しては、事業者側が勝訴した場合に、(適格消費者団体のみならず)全ての対象消費者に対して既判力や再訴禁止効といった効力が及ぶのであればともかく、そうではなく、事業者が敗訴した場合にしか既判力が生じない、という片面的な制度設計が採用されている以上、いったいどこに「適用を希望する可能性」があるのか、という突っ込みを入れざるを得ない。注21)で指摘されているような「大量の個別訴訟の係属」が施行前事案において実際に生じたとしても、事業者が自ら問題があると感じていればさっさと和解か請求認諾で決着を付ければよいだけの話であり、不用意な判決の効力が幅広く及んでしまうことによるダメージに比べれば、事業者が個別に対応するコストなど大したことはない、と自分は思っている。また、この記事の著者は、附則導入の経緯をあくまで「一部の事業者団体やその意向を受けた専門家の強い意向により実現した」ということにしたいようだが、自分が知る限り、附則2条のような規定を望んでいなかった事業者など、皆無ではないかと思う。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html