リアルな「震災法務」を知るために。

発行されてから、だいぶ時間が経ってしまったが、Twitter等、あちこちの企業法務実務家のネットワークの中で高い評価を受けているBLJ6月号を、ここでご紹介しないわけにはいかない。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 06月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 06月号 [雑誌]

この号の特集はずばり「震災法務」というタイムリーなもの。

もちろん、某ビジネス系大手法律雑誌などは、「震災法務」というテーマで、いくつかの記事をいち早く載せていたし、4月に入ってから、「震災法務」とタイトルに入れたセミナーや、新刊本の案内は絶えることがない。

だが、そういった有象無象の記事やセミナーの中身を吟味すると、

「一般的な法律論(債務不履行論)や手続き関係の話(例えば株主総会関係とか)を、「震災」をおかずにして焼き直しただけ」

といったものが多々混ざっていることは否めない。

言うならば、未曾有の危機勃発を奇貨とした、典型的な「便乗商法」と評されても仕方ないようなものも決して少なくないのである。

強いて善解するなら、実際に執筆やら講演にあたっている方々(多くは弁護士)は、単にクライアント(潜在的クライアントも含む)に対するサービスとして善意で行っているだけで、悪気はないのだろうと思う。

それでも、↑のような評価をせざるを得ないのは、結局、多くの執筆者、講演者が

「現実に大震災という危機を目の前にして、企業実務の最前線で対応に追われる」

という緊迫した経験を、企業側の人間と共有できていないからではないだろうか・・・というのが自分の仮説なのであるが(以上長くなったが前振り(笑))、そんなイライラ感を払拭してくれるのが、今回のBLJに掲載されているいくつかの記事である。

例えば、実際に法務部の中で今回の震災に向き合った読者のアンケートによって構成される「震災対応〜そのとき法務は?」というコーナー。

いち早く個別・具体的に邁進していることが伝わってくるような回答もあれば、「法務」としての関わり方をまだ模索中なのだろうなぁ・・・というのが伝わってくる回答もある。

「今は契約書にどう書いてあるかを言っている場合ではない。全部のことが「真摯に協議」レベルなので、契約書はほぼ無効状態と考えてよい」(19頁)

というアドバイスをした担当者(外食関係)のお話なんかは、状況も含めてじっくり聞いてみたいところだなぁ・・・と思ったりもするのであるが、極限状態での必死の対応としては、十分に心情が理解できるところである。

そして、これに続く、ユニリーバの北島敬之取締役ジェネラルカウンセルの「災害対策における法務部門の役割〜対策チームの立ち上げから復興への道筋」(24頁以下)という稿に書かれている内容がまた素晴らしい。

あちこちで引用されていた

「法務部門としては、何が問題か、その解決方法は何か、といったことを平常時以上に、積極的、能動的に検討する姿勢が求められる。逆に、待っている状態では、存在すら忘れられかねない状況であり、それはその後の復興において、法務部門軽視の風潮が根付きかねない危険を孕んでいると認識すべきであろう。」(26頁)

という言葉の重さはもちろんだが、

「いわゆる壊滅的な状況の中で、法務部門として何ができるのかを考えつくすことは必要である。そのためには、社内のリソースだけでなく、社外のリソース、特に法律事務所や、同業他社または異業種の法務担当者とのネットワークがポイントになるだろう。」
「事業活動は、すべて何らかの法律問題に関わっているということを、今回の震災を通じて再認識した次第である。」
(27頁)

といったフレーズも、非常に共感できるところが多い*1


なお、それ以降の弁護士が執筆した部分については、他誌に掲載されているものと同様の問題があることは否めない。

ただ、一般の雑誌に比べると、遥かに多くの紙幅を割いて一つひとつの記事が書かれている上に、公開されている弁護士会編集のQ&A等をベースとしつつも、それぞれの執筆担当者のオリジナリティが色濃く反映されており、なかなか読みごたえのあるものになっている。

特に、堂島法律事務所の2弁護士が執筆された、取引一般に関するQ&A(38頁以下)と、岩出誠弁護士担当の人事労務に関するQ&A(47頁以下)は、解説の質が良く、使いやすいのではないかな、と思うところである*2

また、中島茂弁護士の執筆箇所の中の、

「一般市民は企業姿勢についてきわめて鋭い嗅覚をもっている。企業の姿勢に「復興特需」で利益優先という姿勢が垣間見えたとしたらたちまちに見抜かれる。その結果、企業のレピュテーションは地に落ちる。そのリスクを考えるのであれば身を慎み、利益の一部を義援金にするくらいの姿勢を持つべきであろう。」(37頁)

というくだりも、(賛否両論あろうが)印象に残るものとなっている。


有意義な特集記事の裏で、“安全地帯”からの論評を業とする某経済紙記者の、実務家の癇に触るようなコメントが掲載されていたり*3、権利者側に立っていると思われる著者による「日本版フェアユース規定」への批判的論稿が掲載されていたり、と変わらずバラエティに富んだ記事で構成されているこの雑誌。

特集の中のアンケートにもあるように、「震災法務」の対応は1ヶ月や2ヶ月で終わるような話ではないから、できれば、継続してこのネタを取り上げ続けてほしいなぁ・・・と思う一方で、他のネタももっと読んでみたい、とも思ってしまうのが悩ましいところである。

*1:その他、細かいポイント指摘が実践的で参考になる。25頁に掲載されている「社内メッセージ」(例)については、最後の2行(「プライベートな件であっても・・・」)が若干引っかかるので、そのままでは使えないけど(笑)。

*2:いずれも手堅い解説で、特に前者は「裁判例が存在する分野」の射程を絞って解説に使っているので、若干かゆいところは残るのだけれど。

*3:「判断基準が私利私欲で曲がっていなければ、緊急時に行政法規を形式違反しても問題にされることはないだろう。問題にされるおそれがあると考えるような人は「正義の人」ではない」というくだり、を読んで、「高説ごもっとも。で、緊急時の行政法規への形式違反が事後的に問題視された時、あなたは体張ってうちの会社守ってくれるんですか?」と思った読者は少なくないことだろう。