プロ野球選手の肖像権管理をめぐる「選手33名対10球団*1」の訴訟が、ついに決着のときを迎えた。
「プロ野球選手が登場するゲームソフトやカードを巡り、選手の肖像権を所属球団が一括管理しているのは不当として、選手29人が球団に肖像権の使用許諾権限がないことの確認を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は16日までに、選手側の上告を退ける決定をした。球団側の権利を認めた一、二審判決が確定した。」(日本経済新聞2010年6月16日付夕刊・第17面)
本件が提訴されたのはちょうど球界再編問題で選手会とオーナー側が厳しく対立した余韻が残っていた時期だったから、当初は本件訴訟がメディア等で取り上げられることも結構多かったし、日本の統一契約書の約定の曖昧さゆえ、契約解釈論の観点からも、さらには、肖像権・パブリシティ権の本質について考える上でも、いろいろと興味深い事例だったのは間違いない。
これまでの判決については、↓のとおり。
第一審判決
東京地判平成18年8月1日(H17(ワ)11826号、民事47部・高部眞規子裁判長)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060801154000.pdf
控訴審判決
知財高判平成20年2月25日(H18(ネ)10072号、第2部・中野哲弘裁判長)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080303104615.pdf
個人的には、先日のNTT年金減額訴訟同様*2、最高裁の判断を見てみたかったケースではあるのだが、いかに細かい論点があるとはいっても*3、実質的には合理的解釈に基づく契約内容の認定が問題となる事件だっただけに、法律審で判断を仰ぐのは難しかったのだろう。
変化の速いプロ野球の世界で、約5年にわたって行われた訴訟。
控訴審の口頭弁論終結時(平成19年12月18日)時点の当事者目録に出てくる選手の中で、今でも同じ球団でプロ野球選手としてシーズンを過ごせている選手は半分いるかどうかだ。
しかも、一部の選手については、法廷での尋問にまで駆り出されるなどの労を負ったにもかかわらず、結局選手会が望んでいたような決着には至らなかった。
だが、それまでなぁなぁでやってきた世界において、訴訟という場でルールの明確化を試みた、というのは決して悪いことではなかったと思うし、肖像権ビジネスにかかわっている利害関係者にとっても、裁判所ではっきりとした判断が示されたのは朗報だったといえるだろう(仮に今回の判断とは逆の結論が出ていたとしても、それはそれで、手続きが明確になる分、メーカー等にとって損はない話だったと思う)。
ゆえに、新しいジャンルの訴訟に果敢に挑んだ選手たち&その代理人には、心より拍手を送りたいと思う*4。
*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100610/1276905005
*3:控訴審の時点での争点は、(1)本件契約条項(統一契約書16条に相当する契約条項)により,選手らの氏名及び肖像の商業的利用権(パブリシティ権)が球団に譲渡され又は独占的に使用許諾されたか,(2)本件契約条項による契約は不合理な附合契約であり民法90条に違反し無効であるか,(3)本件契約条項は一般指定14項の優越的地位の濫用又は13項の拘束条件付取引に当たる行為であって公序良俗に反するか,(4)本件契約条項が一般指定1項2号の共同の取引拒絶に該当し無効であるか、であった。
*4:もちろん一方当事者だけでは訴訟は成り立たないのであって、緻密な論理構成で応戦した被告側代理人の力も、本件訴訟を成り立たせる上では大きかったのだろうと推察する。