またしても日立。

東京地裁で約6300万円の職務発明補償支払を命じる判決が言い渡されたとのこと。

半導体集積回路の大量生産に必要な技術を発明したのに、それに見合う対価を受け取っていないとして、日立製作所の元社員、岡本好彦氏(59)が同社に6億円の支払いを求めた訴訟の判決が23日、東京地裁であり、清水節裁判長は日立に対し約6300万円の支払いを命じた。」(日本経済新聞2010年6月24日付朝刊・第42面)

元々の請求が6億円(一部請求)だから、発明者側にとってはこれでもまだ不満が残るところだろうが*1、会社が発明報奨金として約2200万円という高額の対価を既に支払っている、という事実を踏まえると、会社側担当者にも忸怩たる思いはあるだろう。


職務発明対価は法定補償だから、原告の発明者性が認められ、かつ消滅時効の抗弁をクリアできれば、機械的な算定式に基づいて被告会社側に一定の補償金支払義務が生じることになる*2


したがって、いくら多額の報奨金を支払っていたとしても、裁判所の算定の結果、足りないと判断されれば差額を支払わないといけないことになるわけだが、たかだか数千、数万円しか発明対価が支払われていなかった初期の事件(オリンパスや日亜)ならともかく、既に社内の発明補償制度が整えられ、多額の補償金が既に支払われていたという背景の下で提訴される事件が増えてくると*3、同じような発想で考え続けていくのはどうなのかなぁ、という考え方も当然出てくるところだ。


最近判決まで辿りつく事件の中に*4、今回の日立製作所のような、大手メーカーが被告になっている事件が目立つのも、そういった発想ゆえなのかな、と思うところである*5

*1:記事によれば、裁判所が認定した利益貢献度(4%)に不服があるとして、岡本氏側は控訴の意向を示しているようである。

*2:法的構成の違いはともかく、実態としては、過払い金返還の問題と似ている。それに関連した最近の傾向については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100202/1272739244も参照。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090903/1252210903も参照。

*4:元々二束三文で会社側が特許発明の譲渡を受けていたような事件なら、和解でさっさと決着してしまうだろうから、そうそう判決までは行き着かないだろう。

*5:日立の場合、初期の米澤氏の事件の時から、同じような背景があっただけに、なおさらこだわりが強いのだろうと推察する。

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