ほどほどが大事。

2005年の特許法35条改正が、今となっては遠い記憶のように思える今日この頃ではあるのだが、そんなことはお構いなしに、職務発明対価請求をめぐる紛争を伝える報道は今でも時々出てくる。

武田薬品工業が製造・販売するビタミン剤「アリナミン」の製法特許を巡り,元研究員の男性が大阪地裁に民事訴訟を起こしたことが2日明らかになった。発明時に勤務していた武田薬品に対し,職務発明対価の一部として約5000万円の支払いを求めている。」(日本経済新聞2009年9月3日付朝刊・第13面)

これだけ読むと、普通の対価請求のようにも見えるが、記事を読み進めていくと、だんだん違和感に襲われてくる。

「訴えを起こしたのは,兵庫県宝塚市在住の元研究員の男性(73)。製造工程管理部に在籍していた1966年ビタミンB1成分であるフルスルチアミンから塩酸フルスルチアミンを効率的に回収,生産する製造方法を発明した。この男性によれば,この発明によってアリナミン製品の安定的製造が可能になったという。」
「男性は在職中に社長表彰などで約4万円を受け取り,同社が職務発明に対して支払う実績補償金制度を導入した1998年以降,合計約1500万円を受け取った。」

これが1970年代後半〜80年代位の発明で,かつ最初の4万円くらいしか支払われていない事案であればともかく,40年以上前の発明について、しかも、既に1500万円の支払いを受けているものについて、あらためて補償請求を求めるのはさすがにどうか・・・と思わざるを得ない。


消滅時効の争点に関しては、約1500万円を「本来支払われる対価の一部の支払い」と見れば、時効中断ないし時効利益の放棄と解する余地がないわけではないのだが、武田薬品とて、そんなつもりで追加の補償金を支払ったわけではないだろうし、現に、

「元研究員の職務発明対価は実績補償金制度に基づき,既に支払い済み」

とコメントしているところを見ると、補償金の剰余分がないことを支払い時に明確にしているのではないか、と思うのであるが・・・。


最近の裁判例の動向を十分にキャッチしていないがゆえに、時流を読み違えているところもあるかもしれないが、個人的には何事もほどほどが良いのではないかと思う。

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