「チョコボール」闘争

巷で報道される「商標」絡みの事件を見ていると、何で今さら・・・というものが時々出てきたりするのだが、↓のニュースに接した時も同じような印象を受けた。

「森永製菓(東京)がロングセラーのチョコレート菓子「チョコボール」の商標権を侵害されたとして、名糖産業名古屋市)にアイスクリーム「徳用チョコボール」の販売差し止めや6千万円の損害賠償などを求め東京地裁に提訴したことが17日、分かった。」(日本経済新聞2011年2月18日付け夕刊・第15面)

「何で今さらチョコボールで・・・?」というのが、多くの読者の率直な感想だろう。

なんといっても、1960年代から発売されている定番商品の名称だけに、森永に無断で使う方も使う方だし、発売から50年近く経って訴える方も訴える方だ、という思いがよぎった方も多いのではないだろうか。

だが、よく調べて見ると、事情はいろいろと複雑なようだ。

まず、訴えられた名糖産業側の事情。

記事にもあるように、同社は、

「59年から「チョコボール」という商品名を使用している」

ということだから、当然先使用権の主張が考えられるところで、「(森永の)商標登録出願の際に現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」という要件を満たせば、「継続して」使用する限りにおいて、引き続き名糖産業が「(徳用)チョコボール」の名称を使うことも許されることになる。

最近、アイスなんてあまり買わないので、名糖産業の販路がどこまで広がっているのか詳しいことを自分は良く知らないのだが、同社は東証1部の堂々たる大企業であるし、「徳用チョコボール」は、同社のHP上の商品ラインナップの中にも、堂々と掲げられている商品であるから(http://www5.mediagalaxy.co.jp/meito/products/ice.html)、少なくとも需要者に全く認識されていない、ということはないだろうと思う。


そして、訴えた森永側の事情はもっと複雑であるように見える。

今回の訴訟で使われている商標は、「チョコボール」(標準文字、登録第5149690号)だと思われるのだが、この商標が出願されたのは、名称統一から実に35年も経過した平成16年5月25日。

しかも平成17年6月7日付けで、いったん拒絶査定まで食らい、拒絶査定不服審判(不服2005-12900)を経て、ようやく平成20年7月11日に登録された、という経過がある。

拒絶不服審判で、特許庁審判部は、

「本願商標は、指定商品との関係において『ボール状のチョコレート菓子』を想起させる『チョコボール』の文字を書してなるから、これをその指定商品に使用しても、単に商品の品質・形状を表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。また、本願商標と提出に係る使用商標とは、いずれも構成を異にするものであり、本願商標が使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識するに至ったものとは認めることができないから、同法第3条第2項の要件を具備しない。」

という拒絶査定における拒絶理由について、「商標法3条1項3号」該当性の部分は支持しつつも(品質、形状の表示に過ぎない、とした)、

「請求人の提出に係る甲第38号証の1及び甲第42号証の1等によれば、請求人は、昭和46年頃から現在に至るまで本願商標をその指定商品について多年に亘り使用してきたことが認められる。そして、甲第37号証の広告計画書及び甲第41号証のテレビコマーシャル表示画面等のテレビを用いた広告宣伝、甲第38号証及び甲第40号証の商品の一覧表及びパンフレットを用いた広告宣伝、甲第42号証の各種雑誌を用いた広告宣伝、甲第67号証の各株式会社の証明書等及びその他の証拠を総合勘案すれば、本願商標は、昭和46年頃より継続して補正後の指定商品「チョコレートを使用した菓子」に使用された結果、現在においては、需要者が請求人(出願人)の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認め得るところである。」
「なお、原審説示のとおり、本願商標は、標準文字で表してなり、使用商標と相違する場合があるとしても、請求人提出にかかる証拠を精査してみると、商品の包装容器と認められる写真、画像の大抵のものは、「チョコ」及び「ボール」の文字を上下2段にややデザインされた太文字で横書きしてなるものであるところ、甲第38号証、甲第40号証には、本願商標と同一視できる商標を使用した包装容器の写真、画像及びパンフレットに印刷した活字が認められること、また、印刷物、インターネット上で表示される際には、使用する活字、文字フォントによって表示される商標が相違する場合があること、並びに、請求人の商品に係る「チョコボール」のテレビコマーシャルは、視聴者に「チョコボール」の音声が印象的に記憶に残るものであること等を総合勘案すれば、使用商標と本願商標とは同一の範囲の商標と認められる。」

と述べ、商標法3条2項の要件を具備している、として、森永商標の登録を認めた。

だが、このような登録に至る経緯が、「チョコボール」という名称の本来的な識別力の弱さを露呈してしまったわけで、名称の使用開始から40年近く、シンプルな形で商標を取得することができなかった*1理由も、そこにあったのは間違いない*2

そんな自分たちのブランドの一番の“弱み”を痛いほど分かっているはずの森永製菓側が、

「2009年に初めて存在を知った」

などというとぼけたコメントを残して提起した今回の訴訟*3

一部上場企業同士のガチンコ対決、という点もさることながら、
森永側が苦労して「権利」を手に入れた自社の看板商品の名称をどうやって守るのか(一歩間違えると墓穴を掘りかねない状況で)、この先の訴訟戦術には一見の余地がある、と思っている。

*1:キョロちゃんマークとセットのパッケージデザインについては、平成8年の時点で商標登録を確保しているのだが。

*2:おそらく過去に何度か出願して拒まれていたか、あるいは登録拒絶が確実、という状況に鑑み、敢えて出願を回避していたものと思われる。

*3:競争の激しい食品業界のこと。商標権を取得する前から、不競法等を活用したブランド管理、警告対応等は当然にやっていたはずだから、「徳用・・・」だって知らなかったはずはあるまい。商標の区分で言えば同じカテゴリーに入るが、不競法の類似商品というには若干違和感が残る「チョコレート菓子」と「アイスクリーム」(値段もだいぶ違うし、店舗で扱っている場所も違う。)という違いを考えると、このタイミングで提訴したこと自体は理解できるのだけれど・・・。