企業結合審査手続&審査基準の見直し案

先日、日経紙の報道を受けて当ブログでも紹介していた*1、企業結合審査制度の見直しだが、公取委が早々と見直し案をまとめ、パブリックコメントにかけることになった。

題して「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し案に対する意見募集について」。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/11.march/11030402.pdf

事前に報道でも予告されていた「事前相談制度」については、

1 審査手続関係
(1)事前相談の位置付けの見直し
「これまで,当委員会は,具体的な企業結合計画に関し,届出が行われる前に,当該計画が独占禁止法の規定に照らして問題があるか否かについての相談(以下「事前相談」といいます。)があった場合には,「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」(平成14年12月11日公正取引委員会)に則って対応し,独占禁止法上の判断を回答してきましたが,欧米競争当局においては,事前相談では最終的な判断を行わないこと,平成21年の独占禁止法改正法(平成22年1月施行)により,株式取得についても他の企業結合(合併等)と同様に事後報告義務から事前届出義務に改められたため,事前に当委員会の判断を得るという現行の事前相談の意義が低下したこと等に鑑みて,届出を要する企業結合計画に対する独占禁止法上の判断は,届出後の手続において示すこととするとともに,届出会社が希望する場合には,届出を行う前に,届出書の記載方法等に関する相談(以下「届出前相談」といいます。)を行うことができることとし,迅速性及び国際的整合性の向上を図ることとしました。」

とされている。

改革案公表を報じる日経紙の紙面*2には、石田英遠弁護士のコメントが掲載されており、そこでは、

公取委からひそかにOKをもらいたい企業もいるので、事前相談制度も併存した方が良かった。法定審査だけになることで、ガチガチした(ルールを厳密に順守した)審査になるだろう。むしろ期間が長引くケースもあるのではないか。」

という意見が示されていることからもわかるように、実務者レベルでは「事前相談制度」の廃止は必ずしも全面的賛同を得るには至っていないから、パブリックコメントでもそれなりに厳しい意見が飛び出すことが予想されるだろうが、それでも公取委は自らの方針に沿ったルール変更をやり遂げることができるのか・・・。ここは一つ注目しておきたいところである。


なお、公取委のペーパーを読む限り、実際に「届出」をするまでは独禁法上の判断を示すことはない、という趣旨での制度変更のようだが、「届出前相談」という制度も一応は残しておくようである。

あくまで「記載方法等」に関する相談という位置づけだから、「独禁法上どうかなんて聞かれたって答えねーよ、ぷん」(ややツンデレ系)という建前なのだろうけど、もしかするとそのうちに「等」の部分が広がっていく可能性もあるんじゃないかな・・・と思ってしまうのは、勘ぐり過ぎだろうか。


ちなみに、「審査手続関係」の変更にはまだ続きがあり、

(2)届出会社と当委員会とのコミュニケーションの充実
「届出会社と当委員会とのコミュニケーションを充実させ,企業結合審査の予見可能性の向上を図るため,次のとおり手続を整備することとします。」
ア 届出会社に報告等の要請を行う際には,その報告等を求める趣旨について報告等要請書の中に記載することとします。
イ 審査期間(届出書を受理した日から排除措置命令前の通知〔以下「事前通知」といいます。〕又は事前通知をしない旨の通知を行う日までの期間をいいます。以下同じ。)において,届出会社から求めがあった場合又は必要がある場合には,当委員会は,その時点における企業結合審査の論点等について説明することとします。
ウ 届出会社は,審査期間において,いつでも当委員会に対し意見書又は必要と考える資料の提出(問題解消措置の申出を含みます。)ができることを明らかにします。

(3) 企業結合審査の終了時の手続の整備
「企業結合審査の迅速性,透明性及び予見可能性の向上を図るため,企業結合審査の終了時の手続を次のとおり整備することとします。」
独占禁止法上問題がなく,報告等の要請を行わない案件について,事前通知をしない旨を書面で通知することとします。
イ 当委員会が報告等の要請を行った案件について,独占禁止法上問題がないと判断したときは,届出会社に対し,事前通知をしない旨を書面で通知し,審査結果について,その理由も含め説明することとします。また,そのような案件については,原則として公表することとします。
ウ 報告等の要請を行う前の段階で届出会社が問題解消措置を採ることを前提に当委員会が独占禁止法上問題がないと判断した案件など,他の事業者の参考となるものについては,報告等の要請を行っていなくても審査結果を公表することとします。
エ 禁止期間(届出受理の日から30日を経過するまでの期間をいいます。以下同じ。)の短縮を認める場合を拡大することとします。具体的には,届出会社から禁止期間の短縮の申出があった場合であって,当委員会が当該案件について独占禁止法上問題がないと判断したときは,速やかに事前通知をしない旨の通知(前記ア)をするとともに,禁止期間を短縮することとします。

と続く。

強力な権限を持つ規制当局に「コミュニケーション」と言われても、困惑してしまう企業がほとんどだろうが(笑)、うまく機能すれば、これまでに比べて当局側の意図や、審査結果の理由等を届出会社側が把握しやすくなり、いつになったら終わるのか(走り出していいのかどうか)という判断も付けやすくなるのは間違いないところ。

後半の「2 審査基準関係」については、

企業結合審査の予見可能性の向上を図るため,次のとおり「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日公正取引委員会)を一部改正することとします。

ということで、具体的な指針の改正案そのものは、まだ示されていないから(改正の方向性は示されているが)、それが出るまでどうなるかは分からないのだが、“新日鉄ショック”もあってか、当局も少しずつ企業側の声に応えようとしているのは分かるから、ここは一応評価すべきだろうか。

いくら審査手続きをいじっても、実体面での公取委の判断基準が変わらないことには何ら意味がないと思うだけに、今後のさらなる当局の動きに、注目してみたいと思っている。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110219/1298711863

*2:2011年3月5日付け朝刊・第5面

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