入試問題ネット投稿事件の不可解さ

今週に入ってからほぼ1週間丸々、ニュースを賑わせ続けた、「京都大学入試問題ネット投稿」事件。
3日になって、遂に仙台市の19歳予備校生が偽計業務妨害の疑いで逮捕されるに至り、“祭り”は一つの決着を見た。

件の予備校生にとって不運だったのは、この一週間がちょうど“ニュース日照り”のような状況だったこと。

大相撲の八百長問題は、もうみんないい加減飽き飽き・・・という状況になっていたし、民主党内のゴタゴタも昨年来から続いている話だから、ニュースとしての価値は高くない。本当はリビアバーレーンの情勢がもっと伝えられてしかるべきだったのだろうけど、所詮今の日本メディアにそんな気概も力量もないわけで・・・

結果として、何となく身近で耳目も引き付けやすい“入試カンニング疑惑”が一番ホットなニュースになってしまった。


京都府警の逮捕容疑は「偽計業務妨害」ということで、テレビに出てくる識者の中にも当然のように“今回の行為は偽計業務妨害にあたる”と発言している者がいるようだが、“替え玉受験”ならともかく、“受験中の者が自分の記憶以外のものに頼る”タイプのカンニングが、偽計業務妨害罪の構成要件(刑法233条後段)に該当する、なんてことを積極的に肯定するような議論は、これまで皆無に等しかったはず*1

また、単なる“カンニング”の部分ではなく、“匿名で試験中にインターネットに問題を投稿した”という部分に注目するとしても、大学側が主張し、捜査当局もおそらく逮捕状請求の根拠としたであろう「業務が妨害された事実」(犯人探しのための答案チェックや、外部からの問い合わせ、マスコミ取材等への対応に、大学当局が多大な労力を費やしていること)と、予備校生が用いた「偽計」が結びつくのかどうか、に大きな疑問がある。

予備校生は、単に「正答を知りたい」と思って投稿をしただけで、それが結果としてこんな大騒ぎになるなんて想像もしていなかったはず。そして、それは予備校生の単純な思い込みではなく、冷静に考えればそう考えるのが当然(世の中が必要以上に大騒ぎし過ぎただけ)なのだから、業務の妨害に向けられた故意があるといえるかすら疑わしい。

結局、世論の食いつきがあまりに凄かったがゆえに、強制捜査権限を発動してでも、「犯人」を突き止めなくてはならなくなってしまった、そして、そのために「偽計業務妨害」という“借り物”の罪名を使った、というのが実際のところではなかろうか。


正直、限られた試験時間の中で、試験問題を携帯電話で入力して送信する暇があったら(しかも試験官の目を盗みながら、だから、普通に打つ場合以上に時間がかかると思われる)、自分の頭で解いた方がよっぽど点数を獲れる確率は高まると思う。

何だかんだ言って、センターの足切りを一応突破できるレベルの受験生なわけだし、「入試問題を解くことにかけて」それ以上の能力を持った人間が、たまたまネットの投稿欄を見ていて、「合否を分けるような重要な問題」に対して、試験時間内にまともな回答を返してくれる可能性なんてほとんどないのだから・・・。


おそらく、本人はセンター試験で失敗して(正確に言えば、「失敗した」と思いこんで)、冷静さを失った状態で本番の試験に臨んでいたのだろう。

それゆえ、リスクが大きい割に見返りは少ない、「試験問題のネット投稿」という暴挙に出て、すべてを失うことになってしまった*2

未成年ということもあるし、家裁送致されても保護処分まで課される可能性は少ないと思うが、これ以上彼の人生が翳らないことを、今はただ願うのみである。

*1:西田教授のような否定説の方が、むしろ有力だったのではないかと思う。

*2:既に合格していた大学についても、合格取り消しは免れえないだろうから・・・。

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