まさかの抗告却下

昨年、大法廷回付が決定され、もしやの判例変更?という期待を持たせてくれた「非嫡出子相続分」をめぐる遺産分割審判に係る特別抗告審。

本ブログでも紹介した事件だったのだが*1、「和解成立に伴い抗告却下」というまさかの結末となってしまった。

数日前、新聞紙上でそのニュースを見た時は、「遺産分割」という“利益紛争”ゆえ、やむを得ない選択だったのかなぁ・・・と漠然と思ったのであるが、後日公表された決定文を見ると、「まさか・・・」が増幅されるような思いに駆られてしまう。

以下、簡単にご紹介することにしたい。

最三小決平成23年3月9日(H21(ク)1027号)*2

本件は、被相続人の嫡出子である相手方が、非嫡出子である抗告人に対してい遺産分割審判を申し立てた事件であり、抗告理由は、「民法900条4号ただし書の規定が憲法14条1項等に違反する」というものであった。

元々の紛争が「遺産分割」であるから、通常であれば多少の論点はあっても、法律論でゴリゴリと争うよりも、任意の話し合い等を経る中で、経済的な利益調整を行って妥協することの方が多いし、本件のように、民法上明確な明文規定が置かれている(憲法適合性をめぐる議論はあれど・・・)領域が争点となっている場合、リスクを冒して争うより、交渉を経て「2分の1」からちょっとでも上積みを図る方に当事者及びその代理人の関心は向きがちである。

それゆえ、最高裁まで争われた本件は、レアケースと言うべき事例だったし、大法廷回付まで勝ち取ったとなれば、なおさら注目されるところであった。

だが、大法廷回付、を契機に事態は思わぬ方向に展開する。

「本件は,当小法廷から大法廷に回付され,大法廷において弁論期日を指定するために,相手方と連絡を取ったところ,相手方は,本件抗告がされた後に,抗告人との間でAの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争を全面的に解決する旨の和解が成立しており,本件抗告事件は終了しているはずであると申し立てた。」(1頁)

と、和解を理由とする抗告の適法性という争点が急遽浮上してきてしまったのである。

認定された和解に至るまでの経緯は、代理人たる弁護士としての視点で見ると、実に寒々しい。

(1)抗告人は,抗告代理人弁護士に委任して本件抗告を申し立てたものの,争いを続けるよりも本件を早期に解決した方がよいと考え,抗告代理人弁護士に相談することなく,相手方との間で直接和解交渉を行い,平成22年6月頃,相手方が支払う代償金の額を原決定が定めた867万0499円から増額し,1050万円とするなどの合意をし(以下「本件和解」という。),相手方は,同月7日頃,抗告人に対し,本件和解の履行として,原々審判別紙遺産目録(略)記載の定期預金につき,所要の手続を執った上,その預金通帳(預金額1000万円)を交付するとともに,現金50万円を交付した。本件和解に際し,抗告人は,これが成立しても本件抗告を維持するなどの発言をすることはなく,相手方は,本件和解によって本件抗告事件は終了するものと考えていた。
(2) 抗告人は,平成22年7月,抗告代理人弁護士から本件が大法廷に回付された旨の連絡を受けた際,同弁護士に対し,初めて,相手方との間で和解が成立し,和解の履行として代償金も既に受領した旨を告げたが,本件抗告が取り下げられることはなかった。本件和解が成立したにもかかわらず本件抗告を維持することにつき,合理的な理由があることはうかがわれない。

気合を入れて抗告理由を起案し、大法廷回付の知らせを聞いて、胸を躍らせていた(?)かもしれない代理人が、依頼者から「和解した」という話を聞かされた時の落胆はいかばかりだったか、察するにあまりある。

代理人としては、「合理的な理由はない」と言われながら、それでも大法廷での判断を得ようと、頑張ってみたのだろう。

だが、その努力もむなしく、以下のような理由で、抗告はあえなく却下された。

「本件和解は,Aの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争につき,原決定を前提とした上,相手方が支払う代償金を増額することなどを合意してこれを全面的に解決する趣旨に出たものであることは明らかであって,抗告人において本件抗告事件を終了させることをその合意内容に含むものであったというべきである。仮に,抗告人が,本件抗告の結果,自らの主張が容れられる可能性の程度につき見通しを誤っていたとしても,本件和解が錯誤により無効になる余地はない。そして,抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には,当該抗告は,抗告の利益を欠くに至るものというべきであるから,本件抗告は,本件和解が成立したことによって,その利益を欠き,不適法として却下を免れない。」(2頁)

代理人を介さなくても、原決定を200万円近く上回る遺産を手に入れることができる決着になったのだから、一概にこれが悪い結末だ、ということはできないだろう。

もちろん、大法廷に回付されて「2分の1」条項が違憲と判断されれば、原決定の倍の遺産を手に入れられた可能性はあったのだが、少なくとも本人が和解の話をしている時は、そんな話は出ていなかったのだろうから、後付けで“判断ミス”と言ったところで始まらない*3

ただ、上級審でひっくり返すことがいかに難しいか、ということは、法曹であれば誰でもわかってることだけに、代理人の立場で見たら、やっぱり切ないなぁ・・・と思ってしまう、そんな結末である。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100710/1278805850

*2:第三小法廷・那須弘平裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110314134519.pdf

*3:仮に、大法廷に回ることなく抗告棄却されれば、和解で加算された200万円を抗告人が手に入れることもなかった。