巧妙なブランド戦略。

以前、興味深い事例として紹介していた「ミッフィー対キャシー」、という“ウサギの戦い”事件。
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101021/1287884249

少なくとも我が国の著作権法に則って判断するなら、何ら著作権侵害の問題は生じないであろう、と思われる事案であったが、その後、オランダの裁判所は、オランダの著作権者側の仮処分命令申立を認容。

異議を申し立てたサンリオとの間で、泥沼の戦いにもつれ込むか・・・と思われていた。

だが、この日の新聞では、あっと驚くような「決着劇」が報じられている。

「サンリオは7日、「ミッフィー」の著作権を管理するオランダ企業メルシス社(アムステルダム)との訴訟で和解したと発表した。」
「メルシス社は東日本大震災を受けて、「今後の裁判にかかる諸費用は義援金として寄付すべき」とサンリオに提案。両社は訴えを取り下げ共同で約1750万円を被災地に寄付することを決めた。」
日本経済新聞2011年6月8日付け朝刊・第34面)

サンリオ社のホームページ(http://www.sanrio.co.jp/corporate/release/detail/382)には、2匹のウサギが仲良く並んだイラストとともに、

「サンリオとメルシスの両社は日本の人々の思いと共にあります。サンリオ、メルシス、ディック・ブルーナは3月11日の東日本大震災の犠牲者の皆様に深く哀悼の意を表するとともに、被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。このような情況を鑑みメルシスとサンリオは訴訟を行うことにより費やす両社の諸費用をむしろ日本の復旧・復興のために寄付すべきであるという結論に至りました。そのような考えからメルシスとサンリオは、和解することといたしました。なお、サンリオは自らの意思により、既に、2009年11月以降、キャラクター「キャシー」を新たに企画される製品(ライセンス製品を含む)に使用しておりません。」
「さらにメルシスとサンリオはお互いのキャラクターを相互に尊重する立場を堅持してまいります。係争中のすべての訴訟を取り下げ、メルシスとサンリオは共同で15万ユーロ(約1,750万円)を東日本大震災への義援金として寄付いたします。」

というメッセージが掲載されている。

おそらくメルシス社のHPにも同様の告知がなされていることだろう。
まるで漫画かドラマのような、美しいハッピーエンドだ。



だが、ちょっと考えて見れば、そんなにきれいな話ではない、ということはすぐに分かるだろう。

キャラクタービジネスにとって、“係争中”という言葉は決して良い影響をもたらすフレーズではない。
現実にオランダで差し止めを食らってしまったサンリオの側はもちろん、著作権者(ディック・ブルーナ氏)やメルシス社側にとっても、「サンリオを訴えた会社」というイメージが定着することは日本でのビジネスに響く可能性があるし、本訴で仮に逆転敗訴するようなことになれば、目も当てられないことになる*1

サンリオがあっさり引けば、すんなり片付くはずだった本件も、サンリオが本格的な反撃の構えを見せたことで、権利者の皮算用は大いに狂ってしまった。

要は、本件は、お互いにとって長引かせずに決着させられるならそれでいい、という状況に陥っていたのであって、それを終わらせる理由は、大震災だろうが、「今年はウサギ年だから」というこじつけであろうが*2、何でも良かったのであろう。


結果的に、双方が訴えを取り下げる代わりに、被災地に寄付を行う、という異例の解決手法を取ったことが報じられて以降、ネット上では両者の“粋な判断”に対する称賛の声が飛び交っている。

取り下げに際しては、もしかすると、記事になっていない何らかの取引的合意がなされている可能性もあるのだが、そんなことも“美談”の前では、些細な話として看過されてしまうわけで、まさに“災い転じて福となす”というフレーズを地で行くような話。

さすが、長年受け継がれるブランドで勝負している会社は違うなぁ・・・と感じた次第である。


ちなみに、最近震災当日のオリエンタルランドTDL)の対応がやたらメディアで褒めそやされていたりするのも、危機をブランドイメージ強化につなげることに長けた老舗のなせる業(巧妙なメディア戦略)なのかなぁ・・・と、いろいろ考えさせられるところが多いのであるが*3、その話はまた次の機会に。

*1:ちなみに、サンリオのHPには、サンリオ側が反撃手段として「ミッフィー」の商標権取消訴訟を提起した、とあるが、これはどういう戦略だったのか、個人的には興味があるところ。

*2:残念ながらオランダ人には、十二支に則った発想は十分に理解されないだろうけど(笑)。

*3:当日休暇をとってTDLに行っていた同僚の話なんかを聞くと、現場での全然違う姿が見えてきたりもするのだけれど・・・。

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