“自炊”騒動・秋の陣

昨年末の「自炊の森」騒動あたりから*1、一部のマニア層だけでなく、著作権業界でも広く話題になっている“自炊”代行サービス。

最近の議論では、今年の1月に出された「ロクラク最高裁判決などを受けて、ブックスキャンサービスの工程を

(1)書籍の購入
(2)書籍の裁断
(3)スキャナーを用いた裁断済み書籍のデジタルデータ化

に分割し、事業者が(2)と(3)を行っているだけであれば(利用者が自分の本を持ちこむタイプのサービスであれば)、事業者が複製主体とされることはないが(1)〜(3)をすべて事業者が行うのであれば(事業者が購入して用意した裁断済みの書籍を対象に利用者がスキャンを依頼するというタイプのサービスであれば)、

「複製の主体は事業者であり、同サービスは私的複製の範囲内とはいえず、著作権を侵害するサービスであるとされる可能性もある」

とするものも出てきており*2、あらゆるタイプの自炊代行業者(ブックスキャン代行業者)が、複製権侵害という違法行為を行っている、と断じるのは、ちょっと躊躇される状況だと思うのだが、そんなさなか、権利者側からの強烈なアピールが出された。

自炊代行業者側に送られた「質問書」と題する書面の内容については、既に一部のサイトに掲載されているが*3、それを見ると、

(質問1)
 スキャン事業を行っている多くの業者は、インターネット上で公開されている注意事項において、「著作権者の許可を得た書籍のみ発注を受け付ける」「発注された書籍は著作権者の許可を得たものとみなす」などの定めをおいています。
 差出人作家は、自身の作品につき、貴社の事業及びその利用をいずれも許諾しておらず、権利者への正しい還元の仕組みができるまでは許諾を検討する予定もないことを、本書で通知します。
 かかる通知にもかかわらず、貴社は今後、差出人作家の作品について、依頼があればスキャン事業を行うご予定でしょうか。
(質問2)
(1)貴社はスキャン事業の発注を受け付けるに際して、依頼者が実際に私的利用を目的としているか否かを、どのような方法で確認しておられるのでしょうか。
(2)貴社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じていますか。

と、婉曲な言い回しながら、答え方一つで喉元をかききってやろう、と言わんばかりの強烈なものとなっている。

「質問1」に関して言えば、いかに「注意事項」の中に「著作権者の許可」云々が入っていても、本来違法ではないサービス(利用者の私的複製の範囲内で行われているサービス)であれば、それは予防的なものに過ぎない、ということができるだろうし、著作権者が明示的に許諾しない意向を示したからといって、適法な行為が違法になるわけではない*4から、堂々と「行います」と答えたとしても、法的に問題ない、という業者は多いだろう*5

ただ、「質問2」については、突かれるとちょっと痛いところもあり、多くの事業者は難しい対応を迫られるのではなかろうか。


「技術的に可能になった」というだけで、「できないのはおかしい!」という方向へ飛んでしまうような議論は、自分は好きではないし、「正式な電子版が流通しないうちはこういうサービスが必要」という議論も、著作権者に「いかなる形で複製し流通させるか」を決定する権利を専属させている今の著作権法制度を尊重する限り、成り立たない議論ではあると思うのだけれど、「電子化」という大きな世の中の流れの中で、新たに登場したサービスを何でもかんでも叩こうとする権利者側の姿勢が、進歩的、かつこれからの時代の有力な購買層となるであろう人々の目にどう映るか、ということを考えると、こういう過激なやり方を支持する気にもなれない。

強烈な「質問状」とともに幕を開けた、“自炊騒動”秋の陣。

自炊代行業者に対して“闘争路線”に転じた権利者側が、今後どういった動きを見せるのか、そして、力のある業者側がそれにどう抗するのかに注目しつつも、ちょっとやり切れない思いになる今日この頃である*6

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101229/1293642664

*2:小坂準記=金子剛大「まねきTV・ロクラク2事件最高裁判決にみるコンテンツビジネスの諸問題」L&T52号60頁(2011年)

*3:例えば、http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1109/06/news064.htmlなど。

*4:「私的複製」であれば、そもそも初めから著作権者の許諾など必要ないのだから。

*5:今後権利者サイドからの激しい攻撃に晒されるリスクが生じることに鑑みれば、わざわざそんなふうに挑発的に振る舞う業者はそう多くはないだろうけど。

*6:個人的には、「本」というのは、その“かたち”そのものに価値がある、と思っているので、自分がブックスキャンに手を出すことは当分ないだろうと思っているのだけれど、他の人々にニーズがあるならそれを叶えるビジネスは、尊重されてしかるべきだろう、とも思うところでもあるので・・・。

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