「14人の大法廷」がもたらすもの

先日大法廷回付が明らかになった「一票の格差」訴訟だが*1、出だしから波乱の兆候を見せている。

「昨年8月の衆院選での1票の格差が違憲かどうかを巡り、最高裁大法廷で審理される9件の訴訟のうち、一審が高松高裁だった1件について、裁判長を務めるはずだった竹崎博允最高裁長官が審理から外れることになった。被告の香川県選挙管理委員会の竹崎克彦委員長(百十四銀行会長)が長官の実兄のため。」(日本経済新聞2010年9月16日付朝刊・第38面)

裁判官の回避に関する規定(民事訴訟規則第12条)は、

「裁判官は、法第23条(裁判官の除斥)第1項又は第24条(裁判官の忌避)第1項に規定する場合には、監督権を有する裁判所の許可を得て、回避することができる。」

と定めている。そして、第23条第1項の除斥事由として、

2.裁判官が当事者の4親等内の血族、3親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。

というのがあるから(2号)、これに鑑みて竹崎長官は自ら回避した、というのが空気を読んだ解釈、ということになりそうだ。


「当事者」といっても、主体はあくまで「香川県選挙管理委員会」であり、長官の実兄はあくまでその代表者(委員長)という存在に過ぎないのであるから、規定の趣旨からして、これを除斥事由にあたると解する必要はない、という見解も示されているようだし*2、そうだとすれば忌避申し立てが認められるような状況でもないから、そこまで神経質にならなくても、と思うのであるが、如何せん原告側にも強力な代理人が揃っているだけに、少しでも付け込まれる要素を減らしたかった、ということなのだろう。


で、興味深いのは、これにより、原審・高松高裁の事件について、どのような判断が下されることになるのか、ということ。


4増4減」の定数配分変更が行われた直後の参議院選挙でさえ、反対意見を書いた裁判官が5名、多数意見に対して懐疑的な補足意見を書いた裁判官が4名、というのが昨年の大法廷における状況だった*3


そして、今回は参議院のような特殊性を勘案しづらく、かつ、4年間丸々区割り改正等の動きがなかった状況の下で行われた衆議院選挙の有効性が争われている訴訟である。


下級審で次々と違憲判断が下され、竹崎長官が回避した「原審・高松高裁」の事件でも「違憲状態」との判断が下されている中で、これまで反対意見にも、懐疑的補足意見にも与することなく、淡々と多数意見を支持してきた竹崎長官の「1票」がなくなる、ということが、「14人の大法廷」の判断にどのような影響を与えるのか?


今回も、裁判官1人の差で多数意見と反対意見の比率が変わるような微妙な状況にはならないと思うし、そもそも結論として選挙そのものが無効となるような事態は到底考えにくいのだが、それでも、示される結果がよりショッキングに映るものになる可能性はある。


いずれ出される判決に向けて、これで、今後の動きからますます目が離せなくなったのは間違いない。

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