蘇った興奮〜「著作権研究」第39号を読んで。

最近、じっくりと何かを読む、という時間を確保することに四苦八苦していて、特に実務から距離のある“学問的な”香りのするものに接するのは、どうしても後回しになりがち*1

なので、著作権法学会の学会誌である「著作権研究」、という極めて貴重な文献にもなかなか目を通せずじまいで、今年の初めくらいに出た第38号も、つい最近目を通したばかり、という有様であった*2

だが、つい最近世に出た「著作権研究」第39号は、表紙の掲載内容を見た瞬間に、手に取って開かずにはいられなかった。

著作権研究 第39号

著作権研究 第39号

2012年の著作権法学会で行われた「著作権法の将来像と政策形成」というタイトルのシンポジウムは、米国や欧州の「著作権リフォーム」の動きを取りあげつつ、我が国における著作権法領域の政策形成について将来像を模索する、という極めて先端的な内容であり、豪華パネリスト陣の中身の濃い発表と、例年にないほどのフロアからの活発な質疑応答の熱気が相まって、非常に刺激的なものだった、ということを、今でも鮮烈に思い出す*3

早いもので、あれからもう2年経ってしまったのだが、「著作権研究」第39号には、パネリストの方々の論稿と当時の討論の再現稿が収められていて、あの時の感動が見事なまでに蘇ってくる。

椙山敬士弁護士の論稿*4や、大須賀滋判事の論稿*5を拝読していると、前年の学会に引き続き、まだ当時、「まねきTV」や「ロクラク2」最高裁判決のインパクトが、多くの関係者に強い影響を与えていたことを思い起こさせるし、上野達弘教授の論稿*6(50〜52頁)や、田村善之教授の論稿*7(119〜120頁)、そして、当日の討論の書き起こしからは、当時(というか今でも?)の学会を平成24年著作権法改正(新たな権利制限規定創設)への失望ムードが強く覆っていたことを、思い起こさせてくれる。

そして、中山信弘教授はじめ、フロアから発言する先生方の「リフォーム」に向けた前向きな言葉の数々・・・。

あの時から少し時間が経っていることもあって、京俊介准教授が、学会でのシンポジウムの際にはまだ踏み込んでいなかった平成24年著作権法改正に関して、自らのモデルに基づいて分析を加えた稿を加筆されるなど(79〜82頁)*8、より一歩進んだ議論がここには描かれているのだが、何と言っても気になるのは、学会当時紹介された、「米国における著作権リフォーム」(石新智規弁護士)や「ヨーロッパにおける著作権リフォーム」(上野達弘教授)のその後の進展がどうなっているのか、ということと、我が国の「著作権法のあり方」に対して当時示されていた問題意識が、未だ政策形成過程に十分取り入れられているようには見えない、ということだろうか。

「企業内複製」を一例に挙げながら、政策形成過程の歪みによるバイアスを矯正するための考え方として田村善之教授が積極的に評価している「Tolerated Use」(寛容的利用)という発想(133〜135頁)など、現在の手詰まりを打開するための様々なアイデアは、2012年の時点から示されているのに、それがなかなかこの国の議論の表側に出てこない、という由々しき状況を目の前に、いろいろと考えさせられることは多い*9

いずれにしても、「著作権法のこれから」を真剣に考えようと思うのであれば、この「著作権研究」誌に目を通すことは必須ではないか、と思うわけで、既に手元にある(が積読になっているかもしれない)同類の士にも、まだ入手できていない方々にも、是非一読をお勧めしておきたい。


追記:
なお、最近公刊された知的財産法政策学研究第44号に、田村善之教授が「日本の著作権法のリフォーム論‐デジタル化時代・インターネット時代の『構造的課題』の克服に向けて‐」という論文を掲載されている。(御多分に漏れず自分はまだ目を通していないのであるが)前記「著作権研究」誌の中で予告されているとおり、ここで更なる「リフォーム」論が展開されていることと思われるので、志高き読者の皆様には合わせてご覧いただくことをお勧めしたい(ネット上にもアップされている。http://www.juris.hokudai.ac.jp/riilp/wp-content/uploads/sites/6/2014/03/44_02-%E8%AB%96%E8%AA%AC_%E7%94%B0%E6%9D%91.pdf)。

*1:もちろん、そういった類のものはちゃんと神棚・・・ならぬ既にキャパシティを遥かにオーバーした「本棚」に供えて、いつの日か・・・と日々拝んでいるのであるが。

*2:それでも、必要に迫られたからこそ、まだこのタイミングで読めたのであり、もっと古い学会誌等で積読になっていることが多々あることもここで白状しておくことにする。

*3:その時の興奮の一端が、次のエントリーにも現れている(笑)。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120501/1336064176

*4:椙山敬士「はじめに」著作権法研究39号16頁(2014年)。

*5:大須賀滋「著作権法形成における判例と学説の協働」著作権法研究39号87頁(2014年)。

*6:上野達弘「ヨーロッパにおける著作権リフォーム‐欧州著作権コードを中心に‐」著作権研究39号39頁。

*7:田村善之「著作権法の政策形成と将来像」著作権研究39号113頁。

*8:京俊介「著作権法の立法過程分析」著作権研究39号65頁(2014年。

*9:シンポジウムの討論の中で、「利用者側はいかなる圧力団体を形成すべきか」という問いが投げかけられ、それに対して決して前向きな展望が示されていない(しかも、さらに2年経っても状況はそんなに変わっていない)、というところにも、忸怩たる思いはある(148〜149頁)。

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