訪れた「区切り」の時〜民法改正要綱、正式決定

2009年から始まった「債権法大改正」に向けた議論が、2015年2月、ようやく区切りの時を迎えた。

法務省が今国会に提出する債権関係分野の民法改正案が固まった。」
「法制審議会(法相の諮問機関)が24日、上川陽子法相に答申した。改正は200項目以上。債権分野の民法の抜本改正は1896年(明治29年)の制定以来初めて。今国会で成立すれば2018年をメドに施行される。」(日本経済新聞2015年2月25日付朝刊・第4面)*1

法律を制定するのは、あくまで「国会」であり、ここまでの議論は、これから提出される法案を作るための「前提」に過ぎない。

とはいえ、学者や裁判官から、消費者団体、労組関係者、そして産業団体まで加わって、5年以上の長きにわたり喧々諤々議論して固まった内容が、あっさりと覆されるようなことは、立法過程としては望ましいことではない、と自分は思っている。

この先、淡々と法案が提出され審議が進むのか、それとも、「保証」等の微妙な論点について、波乱含みの展開になるのかは分からないが、限られた国会での議論の時間が、少しでも有意義なものとなることを願うのみである。

なお、法制審総会に先立ち、「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が法務省のHPに掲載されている。
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900244.html

審議の過程ですったもんだあった「定型約款」の規定も、結局、以下のような規定に収まった*2

第 28 定型約款
1 定型約款の定義
定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。
定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
2 定型約款についてのみなし合意
定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき
(2) (1)の規定にかかわらず、(1)の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす
3 定型約款の内容の表示
定型約款の内容の表示について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
(2) 定型約款準備者が定型取引合意の前において(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
4 定型約款の変更
定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
(2) 定型約款準備者は、(1)の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない
(3) (1)イの規定による定型約款の変更は、(2)の効力発生時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、その効力を生じない。
(4) 2(2)の規定は、(1)の規定による定型約款の変更については、適用しない。
(強調筆者)

先日、せっかく、松岡教授の良い解説コラム*3を自社の紙面に掲載したにもかかわらず、この日の日経紙の記事の中でも、登場する「まとめの表」の中に、「約款」について、「買い手の利益を一方的に害する項目は無効と規定」という誤った表現が残っているのは、残念というほかないのだが*4、いずれ時間が経てば、本来の形になるだろう、と信じて、もう少しウォッチングを続けていくことにしたい。

*1:なお、この日の法制審総会では、新たに相続法改正の諮問が行われたようで、日経紙の報道を見る限り、そちらの方が大きく取り上げられていた。そこは仕方のないところだと思うが、「区切り」を伝える記事としてはちょっと地味になってしまったのは、少々残念な気もする。

*2:直近の部会資料の内容と比べると、「契約の内容の補充」といった冗長な表現がなくなった分、すっきりとした印象を受ける。また、「4 定型約款の変更」から、「定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているとき」という要件がすっぽり落ちたのは、最終段階での最大のサプライズ、だと言えるだろう。

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150220/1425229073参照。

*4:ついでに言うと、消滅時効について「知ったときから5年」に統一、というのも、(「客観的起算点から10年」という規定が残っていることに鑑みると)不正確なのだが、そういう突っ込みをしていくときりがないのでやめておく。

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