就職活動に関して、“ほらね、やっぱり、言わんこっちゃない”と言いたくなるような話題が、最近報じられることが多くなった。
いつもはひっそりと就職活動面や、教育面に掲載されることが多いネタなのだが、この日は、一気に「2面」にまで出てきている。
「就職活動の新たなスケジュールが今季から導入されたことで『学生の就活期間が長くなった』と考える大学が59%に上ることが25日、文部科学省の調査で分かった。」
「インターンシップなどを通じた事実上の就活が、3年生の春に始まるのは例年と変わらず、日程が遅くなった分だけ長期化しているという。」
(日本経済新聞2015年6月26日付朝刊・第2面)
記事を読むと、何となく“見込み違い”だった、というトーンが強く出ているのだが、「就職活動開始時期一律繰り下げ」なんて言うアホなことをすればこういうことになる、ということは、このブログの中でも散々警告してきたことで*1、何を今さら・・・という感が強い。
かつて存在した「就職協定」が廃止されてからもう20年近くになるので、その当時のことを忘れている人も多いのかもしれないが、廃止末期の大手企業における採用活動の状況というのは、
・建前では、正式な採用活動は8月1日から開始する*2、ということになっていた。
・しかし、実態としては、水面下でリクルーター等を使った事実上の説明会、面接等が行われており、解禁日の「説明会」に行っても、その後の採用に結びつく可能性はほぼ皆無。
・事前の活動で採用が決定した学生は、解禁日に、正式な「内々定」の通知をもらってめでたく握手。後は飲んで食って・・・。
といったものであった。
会社の規模が大きければ大きいほど、新卒社員の採用には、周到な計画性が求められるし*3、そこにあてはめる学生を選考するために、相応の時間を必要とする。
しかし、どこの会社も「オープン」に採用活動をすることができないから、大学ごとに先輩・後輩のツテを使って限られた範囲でインフォーマルな説明会・面接の機会を与えるか、どこかから入手した学生の名簿*4を使って、いわゆる「一流大学」の学生に資料請求はがきを送り付け*5、資料請求してきた学生との間で、リクルーターを介在させた事実上の面接のプロセスを始める、というのが、当時の一般的なやり方となっていた。そして、そのために、一部の上位校以外には大企業の採用の道が閉ざされている、とか、女子学生が恣意的に弾かれている、といったことが問題視されるようになり、「オープン化」、「人物本位採用」といった流れの中で、採用活動の期間や方法にタガをはめる「協定」は過去の遺物として葬り去られることになったのである。
その後、各社の思惑や外資系、ベンチャー系への対抗策、という意味合いもあって、活動開始時期は徐々に早まったものの、基本的には「オープンエントリー」の路線が定着していたから、優秀かつ要領の良い学生であれば、出身大学等を問わず、余裕のある時期に説明会等に参加して情報を収集した上で、概ね“期末試験後、春の新学期が始まるまで”の活動だけで内々定までたどり着ける、という状況にはなっていたように思う。
ところが、今年に入って「(公式な)採用活動開始時期を制限する」という悪しき制度が復活したことで、これまでの秩序が崩れ、「水面下の動き」をはじめとする悪しき慣行も再び目立つようになってきた*6。
「建前」をきっちり守らない企業が悪い、と批判するのは簡単なのだが、書類選考、面接といったプロセスを、正式内定を目前に控えた8月、9月の間だけで行うのは実務的にはかなりリスクが高く*7、また、そんなやっつけ仕事で人生を決められてしまうのでは、学生もたまったものではないだろう。
その結果、経団連指針に拘束されない会社だけでなく、指針を形式的には遵守する方針の会社からも、「広報活動」が解禁された3月以降、自分の会社とマッチングする学生を早めに囲い込むための動き、というのが出てくることになり、「長期化」は避けられない事態となる。
また、問題が「長期化」だけで済めばまだよい方で、かつての就職協定下のように、閉ざされた環境で実質的な選考活動が行われる、ということになれば、割を受ける学生はもっと増えることだろう。
ちなみに、自分が就職活動を経験したのは、ちょうど“過渡期”で、従来型の採用活動と、オープンなスタイルでの採用活動が混在しており、説明会の時期も3月〜6月と、会社によって大きく異なる、という混迷の時代であった*8。
良い社会経験だと思って、必要以上に多くの会社にアプローチしていたせいもあるし*9、早くから説明会を始めても、他社の状況を見ながら本格的な採用活動の時期を調整していたような会社が多かった、という過渡期ならではの特殊事情もあるのだが、先輩から「1カ月、長くても2カ月くらいで終わる」と言われていた説明会、面接の嵐がなかなか収まらずに閉口したことは、今も生々しい記憶として残っている*10。
学生にとってみれば、「出遅れて行きたい会社の選考を受ける機会がなくなる」ことだけは何としてでも避けたいから、機会があればフォーマルだろうが、インフォーマルだろうが顔を出さざるを得ない。それに、動き出しの早い周囲の友人が、早々と内々定を取るような展開になってしまうと、余計に「1つは確保しておきたい」という思いは強まる。
一方で、「一つの会社に内々定をもらった」からといって、他の会社のドアをもう叩かなくてもよい、という割り切りができるかと言えば、それも違う。
転職が当たり前になった時代とはいえ、やっぱり最初に入る会社、というのは、履歴書上も人生経験上も大きいので、しっかり吟味して決めたい、というのは当然のことだと思う*11。
その結果、真面目な学生であればあるほど、長々と時間を取られることになり、今までであれば、春休みに始まって、延びてもGW前には決着を付けられていたような話が、5月、6月、7月と延び延びになり、4年の前期を丸々就職活動のスケジュールで埋め尽くしてしまうような事態に陥ることは、容易に想像が付くところだ・・・。
まぁ、就職活動の実態がどうだったか、などということは、実際に体験した者にしか分からず、記憶にも残らないわけで、現代的な就職活動(いわゆる「シューカツ」)をまともに経験したことのない人々(大学関係者、政治家、そして古い世代の企業経営者)だけで制度を決めれば、“予期しなかった”状況に陥ることは必然だったのかもしれないけれど、さすがにここまで想定どおりにことが進んでしまうと、今の学生が気の毒でたまらなくなる。
今年の反省が速やかに次年度以降に生かされること、そして、その方向性が、悪しき規制ではなく、学生、企業双方にとっての「自由度」が確保される方向に向かうことを、自分は願ってやまない。
*1:直近のエントリーはhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130315/1363802095になるだろうか。もう2年以上も前の話か、と思うとげんなりする・・・。
*2:末期は、7月1日くらいまでには繰り上がっていたかもしれない。
*3:したがって内定解禁日の10月1日には、きっちりと固めておかないと新年度からの運営に支障が出る。
*4:個人情報管理が厳しくなった今は、ちょっと考えにくい手法ではある。
*5:会社からいきなり直接来ることは少なく、就活産業を営む会社(R社、M社、N社等)から請求はがき付きの「カタログ」が送られてきて興味があるところに出す、それをきっかけに会社とやり取りが始まる、という流れがメインだった。
*6:しかも、会社によってやったり、やらなかったりなので、余計にタチが悪い。
*7:これまでのように何度かに分けて採用を行う、という作戦も使えないし、かといって、内定時期を今の10月より後ろにずらす、という話になれば、学生の方が予定が立たずに困ってしまうのではないか、と思う。
*8:その意味では、今年就職活動をやっている学生の皆さんには共感するところが多い。この手の制度の変更で振り回されて割を食うのは、常に学生(と採用を担当する若手実務部隊)である。そして、制度を替えろ、と大きな声を上げて騒ぎ立てた人々は、決してその苦労を味わうことはない。
*9:資料請求のハガキは100通近くは出した。
*10:自分の場合、民間企業の就職活動は、あくまで「面接の練習」程度の位置付けのものでしかなかったので、なおさら「余分に時間を取られた」という感覚が当時は強かった。
*11:自分は就職に関しては極めて不真面目な学生だったので、5月で早々に打ち切ってしまったが・・・。