BLJ「100号」が思い起こさせてくれた記憶と、未来へ向けた期待。

ここのところ、法律雑誌に目を通す機会もほとんどなかったのだが、ようやく少し時間がとれたので、先月発売の「Business Law Journal」2016年7月号を開いてみた。

Business Law Journal(ビジネス ロー ジャーナル) 2016年 07 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネス ロー ジャーナル) 2016年 07 月号 [雑誌]

「100」という節目の通算号数が、表紙で大きくクローズアップされた記念号。
14〜15頁に掲載された「年表」から9名の読者コメントまで、ささやかな「記念企画」も組まれている。

最近では、ふと思いついた時にくらいしかこの雑誌を手に取らない不真面目な読者になってしまっている自分だが、創刊当初からしばらくは、この雑誌が「法律雑誌業界」に持ち込んだ実務ベースの斬新な切り口だとか、個性的な紙面構成を熱狂的に支持していて、創刊号を取りあげたエントリー(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080301/1204331918)以降、このブログでも何度取り上げたか分からないくらい言及してきた。

年表(14〜15頁)を見ると、創刊当初の記憶が生々しく蘇ってくるし、その背景にあった時代状況まで思い返すことができて*1、いろいろと感慨深い*2

この8年の間に、企業法務を取り巻く環境は大きく変わってきているし、自分自身の立ち位置も大きく変わった。それでも、あの時感じたインパクトは決して色褪せていない。

このBLJという雑誌が世に出るまで、法律雑誌等で語られる「実務」といえば、あくまで、弁護士や裁判官等の視点からの「実務」でしかなかった。
そして、そういった「実務」の情報は、日々、企業活動の現場で直面する問題に向き合っている担当者にとって、“役に立たない”とは言わないまでも、“少しピントのずれた”“痒いところに手が届かない”ものでしかなかったし、たまに掲載される“企業実務者”の手による論稿も、旧来的な意味での「実務」視点に合わせたものになってしまっていることが多かった。

そこに、本当の意味での、現場レベルでの“実務”視点を持ち込んだのが、BLJという雑誌だったと言えるだろう。

匿名の担当者コメントだったり、匿名座談会だったり、と、パターンは様々なれど、これまで活字になっていなかった生々しい運用の実態だとか、担当者の本音ベースでの考え方が拾い上げられて記事になる、というのは、非常にセンセーショナルな出来事だったし、「契約」とか「コンプライアンス」周りの特集を組む場合でも、総花的に各論を展開させるのではなく、なるべく実務的に引っかかりやすいポイントに力点を置いて取り上げようとする、というスタンスも印象的だった。

保守的で既得権益層が凝り固まっていた法律雑誌業界に、それまでにない新しいコンセプトを掲げて切り込んでいく、というのは、並大抵の覚悟ではできないことだったと思うが、それを貫いて一定の読者層を確保し、「100」にわたる発行号数を積み重ねてきたLEXIS NEXIS社編集部の功績は、率直に称えられるべきだと思う*3

どんな雑誌でもそうであるように、創刊当初の斬新な発想を、ずっと変わらずに維持し続けることは難しい。
BLJ誌もそれは例外ではないようで、企業内の純粋実務家から、実務に興味のある法曹関係者や法科大学院生等にまで読者層が多様化したり、雑誌としてのステータス・認知度が向上していく中で、最近では“らしくない”特集記事や連載記事を目にすることが多くなったような気がする*4

また、逆に、創刊当初の企画の方向性が維持され続けられているがゆえに、読者層のポジションの変化(一担当者→管理者層)に対応しきれていない、というところもあるのではないか、と自分は感じている。

もちろん、8年前の自分と同じようなポジションで、今、BLJを熱心に読んでいる読者が大勢いるのは承知しているし、この辺はどうしようもないところだと思うのだが、基本的なコンセプトを維持しつつ、読者層のポジションの広がりにもう少し目を向けた記事構成を考えても良い頃に差し掛かっているのではないだろうか*5

これから各企業の中で「企業法務」という部門が果たす役割がどう変わっていくのか、自分は予断を許さない状況だと思っているし、法の担い手、使い手としてのアイデンティティを持つ人々の裾野が急速に狭まって行く中で、“実務系法律雑誌”というカテゴリーを未来永劫にわたって守り続けるのは、決してたやすいことではないと思うのだが、せめて「200号」の声を聞く頃までは、まだまだ生き残っていてほしい雑誌だと思うだけに、このBLJ誌が更なる変革を遂げて次の一歩を踏み出していただくことを、今はただ願うのみである。

*1:2008年当時はまだ「消費者庁」もこの世に存在していなかったのだな、という事実等に接すると、創刊が随分昔のことのように思えてくる。実際、もう8年も前のことなのだが・・・。

*2:昨年の「消費者契約法改正」の方はトピックとしてフォーカスされているのに、債権法改正がなぜ埋もれているのか、というところなど、若干の突っ込みどころはある。あと、誤植も1カ所発見(笑)(2009年4月号→2010年4月号)。

*3:そして、こういったBLJ誌の大胆な着想は、旧来的な法律雑誌の編集部の思考にも大きな変革をもたらしたように思う。最近のジュリストの特集の組み方や、各種法律雑誌の座談会の記事を見れば、「多色刷り化」以上の影響をもたらしている、ということが良く分かる。当事者がそれを認めるかどうかは別として。

*4:創刊当初、海のものとも山のものとも分からないこの雑誌に、積極的に原稿を載せることを希望する法曹関係者はそう多くなかったと推察するが、今は逆に頼まれなくても書きたい、という人の方がむしろ多いんじゃないかと思う。それが悪いことだとは言わないが、“法曹関係者に簡単に原稿を頼めるようになった”ことが、“名もなき担当者の声をこまめに拾う”ことへの意欲を低下させていないか、ということは、常に気にかけておく必要がある。

*5:昔の「○○時代」とか、女性ファッション誌のように、こまめに世代層に合わせて雑誌を創刊せよ、というのはさすがに酷だと思うが、プレーヤー視点を離れたマネージャー視点からの特集を定期的に組むくらいの趣向はあっても良いのではないか、と思ったりしている。

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