ガイドライン(案)が浮き彫りにした「虚偽表示」騒動の本質

今年も残すところあとわずか、という状況になっているが、今年世の中を騒がせた「コンプライアンス違反事象」ベスト10を挙げるならば、確実に上位に来るだろうと思われるのが、「食材虚偽表示問題」だと思う。

そして、消費者庁が年末のこのタイミングで、具体的な処分と「ガイドライン案」を公表した*1

「食材の虚偽表示問題で消費者庁は19日、阪急阪神ホテルズ大阪市)と阪神ホテルシステムズ(同)、近畿日本鉄道が運営するホテルなどで、実際に使った食材と異なるメニュー表示をしたのは景品表示法違反(優良誤認など)に当たるとして、再発防止を求める措置命令を出した。対象となったのは3社合わせて15施設の55の料理。全国のホテルや百貨店などで相次ぎ発覚した食材虚偽表示で国が行政処分を出すのは初めて。」(日本経済新聞2013年12月20日付け朝刊・第42面)

消費者庁は19日、景表法違反の恐れがあるメニュー表示のガイドライン案を公表した。肉や魚介類、農産物、小麦・乳製品、飲料の具体的な食材名を挙げ、問題となる表示31例と、付随する表現次第では問題となる4例を示した。(中略)消費者庁はホームページで公表している「表示に関するQ&A」で、成形肉と牛脂注入加工肉を「ステーキ」と表示するのは問題があると2011年8月に示した。それ以外の食材は具体的なガイドラインがなかった。虚偽表示問題の拡大の一因にどこまでの表示なら許容されるのか分かりにくいとの指摘がありガイドラインをつくることにした。」(同上)

確かにこの種の問題が起きるたびに、当局が一定のガイドラインを作って、事業者の予測可能性を高める、というのは、一般的な手法であり好ましいことでもある。
ということで、自分もガイドライン(案)に目を通してみたのだが・・・


冒頭の書き出しが、

景品表示法が禁止している不当な表示は、事業者が自己の供給する商品・役務の取引について、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害
するおそれのある表示であり、後記第2のとおりその対象範囲は幅広い。また、景品表示法は、特定の事項の表示を義務付けて、それに反する表示を禁止するものではなく、対象とする商品・役務の範囲を限定していないので、ホテルや百貨店、レストラン等が提供するメニュー・料理等の表示は全て、同法の対象である。」 (1頁、強調筆者、以下同じ)

となっている点については異論はない*2

また、「不当な表示」について、景表法の規制類型を簡単に解説した上で、

メニュー・料理等の表示に関して、景品表示法上問題となるのは、通常、自己が供給する商品・役務(料理等)について、一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であると示す表示、つまり、景品表示法第4条第1項第1号に規定されている「優良誤認表示」に当たるかどうかである。」(3頁)

と論点を明確化し、

景品表示法による不当表示の規制は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者の適正な商品・役務の選択を確保することを目的として行われるものである。このため、「著しく優良であると示す」表示に当たるか否かは、業界の慣行や表示を行う事業者の認識により判断するのではなく、表示の受け手である一般消費者に「著しく優良」と認識されるか否か(誤認されるか否か)という観点から判断される。この際、「優良」については、商品・役務の品質等について、科学的、客観的に見て、表示されたものよりも実際のものが上回っているかどうかではなく、一般消費者にとって、実際のものと異なる当該表示によって、実際のものよりも「優良」であると認識され、誘引されるかどうかによって判断される。 また、広告・宣伝の要素を含む表示では、表示対象である商品・役務が消費者から選択されるように、ある程度の誇張がなされることもあるが、一般消費者もある程度の誇張があることを通常認識していることから、広告・宣伝に通常含まれる程度の誇張があっても、一般消費者の適切な選択を妨げるとは言えない。しかし、この許容される限度を超えるほどに実際のもの等よりも優良であると表示すれば、一般消費者は、広告・宣伝に通常含まれる程度の誇張を割り引いて判断しても、商品・役務の内容が実際のもの等よりも優良であると誤って認識し(誤認し)、その商品・役務の選択に不当に影響を与えることとなる。このように「著しく」とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて、一般消費者による商品・役務の選択に影響を与える場合をいう。 すなわち、商品・役務の内容について「実際のものよりも著しく優良であると示す」又は「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す」表示とは、一般消費者に対して、社会一般に許容される誇張の程度を超えて、商品・役務の内容が、実際のもの等よりも著しく優良であると示す表示である。このような表示が行われれば、一般消費者は、商品・役務の内容について誤認することになる。なお、「著しく優良であると示す」表示か否かの判断に当たっては、表示上の特定の文章、図表、写真等から一般消費者が受ける印象・認識ではなく、表示内容全体から一般消費者が受ける印象・認識が基準となる。」(3〜4頁)

「著しく優良」であるかどうかが問題となること、また許容限度を超えないレベルの“誇張”であれば、「著しい」に該当しない可能性があることを示唆していること、といった点について、一般論としては評価できるところである。

ところが、5頁以降、具体例として挙げられているQ&Aの内容を見ていくと、「おやっ?」と首を傾げたくなるような記述がいくつかみられる。

例えば、最初に登場してくる「肉類に関するQ&A」には、

Q-1「牛の成形肉を焼いた料理のことを「ビーフステーキ」、「ステーキ」と表示してもよいでしょうか。」
Q-2「牛の成形肉を焼いた料理のことを「ステーキ」とは表示せず、「ビーフ」、「健康ビーフ」、「やわらかビーフ」、「ビーフ(やわらか加工)」と表示してもよいでしょうか。」

という問いがあり、いずれも「問題となります」という回答が示されているのだが、その「説明」を読むと、

「「ビーフステーキ」、「ステーキ」と表示した場合、この表示に接した一般消費者は、「一枚の牛肉の切り身」を焼いた料理と認識すると考えられます。 このため、牛の成形肉を焼いた料理について、「ビーフステーキ」、「○○ステーキ」、「ステーキ」のように、一枚の生肉を焼いた料理と認識される表現を用いると、景品表示法上問題(優良誤認表示)となります。したがって、一般消費者に誤認されないように、例えば、「成形肉使用」、「圧着肉を使用したものです。」というように、この料理の食材が成形肉であることを明瞭に記載する必要があります。 明瞭に記載するというのは、一般消費者に誤認を与えないようにするということであり、料理名の近傍又は同一視野内に明確に記載するなど、一般消費者が当該料理について「生鮮食品」の「肉類」に該当する「一枚の肉」を焼いたものと誤認しないように表示することをいいます。したがって、そのような記載を「ビーフステーキ」、「ステーキ」との文字と同一視野にない掛け離れたところにしたり、極端に小さい文字で記載したりするなどの場合は、一枚の生肉を焼いた料理であると一般消費者が誤認するおそれがありますので、明瞭に記載したとは言えません。 」(Q-1に対するA)

と、「一般消費者が『誤認』する」という問題は指摘していても、それがなぜ「優良」誤認にあたるのか、ということが全く示されていない。

ガイドラインにも書かれているとおり、この「成形肉」問題は、既に平成17年11月15日にフォルクスに対して公取委排除命令(当時)を出した事例*3であり、今さら結論をひっくり返すようなQ&Aを作るわけにはいかない、ということは理解するとしても、単なる「誤認」と「優良誤認」との間には、本来大きな違いがある以上、

「なぜ、一般消費者が、『成形肉』よりも『一枚の牛肉の切り身』の方を『優良』なものと認識する、と消費者庁が判断するのか」

というプロセスをきちんと示さないと、全く応用が利かないガイドラインになってしまうのではないかと思われる*4

「優良」と誤認させることを問題としているのか、それとも、単なる「誤認」だけが問題なのか、を混同しているのではないか、と思われる記述は、更にこの後も続いていく。

「Q−8 飲食店のメニューに「合鴨煮」と表示していますが、実際には、「マグレ・ド・カナール」という肉を使用した料理を提供しています。景品表示法上の問題がありますか。」

という問いに対しては、

「『食材図典?』(小学館)によれば、「マグレ・ド・カナール」とは、「フォワグラをとるために肥育した鴨の胸肉で、抱き身ともいわれる部分」です。「合鴨煮」との表示から、一般消費者は、一般的には、鴨とアヒルを交配した「合鴨」を使用した料理が提供されると認識するものと考えられます。このため、合鴨以外の鴨肉を使用しているにもかかわらず、「合鴨煮」と表示することは、実際のものと異なる表示をしていることになります。また、「合鴨煮」との表示をしている飲食店は、合鴨という特定の鴨肉を使用していることを強調することで顧客を誘引していると考えられますので、それが実際と異なる場合には、通常、景品表示法上問題(優良誤認表示)となります。 」(11頁)

というトリビア以上の価値は一片も見当たらないような回答を掲載しているし*5

「Q−12 飲食店のメニューに「赤西貝」を「サザエ」と表示しても景品表示法上問題ありませんか。」

という問いに対しても、

「生鮮食品及び加工食品が小売店等で商品として販売される場合、JAS法では、「名称」等の必要表示項目を記載することが義務付けられています。魚介類の名称は、「魚介類の名称のガイドライン」により、原則として種毎の名称(標準和名)を表示する(標準和名より広く一般に使用されている和名があれば、この名称を表示することも可能)ことが推奨されており、それを前提に市場で取引がなされています。「赤西貝」の標準和名は、「アカニシ」であり、標準和名が「サザエ」とは異なる魚介類とされていますので、そもそもサザエではないアカニシを「サザエ」と表示することは、実際のものと異なるものを表示していることになります。また、サザエではないアカニシを「サザエ」と表示している飲食店は、そのように表示することで顧客を誘引しようとしていると考えられますので、それが実際と異なる場合には、通常、景品表示法上問題(優良誤認表示)となります。 」

と、「実際のものと異なる」ということ以上の理由づけを挙げないまま、「問題となります」という回答を記載している。

「ロブスター」⇒「伊勢エビ」(Q-10)、「バナメイエビ」⇒「芝エビ」(Q-11)の回答にあるように、

「現状においては、一般消費者の商品選択等を反映して、イセエビよりもアメリカンロブスターが安価で取引される実態にあると認識されています。」(12頁)

といった客観的な材料が示されているのであれば、納得のいく説明になっている、と言えるのだが、なぜそういった理由づけを端折ったまま、「ガイドライン」という形にしてしまうのか。

そもそも、今回の「虚偽表示」問題が、飲食業を傘下に持つ多くの会社を混乱に陥れた最大の原因は、

「実際に使われている食材と、表示されている食材の名称が異なるのは分かった。で、この表示は、実際に使われている食材と比べて「優良」で、「消費者を不当に誘引している」と評価されるものなのか?(単に消費者にとって馴染みのある食材の名称に置き換えただけではないのか?)

という点について、判断材料があまりに少なかったところにある(そして報道するメディア等も、景表法、不競法、その他の表示規制法についての正確な理解を欠いたまま、単に「表示と実物が違う」という点だけをクローズアップしてバッシング等を行ったことで、より混乱が増幅されることになった、というのが、あの騒動の本質だったのだと思われる)。

だからこそ、単なる「誤認」と「優良誤認」の間をつなぐ思考プロセスを明確にしてもらうことが重要だったのに、それを明記しないまま、単に「禁止表示例」を並べただけ、という消費者庁のセンスには、ちょっと理解できないところはある*6

また、このガイドラインには、「産地偽装」のように、法的に言えば明らかにアウト(それが景表法かどうかはともかく)な事例と*7、「鮮魚」、「レッドキャビア」、「フレッシュジュース」のように、消費者庁でさえ「問題があります」とは断言できない事例とが、混在している。

「鮮魚」に関する、

「鮮魚」との表示から一般消費者が抱く認識・期待は様々であると考えられますが、例えば、「鮮魚」という文言に加えて、又はこれに替えて、メニューや店内の表示において、「港で採れたて」、「今朝市場で買い付けた」などと使用している魚の新鮮さについて強調した表示をすると、あたかも、通常の方法で鮮度が維持された魚よりも新鮮な魚を使用しているかのように一般消費者に認識されると考えられます。したがって、このような表示をしていながら、実際には、表示された事実とは異なる場合(例えば、「港で採れたて」や「今朝市場で買い付けた」ではない場合)には、景品表示法上問題(優良誤認表示)となります。 」(18頁)

といった記述などを見ていると、端的に「鮮魚と書くだけならOK、でも『港で採れたて』と書いてしまうとNG」という解説にしてくれた方が、よほどわかりやすいだろう、と思ったりもするのであるが、そうもいかないのだろうか・・・。


いずれにしても、「不当な顧客の誘引を防止する」という景表法の本来の趣旨から離れ、「正確な情報を消費者に伝える」という(それはそれで大事なことだとは思うが、だからといって法の解釈を曲げてよい、ということにはならない)政策意図に偏った形で出されたガイドライン(案)になってしまっているだけに、もう少し冷静に、専門家の意見も聞きながら、内容を詰めていっていただきたいものだと思う。

*1:平成26年1月27日まで意見募集期間中。

*2:おそらく不正競争防止法や、他の農水省所管の表示法規等を意識した記述なのだろうと思われる。

*3:http://www.caa.go.jp/representation/keihyo/kouhyou/05.11/05111502.html

*4:ガイドラインでは、JAS法や食品衛生法上の取扱いの違い等を指摘しているが、それはあくまで規制当局側の分類の違いに過ぎず、本来、消費者庁が最も強調すべき「消費者の認識」とは直接的には関係ない事柄だと言わざるを得ない。

*5:消費者庁は、「顧客を誘引している」ことをもって「優良」性を裏付けようと考えているのかもしれないが、仮に「マグレ・ド・カナール」と表示しても、「何だか良く分からないけど旨そうだ」と誘引される消費者はいるかもしれないわけで、これだけでは何ら説得力のある理屈にはならない。

*6:ガイドライン(案)と同時に公表された阪急阪神ホテルズへの措置命令(http://www.caa.go.jp/representation/pdf/131219premiums_1.pdf)においても、その辺はあまり明確になっていないから、ガイドラインで踏み込んだ記述をするのは難しかったのかもしれないが、そこまで書いてくれなければ「(一般的な)食品表示に関するガイドライン」としては機能し得ないだろう、と自分は思う。

*7:個人的には、不正競争防止法に「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」という「誤認表示」を端的に不正競争行為とする明確な規定が存在しているのだから(2条1項13号)、「産地偽装」に関しては、「優良かどうか」という微妙な価値判断が入る景表法よりも、こちらを優先的に適用すべきではないかと思う。