驚くべき進化のスピード。

シーズンが始まった頃は、例年同様、胸を高ぶらせていたくせに、GPシリーズが始まってもほとんど試合中継を見る余裕がなかった2016/2017シーズンのフィギュアスケート
そうは言っても、そろそろ見ておかないと・・・ということで、マルセイユで行われたグランプリファイナルの映像をぼんやりと眺めていた*1

そして、そこで気付いたのは、今シーズンの進化が驚くべきレベルに達していた、ということ。

特に男子は、4回転ジャンプ2種類なんてもはや驚くに足らず、で、4回転3種類以上 and/or 4回転含むコンビネーションという構成で攻めないと表彰台に上がれない、という恐ろしいことになっていた*2

結果的には羽生結弦選手が4連覇の偉業を成し遂げたもの、フリーの結果だけ見れば3位。
それも、4回転のループ、サルコウトゥループを加点付きの出来で決め、演技構成点も6選手中トップのスコアを出しながら、である*3

一方、これに代わってフリー1位となったのが、ネイサン・チェン選手で、その演技構成ときたら、冒頭からの4つの要素が、

4Lz+3T 19.90
4F   12.30
4T+2T+2Lo 13.40
4T   10.30

と、これだけで基礎点55点超、という恐るべき代物。

昨年のグランプリファイナルでの羽生選手のフリーの得点は未だに破られていない銀河系スコア(219.48点)だが、その時でも技術要素の基礎点は「95.19」点だった。
それが今回のチェン選手は、「101.02」点と基礎点だけで100点を超える演技構成で、しかもいずれの要素も減点なし*4、と来れば、上位選手といえども生半可な出来では到底太刀打ちできない。

演技が始まってから立て続けに4回転を跳び続ける、という構成になっていることもあって、プログラム自体の見栄えは他のエスタブリッシュな選手たちにはまだまだ遠く及ばない。

だが、チェン選手の年齢を考えると、再来年の五輪本番までの伸びしろは十分見込まれるわけで、羽生選手の行く末も決して安泰とは言えないなぁ、というのが、素直な感想であった。

もちろん、日本にも、ジャンプの失敗が目立ったフェルナンデス、パトリック・チャンといった世界チャンピオン組を差し置いて、宇野昌磨選手が今回表彰台に上った、という非常に明るい材料があるし*5、当の羽生選手自身が、チェン選手の存在によって、より高みを目指すモチベーションを駆り立てているように見えるのは決して悪い話ではないのだが。

一方、女子の方は、ショートプログラムからフリーまで、メドベージェワ選手の強さだけがとにかく目立った。

女子ロシア勢の主役は、ここ数年の間にめまぐるしく入れ替わっていて、今年のファイナルにも4人の選手を送り込んできているが、その中にはソチ五輪のシーズン以降精彩を欠いているソトニコワリプニツカヤという“かつての主役”たちはもういないし、五輪の翌シーズンに世界女王に輝いたトゥクタミシェワ選手もいない。

エキシビジョンの主役から五輪後に一躍スター街道に躍り出たと思われたラジオノワ選手も、身長が伸びた影響か、かつての躍動感は消え、窮屈そうにジャンプを飛ぶ姿しか印象に残らなかった*6

そんな中、メドベージェワ選手は、前シーズンの鮮烈なシニアデビューから、ほぼ負けなしの状況。
元々定評のあった演技構成には、さらに磨きがかかり、5要素全てで9点台。歌やノイズ入りの音楽に合わせて、作り上げたストーリーを完璧に演じ切るところはまさに新時代の申し子という感があったし、技術的にも、冒頭で失敗した3回転フリップ+3回転トゥループのコンビネーションを後半で取り返す余裕を見せる。

技術点も演技構成点も昨年のグランプリファイナルを上回るパーソナルベストの演技で再び2位に食い込んだ宮原知子選手には立派の一言しかないのだが、彼女が目いっぱいの演技をしても、決してパーフェクトな演技とは言えなかったメドベージェワ選手に、スコアでも印象面でも及ばなかった現状をどう見るか。

おそらくは血の滲むような努力の積み重ねで作り上げたのであろう今の彼女のスタイルをけなすつもりは毛頭ないのだけれど、できることならもう一段上のステージに上った演技を見てみたい、と思っているのは自分だけではないはずで、ジュニア勢の強烈な突き上げと下剋上が予想される年末の全日本の独特の緊張感の中で、宮原選手がその域に足を踏み入れてくれることを密かに期待せずにはいられないのである・・・。

*1:欧州大陸(マルセイユ)での開催だから、テレビで流れるよりもはるかに先に結果は分かってしまうのだが、そんなことは気にしない。

*2:プログラムに4回転ジャンプが2本入っているだけで驚嘆していた時代が、旧石器時代のことのように思えてくる。年数にしてみればそう昔のことではないはずなのに。

*3:決まれば大きな得点源となるはずだった4回転サルコウからのコンビネーションが最初のジャンプで崩れ、最後の3回転ルッツまで抜けてしまったのは確かに痛かったが・・・。

*4:終盤のステップシークエンスとスピンがレベル3になっているので、ここが減点と言えば減点だが、もしこの辺もレベル4まで上げて来たら、と思うと、ガクプルである。

*5:コンビネーションも含めて4回転ジャンプを3度決め、高得点の3回転アクセルからのコンビネーションを決めたことで、羽生選手を技術点で上回ったこともビッグニュースだが、それ以上に演技構成点パトリック・チャン選手を上回る90点台の評価を得た、ということに、シニア転向2シーズン目での急成長を感じるし、同じ表彰台でも昨年のファイナルに比べてより中身の濃い結果になったことは間違いない。

*6:他のロシア勢もソツコワ選手が同様に身長が伸びた分ジャンプに苦しんでいる印象で、メドベージェワ選手以外にショート、フリーを通じて見せ場を作れたのはポゴリラヤ選手だけだったような気がする。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html