ようやく迎えた改正民法成立の瞬間と、そこから生まれるカオス。

2015年の改正要綱決定、3月末日の法案提出から実に2年以上の時が流れ、「今国会での成立は絶望的」というフレーズが何度もリフレインされた末、ようやく「債権法改正」が名実ともに確定した。

「企業や消費者の契約ルールが民法制定以来、約120年ぶりに抜本改正される。債権関係規定(債権法)に関する改正民法が26日に成立し、2020年をメドに施行される。」(日本経済新聞2017年5月27日付朝刊・第5面)

思えば、改正要綱が決まる寸前くらいまでは、寝ても覚めても、という感じで債権法改正審議の帰趨を見守っていたのに、人間というのは恐ろしいもので、この2年の間にすっかり気分は緩み、記憶は薄れ、で、今思い出せる改正内容は「200項目」とされるポイントのうち、ほんの一握りのものでしかない。

だが、そんな自分でも、今回の債権法改正が、

「消費者保護に重点を置いた」(同上)ものでは決してない

ということくらいは良く覚えているわけで(笑)。

今後、来るべき施行の日に向けて各法律系出版社の鼻息は荒くなるだろうし、大手から中堅どころまで、この千載一遇のチャンスで荒稼ぎをもくろむ法律事務所も決して少なくないことだろう。

そして、法務省サイドから担当官の一問一答形式の解説が出されるような時期になってくると、多くの会社でも契約書ひな型の見直しやら、社内周知のための研修実施やら、で、てんてこ舞いになることが予想されるところである。

だが、冷静な実務家であれば、多くの改正ポイントがこれまでの判例・通説を明文化したものに過ぎないこと、またルールが変わった項目についてもその多くは「任意規定」であり、契約で上書きすれば、これまで通りの取引慣行を維持することは可能である、ということを忘れてはならない。
そして、企業の実務家としては、何かと注目されている「約款」の規定を含めて、「既存の取引実務に影響を与えない」ということが、今回の改正の最大かつ基本となっている約束事である、ということは、絶対に譲れない一線として守らなければならないところでもある*1

必要なのは、穴を掘り返すような細々とした解釈論ではなく、現実との矛盾を来さないようなシンプル、かつ、合理的な解釈を採用する決断。

どんな法律でも、「変わる」ことを喧伝することが利益になる集団というのは必ず存在するわけで、特に民法のような基本法となってくると、煽れば煽るほど“金になる”チャンスは増えるからなおさらなのであるが、そうでなくても分かりにくい今回の一連の改正の説明に、そんな思惑が絡んでよりカオスを導くことにならないよう、賢明な実務家諸兄姉が目を見開いて条文と改正の経緯を見つめ直し、自分の頭でしっかり考えて、「何もしない」ことも含めた適切な対応を進めて行っていただくことを、今は願うのみである。

*1:本当に変わるのは「法定利率」とか「消滅時効」のところくらいで、それ以外の規定については、“実務は微動だにしない”改正と考えるべきだし、そうするための解釈を定着させることが必要である。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html