今年の法改正を見据えた一冊を忘れるなかれ。

年末恒例の「Business Law Journal」誌の「法務のためのブックガイド」特集。

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2018年 02 月号 [雑誌]

Business Law Journal(ビジネスロージャーナル) 2018年 02 月号 [雑誌]

今年も滑り込みで昨年のうちに目を通し、個々のコメンテーターの方々の紹介書籍のラインナップを眺めながら、なるほど、と休暇明けに購入する本のリストアップ等をしていたのであるが、そんな中、12の実務者記事の中にも、座談会の中にも出てきていなかった一冊があることに気付いた。

しなやかな著作権制度に向けて―コンテンツと著作権法の役割

しなやかな著作権制度に向けて―コンテンツと著作権法の役割

実のところ、自分も『法律時報』12月号の「学界回顧」特集(これまた年末恒例)で、土肥一史名誉教授の古稀記念論文集と並んで、この書籍が紹介されているのを見つけるまで、迂闊にも存在を失念していたのであるが、この本には、今、まさに著作権法が改正に向けて動こうとしている中で、新たな制度の方向性を指し示す貴重な論稿がいくつも収められている。

元々、2016年に発行予定だったのが延び延びになった、ということもあり、(おそらく文化審議会著作権分科会報告書(2017年4月)完成のタイミングも意識されたのであろう)上野達弘教授や前田健准教授の論稿を先行してホームページにアップする、といった挑戦的な試みもされていたこの書籍*1
価格が税込で8000円台、ということもあって、“自腹”を切るのは躊躇する人が多いかもしれないが、Amazonのレビューが見事に本書の魅力を表現しているので*2、入手するかどうかは、それを読んだ上で判断していただくのが良いのではないかと思う*3

なお、上述のとおり、昨年4月、世に出された報告書(http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf)を受けて、著作権法の世界で長年議論されてきた「柔軟性のある権利制限規定」が、今まさに「多層的」に導入される段階になっている、というのが自分の認識である。

具体的な改正法の条文まではまだ公表されていないものの、おそらく今年の通常国会の間には人目に触れることにもなるはずで、それゆえ、1日付日経紙の「2018年法律・ルールこう変わる」で完全にスルーされてしまっているのが腑に落ちない*4のだが、今、それだけ世の中の関心が薄い、ということは、いざ、実現に向けて動き出す時には、天地をひっくり返すような騒ぎになる可能性もあるわけで。

だからこそ、出来上がったものを肯定するにせよ、批判するにせよ、その根底にある考え方には、今からしっかりと触れておくべきだと思うのである*5

決して、その時、明後日の方向の議論に陥らないように。

*1:本書のキモとなる論文でもあったのだが、残念ながら、書籍が発売された現在では、もうアップされていない。

*2:念のため申し上げておくが、自作自演ではない(笑)。この一連の法改正に通じた者であれば、多かれ少なかれ同じ感想を持つ、ということなのだと思う。

*3:筆者自身の意見・感想までコメントするつもりだったのだが、書籍の紹介記事としてはあまりに細かいところに立ち入ることになってしまうような気がするので、また具体的な著作権法改正の動きに言及する機会などあれば、その時にでも述べることにしたい。

*4:遅れて議論が始まった「ビッグデータ」保護の不正競争防止法改正の動きは紹介されているというのに・・・。やはり、これだけ次から次へと政策課題が世をにぎわす中で、しばらく議論の間隔が開いてしまった、というのは、社会の耳目を引く、という点からは致命的なのかもしれない。

*5:報告書自体にも、かなり詳細に「考え方」が反映されているのだが、それでもそこに至るまでの議論の経緯等、端折られているところは相当あるのは確かなので・・・。

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