他人事、とは笑えないお話。

コンプライアンス系の話をするときに、ニュース等で話題になった他社事例を引っ張ってきてネタにする、というのは、どこの会社でもやっていることだと思うのだけれど、特にその手法が有効な商標の世界で、ドキッとするようなニュースが流れていた。

headlines.yahoo.co.jp

大分市がJR大分駅前に整備中の広場「祝祭広場」の名称が、商標権を侵害するおそれがあるとして使用に待ったがかかっている。同じ名称を「阪急阪神百貨店」(大阪市)が商標登録し、催事場で使っているためだ。阪急側は無断使用は認められないと昨年3月に使用中止を申し入れた。このため、市は平仮名の「の」を入れて「祝祭の広場」と名称を変更することで解決を図ろうとしている。」

確かに検索すると、登録第5562650号、株式会社 阪急阪神百貨店を権利者として、2013年3月1日に登録されている。
登録区分は以下のとおり。

第41類 美術品の展示,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,スポーツの興行の企画・運営又は開催,お祭りを主とする催事の企画・運営又は開催,くじ引き興行の企画・運営又は開催,ゲームショーの企画・運営又は開催,キャラクターショーに関する興行の企画・運営又は開催,デザインに関する展示会の企画・運営又は開催,デザインコンテストの企画・運営又は開催,ファッションショーの企画・運営又は開催,フォトコンテストの企画・運営又は開催,フラワーアレンジメントに関する展示会の企画・運営,フリーマーケット興行の企画・運営又は開催,食に関するイベントの企画・運営又は開催,料理に関するコンテストの企画・運営及び開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇小型自動車競走の興行に関するものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供

今回のケースでは、相手が大分市、という自治体なので、第41類の役務で「業として」使用しているのかどうか、ということも一応論点にはなってくると思うが、広場でのイベント等を何らかの対価を得て開催する、という可能性を消したくなければ、今のうちに素直に頭を下げておく方が良い、というのが市側の判断だったのだろう。

で、この記事の、

「「祝祭広場」の名称は阪急が13年3月に特許庁に商標登録し、「阪急うめだ本店」9階の催事場を「祝祭広場」と呼んでいたことが判明。無断使用に気付いた阪急側が使用中止を申し入れると、市は「まだ正式名称ではない」「大阪市から距離があり、混同される可能性が低い」と釈明。商標登録されているかは確認していなかったという。」(強調筆者)

といったくだりなどを見ると、市側が何となく間抜けな感じに見えてしまうところはある。
特に、日頃から「新商品なり新サービスを出すときには、第三者登録商標の有無を確認しろ!」と口うるさく言われている会社の人であればなおさらだろう。

だが、いざ、担当者としてこういう話に直面した時に、ここで問題になっているような「広場」の名称についてまで他人の登録商標を意識しないといけない、という発想がすぐに出てくる自信は自分にはない。しかも「広場」に付けられているのは、決して独創的な名称ではない「祝祭」というありふれたフレーズである。

阪急阪神百貨店は、この商標を出願してから、わずか4か月ちょっとで登録査定まで得ているから、審査官はこの商標の識別力に特段の疑義を抱かなかったのかもしれないが、外野から見たら「もうちょっと慎重に審査しろよ・・・」と言いたくなるような識別力の弱い商標で、担当者がオープン前から笑いものにされてしまうのであれば、ずいぶんと気の毒な話だと言わざるを得ない*1

実のところ、こういう話って結構あって、今回問題になっている「○○広場」に関しては、ざっと240件超の商標登録がなされているし、第41類関係のものだけに絞っても50件程度は残る。そして、「えがお広場」(登録第5297171号)が登録されてます、とか、「クリスタル広場」(登録第5921871号)が登録されてます、と言ったところで、ピンとくる人はそんなにいないはず。

更に同じ催事系でも、「○○市場」とかになってくるともっと深刻で、一般的にこの名称に関係する第35類(小売)は、すべての商品区分とクロスサーチされてしまうので、どんな名前を付けても、まぁまぁ類似する第三者商標がヒットしてしまう、という悲惨な事態になりがちだ。

今回の大分市の「祝祭(の)広場」のように、常設、かつ再開発の目玉のようなスポットの名称、かつ正式オープン前、ということであれば、ちょっとでも疑義が生じたらさっさと変えてしまうにこしたことはないと思うのだが、仮設会場での1週間の期間限定のイベントで、しかも「プレス告知済み、パンフレットも全部刷ってしまいました!」と現場の事業部門の担当者が駆け込んできたときに、「いやいや、1年でも1週間でも1日でも商標権侵害になることに変わりはないのだから」と杓子定規にリスク回避策(端的に言えば全部差し替え)を指示するのか、「とりあえず商標権者に連絡しよう!」と寝た子を起こすリスクを冒すのか、それとも、第三者商標の識別力の強弱や、現実的な誤認混同の可能性、さらには万が一訴えられた場合のダメージの大小*2を見定めて「スルー」するか・・・。

どれが正解、というものでもないだけに、ここは対応する法務・知財担当者それぞれの腕が試されるところで、そういう意味でもこの大分市の一件は、素材として使えるところが多いな*3、と思った次第である。

*1:この大分市の「広場」自体、予算や安全性の関係で構想が若干迷走しているところもあるようだし(祝祭広場の目玉混乱 「検証甘い」大分市に批判 - 大分のニュースなら 大分合同新聞プレミアムオンライン Gate)、それだけにちょっとしたことで地元のメディアが過剰反応してしまっているところがあるのかもしれないが(そもそも、Googleで検索すると「祝祭広場」という名称を公共の広場の名称として使っているところは他にも出てきて、阪急阪神百貨店が全ての広場管理者に使用中止申し入れをしているのか、それともなぜか大分市にだけ申し入れを行ったのか、判然としないところはある。)、いずれにせよ担当者を責めるのは酷な事案だと思っている。

*2:特にイベントの規模や想定される売上・利益等の数字がカギ。

*3:逆に、この種の“微妙”な商標を持っている権利者の立場で「どこまで権利を主張するか」を考える素材としても使えるかもしれない。今回の「祝祭広場」自体は、梅田のランドマークの一つのような存在で、季節ごとにこんな素敵なプロモ(“祝祭広場のクリスマスマーケット” performed by H ZETTRIO 【Official MV】 - YouTube)も作ってしまうようなスポットの名称だから、権利者としても自信を持って申し入れをしたのかもしれないが、そこまでメジャーな名称でなかった場合にどうするか、というのも常に考えないといけない話である。