そしてまた塗り替えられていく歴史。

今週から開催地も完全にローカルに移り、いつもの如くのどかなムードになりつつある中央競馬

だが、こんな時だからこそ局地的に吹く風は熱く、時に新しい時代の幕開けを予感させることすらある。

今週、まさにそんな舞台となったのが、昨年に続いて小倉競馬場での開催となったCBC賞だった。

かつては中京を舞台にGⅠ戦線のステップにもなっていたレースではあるが、今や夏のハンデ戦、ということで、古馬相手に初タイトルを狙う3歳馬から、ここで起死回生の一発を狙う古馬たちまで顔ぶれを見ただけではどうにも判断しがたい大混戦。

レース前の人気も1番人気のアネゴハダが3.9倍、そこから緩やかに5~6倍のオッズで4頭くらいが並ぶ、という多くの人々の”迷い”を象徴するような状況になっていた。

場外では、今村聖奈騎手が重賞レースに初騎乗、という話題に注目が集まっていたし、彼女が騎乗するテイエムスパーダは先行脚質でハンデ48キロ、しかも小倉競馬場では2~3歳時に【2100】という良績を上げていたことを考えると、データ的には本線に推しても良かったところ。

ただ、3歳重賞で惨敗を繰り返し、ようやく2勝クラスを勝ち上がってきたばかりのこの馬に「2番人気」という高い支持が集まっているのを見た時、「いくら実力派新人だからと言って、そんなに世の中甘いもんじゃないだろ」と、年寄りくさいことを考えてしまった。

もともと3歳馬より古馬の方が実績を残しているレース*1、ハンデ差を考慮してもオープンですでに実績を残している古馬たちの壁を超えるのは難しいだろう・・・

そんな思考で予想を組み立てたことを、ゲートが開いてから1分も経たずに後悔することになろうとは


発走直前に前年覇者のファストフォースの蹄鉄打ち替えで発走時刻が大きく遅れる。

そんな集中力を乱されても不思議ではない状況下で、ゲートを出るなり先手を主張。外枠から競り駆けてくるスティクスにもひるむことなく、けれん味のない逃げで最初の1000mのラップはなんと53秒8。

それでいて、最後のコーナーを廻っても全く衰えることのなかった脚色は、直線の半ばくらいでもうテイエムスパーダの圧勝劇を確信させるに十分なものだった。

結果、後続に付けた着差は3.5馬身。短距離戦としては異例で、しかも叩き出したタイムは遂に1分6秒の壁を破るJRAの芝1200mのレコード記録(1分5秒8)。

開幕週の馬場、しかも明らかに見てわかるパンパンの良馬場で、芝コースでは土曜日からレコードが度々出ていた状況だったとはいえ、出だしの3ハロンを31秒8で入り、そのまま馬の機嫌も損ねることなくぶっちぎりで走り切る、なんて芸当はベテランの騎手でもそう簡単にできることではない*2

それを「初騎乗」の重賞で冷静にやってのけてしまう今村聖奈騎手の末恐ろしさ・・・。

レース後には、「初重賞騎乗での優勝はJRA史上5人目」(中央所属騎手に限る)というニュースも流れていたが、1年目の騎手としては池添謙一騎手以来24年ぶり、2年目に重賞初騎乗初優勝を遂げた宮崎北斗騎手からカウントしても16年ぶり。東西ともに実力派騎手がひしめき、若手騎手には厳しい環境が続いていたこの10年、20年の歴史を一気に飛び越えてしまったことへの驚きは到底表現しきれるものではない。

そして、この快挙を伝えるニュースに、これまで彼女の活躍を伝える記事には必ず付きまとってきた「女性騎手」というフレーズが出てくることは決してなかった

余韻冷めやらぬ12レースでも今度は大外枠から差しを決めて連勝、と、あたかもルメール騎手のようなパフォーマンスで週末を締めた今村騎手。

すでに19勝を挙げて「新人王」の最有力候補となっている騎手とはいえ、これから先も、年間43勝という数字*3とか、「中央GⅠ騎乗」といった場面に直面するたび、「女性」というフレーズとともに語られる機会がしばらく続くことになるのだろう。

でも、そんな状況も、あと半年、1年ですっかり過去の話になる・・・そんなふうに思わせてくれる今村騎手の可能性を今は信じてみたいと思っている。

*1:出てくる馬自体少なかった、ということもあるが、過去10年で馬券に絡めた3歳馬は昨年のピクシーナイトしかいなかった。

*2:2着、4着に後方に構えていた馬が突っ込んできていることからしても、本来は先行勢にとっては厳しいレースだったはずである。

*3:藤田菜七子騎手が残した中央競馬での女性騎手の年間最多勝記録。

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