本当の「ノーマル」を取り戻せる日は来るか?

今月初めに突如として打ち出された「東京アラート」は、どうやら、レインボーブリッジを赤くライトアップするための一過性のイベントに過ぎなかったようだ。

未だに都内では、連日、20名前後の新規感染判明者が出ているし、一足先に”緩和”に舵を切った国々でも感染再拡大の報が断片的に報じられているにもかかわらず、アラートは解除、そして政府が打ち出している方針に歩調を合わせるかのように、淡々と「緩和」の方向へ向けた様々な施策が打たれている。

自分自身、元々、曖昧なリスク判断の下で、やみくもに「閉鎖」とか「休業」を事実上強制するようなやり方を好ましく思っていたわけでは全くないので、カフェや普通に食事ができる店の営業時間が大体常識的な時間に戻り、長らく休業していた近所の映画館で上映が再開されている光景などを見ると、良かったなぁ・・・と思う一方で、「夜の街」は来店者に記名させる、という業界の自主ルールだけで営業を事実上容認する(?)とか、次のステップでカラオケまで解禁する*1、という話を耳にすると、政策を打ち出す側で本当に正しいリスク判断ができているのか?ということにどうしても疑問が生じてしまう*2

3月以降、様々な分野の事業者から「何とかしてくれ」という陳情を受け続けているであろう政策当局が、「この業種はOK、でもこの業種はダメ」という”要請”の使い分けをいつまでも続けることは難しい、ということは理解できるし、東京都に関していえば、来月の知事選を控えてそろそろ「回復」ムードを演出したい、という現職サイドの空気も感じずにはいられないのだけど、これまで過敏とも思えるほどの注意喚起を行っていた割には、ここにきて少し急ぎ過ぎじゃないのかな?というのが傍から眺めている者としての率直な感覚だったりもするわけで*3

「一人ひとりが感染症拡大防止に気を配って『ニューノーマル』の行動様式を徹底すれば、爆発的な感染拡大を防げるはず」という建前は結構なのだけど、そうでなくても「パラレルワールド」のような個々人の価値観の相違が浮き彫りになっている現状において*4、街に繰り出す人が増えれば増えるほど、居酒屋に団体で押しかけて騒ぐ、とか、カフェで「利用禁止」の札を無視して固まって座り、マスクもせずにペチャクチャおしゃべりする、という”元の木阿弥”的行動様式をとる輩は増えてくるのは目に見えている*5

そもそも、真面目に『ニューノーマル』を貫徹しようとしたところで、この連日の暑さゆえ、マスク着用者は日増しに減少の一途をたどっているし、公共交通機関の通勤・通学者がこれ以上増えてくれば、そこに入った瞬間、接触を避けることすらままならないから、果たして今月末の時点で新規感染判明者数が今の水準にとどまっていてくれるのか、祈るような気持ちで眺めるほかないところもあるわけで・・・。

そして新規感染判明者数が50~100名/日くらいまでは戻ったとしても「緩和」に向けた動きは止まらないように思える今の状況下では、「自分の身は自分で守る」しかないのだ、ということを自分に強く言い聞かせつつも、「自分の身を守る選択の余地すらない」状況だけは「政策」の力で少しでも回避してくれよ・・・と思わずにはいられない*6


本来の理想は、コロナ云々にかかわらずポジティブな側面が多い「在宅勤務」とか「Web打合せ、商談」といったものがしっかり世の中に定着し、「方便的な検温・消毒」とか「フェイスシールドで接客」とかいった類の悪習は早々に消えて、本当の意味で「ノーマル」な状態に戻ってくれること*7。ただ現実が「逆」になる可能性も否定できない。

この国の尋常ではない高温と湿気の前に、ウイルスが雲散霧消して、何もなかったかのように「ノーマル」に戻るのが何よりも望まれることではあるが、それが叶わないのであれば、せめて「ノーマル」に楽しめるものだけが残り、そうでないものはドラスチックに形を変えて進化形で生き残る道を選ぶ*8、というのがベターだと自分は思っているが、それも今の時点ではただの理想論。

だから、これからもしばらくは、見かけ上いろんなものが”戻る”たびに、「なんか違う」違和感と戦い続けないといけなくなるのだろうけど・・・。


一つだけ言えることは、俗に『ニューノーマル』などと言われているものの多くは、決して「ノーマル」ではなく、あくまで暫定的な、その場しのぎの対応に過ぎない、ということ

そして、どれだけお上に押し付けられたところで、感覚的、本能的に受け入れられないものに”慣れる”ことなどできない以上、完全に「ノーマル」な状態に戻すか、あるいはそれをこれまでとは全く別の「ノーマル」だと思える形に変容させるまでは何も乗り越えたことにはならない、という意識を持ち続けることが大事なのだ、と自分は思っている。

今回限りの「変則型招集通知」に記された苦闘の跡。

さて、今年限りの「ニューノーマル」と言えば、やはり本格的なシーズンに突入しつつある株主総会をめぐるあれこれ。

総会の開催延期や継続会の話は、数日前のエントリーでも取り上げたところだが*9、ここ数日は、期間限定で改正された省令をフル活用したニューノーマル招集通知」が公表されるケースも目立っている*10

たとえば、6月8日に決算発表を行ったダイヤモンドエレクトリックホールディングス㈱は、6月11日付の定時株主総会招集通知(開催日は6月26日)に合わせ、事業報告の事業の経過及び成果や計算書類、監査報告等の内容を全て「インターネット開示事項」の方に記載している。

■招集通知:https://www.diaelec-hd.co.jp/cp-bin/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/%E7%AC%AC%EF%BC%92%E6%9C%9F%E5%AE%9A%E6%99%82%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E6%8B%9B%E9%9B%86%E3%81%94%E9%80%9A%E7%9F%A5.pdf
■インターネット開示事項:https://www.diaelec-hd.co.jp/cp-bin/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/%E7%AC%AC%EF%BC%92%E6%9C%9F%E5%AE%9A%E6%99%82%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E6%8B%9B%E9%9B%86%E3%81%94%E9%80%9A%E7%9F%A5%E3%81%AB%E9%9A%9B%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E9%96%8B%E7%A4%BA%E4%BA%8B%E9%A0%85.pdf

また、6月10日に決算発表を行ったRIZAPグループ㈱も、6月12日付の定時株主総会招集通知*11(開催日は6月29日)に合わせ、招集通知本通をはるかに上回る、実に55ページにわたる「インターネット開示情報」をWebサイトにアップしている。

■招集通知:https://ssl4.eir-parts.net/doc/2928/ir_material/141936/00.pdf
■インターネット開示事項:https://ssl4.eir-parts.net/doc/2928/ir_material/141935/00.pdf

いざ書類を送られてくる株主の立場になってみると、紙で送られてきた招集通知の方に、「いつものコンテンツ」が何も書かれていない状態で、そこからWebサイトの方を追いかけていかないといけない、というのはちょっとツラかったりもするのだけれど、今年の諸々の状況といずれは全て電子化される、という前提も踏まえれば、そこは寛容な心で受け止めないといけないな、と思うところ。

そして、最後に、これは・・・!と感じたのが、以下の「一部修正」だろうか。


■アネスト岩田㈱ 「第74期定時株主総会招集ご通知」の一部修正について
https://www.anest-iwata.co.jp/ir/library/ta2vfs000000178u-att/rev_convocation_notice_74th.pdf

こちらの会社は、一度「継続会」開催方針を発表していたのだが*12、決算作業の巻き返しが想定以上のペースで進んだようで、その後、継続会の開催取りやめを発表していた*13

その後、先月末にWebで開示された招集通知を見た時には、あれ?と思う記述(掲載されていない計算書類等が招集通知に掲載されていることが前提となっている記述)があったために、以下のようなツイートもしていたところだったのだが、まさか上記のような「修正」でカバーすることが予定されていたとは・・・

結果的に、現在Web上で開示されている招集通知は、そこまでの過程で何があったかを全く感じさせないような美しい仕上がりになっている。
https://www.anest-iwata.co.jp/ir/library/ta2vfs000000178u-att/convocation_notice_74th_re_20200610.pdf

一連のコロナ禍の始まりから、5月中の2度にわたる取締役会、そしてその後の監査法人のレビュー手続等の過程で、経理・財務担当者とIR、総会担当者の間で、日々様々なやり取りがあっただろう、ということは想像に難くない。

だが、そういった苦心の末、決算発表のタイミングに合わせてドラスチックに作り替えた招集通知を公表する、という「プランC」を実行し、「ニューノーマル」を正真正銘「ノーマル」な状態に引き戻した関係者の執念には率直に感銘を受けるところだし、このプランを実行するために、どれだけシビアなスケジュールをクリアしていかなければいけないか、ということを考えると、これを称賛せずして何を称賛しようか、という思いすら抱く。


3月くらいから、様々なイレギュラーな事態が続く中で、「もう二度とこんな思いはしたくない」という総会担当者は世の中にごまんといらっしゃると思うのだけれど、上記のような献身的な犠牲(?)の上に成り立っているようなファインプレーに接するにつけ、来年以降、定時株主総会が(運営をいったん元の形に戻すのか、それとも、次の時代を見据えた新しい形に移行するのかはともかく)、株主も雛壇上の役員も、そして何よりも運営するスタッフ誰もが、本能的、直感的に違和感を抱かない「ノーマル」な形で遂行できる場になることを願わずにはいられないのである。

*1:既にクラスタ発生事例も報じられているというのに・・・。

*2:こういった話になると、相変わらず「経済」を前面に出したがる人も多いのだが、小売店やITツールの提供者だけでなく、「休業」下で業態転換したことで逆にポジティブな効果が出た、という事業者も少なからずいる現状で、「全ての業界を元通りにすること」にどこまでこだわる必要があるのか、自分は強く疑問を感じているところである。

*3:飲食店にしてもオフィスにしても、中途半端な状態で営業を強いられ、ぶり返した途端にまた「規制」方向に逆戻り、というのが一番困るし、実際のダメージも大きい。だからこそ極力『ノーマル』に近い状況に戻るまでは、無理をせず待つ、というのが正しい選択だと思うのだが、ここ1,2週間は「無理」が垣間見えるところも多いなぁ、という印象を受けているところである。

*4:じわじわとパラレルワールド。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~のエントリーなど参照。

*5:後者に関しては、5月中ですら決して少なくない数の事例は見かけた。

*6:例えば、飲食店への「団体」での予約、入店に対して「自粛」を求めるとか(その分、訪れた個人が安心して食事を楽しめるようになれば、結局は事業者のダメージも最小限に食い止められるはず)、オフィスへの通勤機会を週2~3回に留めるように呼び掛けるだけでもだいぶ状況は変わるはずなのだが・・・。

*7:繰り返しになるが、不完全な状態でしか「再開」できないのであれば、いっそのこと止めたまま、閉めたままの方がユーザーも、事業者も、そこで働く(働いていた)人々も皆幸福でいられる、というものは世の中にはたくさんあるわけで、もう少し冷静かつスマートなリスク&損得ジャッジができないものか、とため息が出ることもままあったりする。

*8:中央競馬が「無観客」モデルで、収益をプラスに転じさせることに成功したように、カラオケボックスだって、各種興行だって、やり方次第でピンチをチャンスに変える方法はいくらでもあると思うのだが、現実は「元に戻す」か、さもなければ支援、補助、の二者択一思考のように見えてしまうのはちょっと残念だったりもする。海外発の新しい商業的な成功モデルが出てくるまで手をこまねいているだけなのだとしたら、それは寂しすぎる。

*9:それでも「6月」にこだわることを「形式主義」などというなかれ。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照。アップ後に開示された情報もこのエントリーに随時追加している。

*10:省令改正の内容については、「延期」か「継続会」か、それとも「予定どおり」か? 6月定時株主総会をめぐる瀬戸際の攻防。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~参照のこと。

*11:Webサイト上では6月11日に公表されている。

*12:5月11日付リリース、https://www.anest-iwata.co.jp/news/ta2vfs000000hf31-att/continuation_meeting_202005.pdf

*13:5月27日付リリース、https://www.anest-iwata.co.jp/news/ta2vfs000000hl0e-att/20200527.pdf

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html