分け入っても分け入っても、出口の見えない藪の中。

自動車が「コネクテッド」化していくにつれ、通信、電子部品系の特許の藪に巻き込まれていく・・・というのは、ちょっと前からずっと話題になっていたことで、今年もダイムラーノキアとの特許係争の末、和解、というニュースが報じられていたりもしたが*1、再び新聞1面を飾るニュースが出てきた。

「車載通信部品が特許を侵害しているとして米特許会社がトヨタ自動車やホンダなどを米裁判所に提訴したことが8日分かった。通信部品の特許を巡り日本車メーカーが訴えられるのは異例。十数件の特許が対象で短距離通信で重要な特許も含まれる。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」など通信の活用は広がっており、他の企業にも訴訟リスクが及ぶ可能性がある。」(日本経済新聞2021年12月9日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

訴えたのは著名なNPEsであるインテレクチュアル・ベンチャーズだから、自動車メーカーも訴えられたのはこれが初めてというわけではない。

さらに言えば、部品系の特許権侵害で訴えられる、という話にしても、日本最大手の鉄鋼メーカーが世界最大級の国内自動車メーカーを訴えた今となっては*2、「異例」という形容詞はもはやふさわしくない、というべきかもしれない。

ただ、そうでなくてもガソリン車から電動車へと大きな事業のモデルチェンジを強いられている自動車会社にとって、この種のアクションは一種のボディブローのようなもので、世界各地でちょっとずつリソースを割かれていく中で失うものは決して少なくない。

個人的には、標的にされているのが世界中で強い政治力を持っている業界だけに、権利行使者側が調子に乗って「虎の尾」を踏み続けた結果、少なくとも特許不実施主体からの請求に対しては容易に防御ができるような方向に世界中の法制度が変わっていく可能性はあるし、特にまさに今回戦場となった米国などは、「競争力強化」というかつての政策転換と同じ理由付けで、特許政策をガラッと一変させてくる可能性はあると思っている*3

それでも日本はイノベーションの保護=特許権の保護、という単純な発想から抜け出せないんじゃないのか、とか、周回遅れの「知財訴訟活性化」みたいなお題目を唱えてそのまま世界の潮流から置いてけぼりになるんじゃなかろうか・・・といった一抹の不安を抱えつつも、今は刺激的なニュースがあるべき法の姿、についての議論を深めることを期待して紛争の帰趨を見守りたいと思うところである。

*1:ダイムラー、「つながる車」でノキアに特許使用料: 日本経済新聞参照。

*2:タブーに踏み込んだ勇気は、この世の中に何をもたらすのだろうか・・・。 - 企業法務戦士の雑感 ~Season2~のエントリー参照。

*3:そもそも競争法の規制緩和とプロ・パテント政策がセットで語られることが多かった歴史を振り返るなら、その一方が大きく逆サイドに振れている今は、前の民主党政権時代以上に「アンチ・パテント」のベクトルが働きやすくなるような気がする。

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