自由と正義・特集「変わる土地所有法制」より

「『自由と正義』なんて最後の方の数ページしか読まない!」という方は今でも多いのかもしれないが、自分は毎月これが届くのを結構楽しみにしていて、最初のコラム*1から特集記事まで、元々関心のあるテーマかどうかにかかわらず、最低限一通りは目を通すようにしている*2

で、そんな緩やかな楽しみも、今月号に関しては、前号で巻末の予告を見た時から一段ギアが上がっていた。

なぜなら、特集が「変わる土地法制-所有者不明土地問題等の解決に向けて」だったから。

そして、実際目を通してみれば、中井康之弁護士の総論に始まり各論に続いていく記事の充実ぶりも、全く期待に反しないものだった。

この雑誌の解説記事の良いところは、実務家が書くがゆえの読みやすさと、ところどころに散りばめられる実務ネタと実務への示唆の興味深さにあるのだが、今回も掲載された記事はいずれもまさにそのコンセプトどおり。

特に、昨年のベストセラー『令和3年民法不動産登記法 改正の要点と実務への影響』を書かれた荒井達也弁護士*3の「相隣関係及び共有制度の改正による実務への影響と留意点」*4では、各論点ごとに「実務上の留意点」の項が設けられていて「これでこそ『自由と正義』!」と思いながら読んだのは言うまでもない。

個人的には、隣地使用権やライフライン設置権に関して繰り返し出てくる「違法な自力執行を誘発しないよう、事案に応じた丁寧な助言が求められる」(22頁、23~24頁)という警句や、枝の切除に関して我妻民法講義の記述を引きつつ、「弁護士としては、しゃくし定規な法適用を述べるのではなく、過剰対応にならないよう事案に応じた丁寧な助言が求められる」(24頁)とするくだり、軽微変更の範囲について「基準として一義的であるとは断言しにくい」とし、今後の判断にかかる留意点を指摘されている点(26頁)などが印象に残ったし、今後、様々な場面に接する中で、自分自身、もう少し考えていきたいな、と思ったところでもある。

また、続く上田純弁護士の「新たな財産管理制度ー所有者不明土地・建物管理人、管理不全土地・建物管理人」の論稿も、「所有者不明」の調査の程度(30頁)や、所有者不明土地管理命令を申し立てられる利害関係人の範囲(「民間の買受希望者については、議論があるものの、一律に排除されるものではな」い、とされている)(31頁)について一歩踏み込んだ記載があり、さらに管理不全土地管理制度について、「管理命令を求めるより、むしろ自ら訴訟提起して、物権的請求権等を行使することが適当である」と考えられる場合の指摘(34頁)や、「所有者不明管理命令」と「管理不全管理命令」の制度選択についての考え方にまで言及されていた(35頁)ことには大きな意味があるように思う。

自身の経験不足ゆえ十分なコメントはできないが、家裁周りの手続きの改正点について書かれた入江寛弁護士、稲村晃伸弁護士の解説記事も、これまでに世に出ている解説の中ではもっとも読みやすい部類のものだと思われるし、稲村弁護士が遺産分割にかかる具体的相続分の主張の期間制限に関して「10年が経過する直前の時期に相談を受けた」場合の悩ましさに言及されているくだり(43頁)なども、この雑誌ならでは、というところはあるだろう。

ということで、慌ただしさにかまけてこの一週間、ほとんど記事らしい記事をかけなかった反省と、施行まで徐々に日がなくなっていく中、他のテーマへの対応に追われて情報のアップデートができていないことへの危機感をにじませつつ、今回の特集でちょっとだけ”息継ぎ”ができたことへの感謝の意を込めて、このエントリーを書き残しておくことにしたい。

*1:ここのところ登場する先生方のご経歴やらご経験やらが飛びぬけ過ぎていて、もはや常人には書けないコラムになってしまっている感もあるが、読ませていただく分には面白い。

*2:数年前、そんな話を登録したての新人弁護士にしたら「変態ですね!」と切って捨てられてしまった(笑)のも今では懐かしい話である。

*3:書籍の紹介はk-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*4:日弁連から掲載許可を受けられたとのことで、荒井弁護士の事務所のウェブサイトで一般の方も読むことができるようになっている。 https://arai-lawoffice.jp/wp-content/uploads/2022/01/the_liberty_and_justice_202201.pdf

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html