「対前年比」の罠。

緊急事態宣言も、まん延防止もなかった今年のゴールデンウィークは、久々にどこに行っても結構な人出だった。

個人的なことを言えば、コロナ前なら、GWで長めに休みを取れる時はさっさと国外に逃亡していたし、そうでなければ、あえてどこに行くにも高くつく時期に動く必要もあるまい、と都心にどっかり腰を据える生活だったから、「GW中に国内旅行」なんて行動に出ることはまずなかったのだが、今年に関しては、そんな人間すら重い腰を上げて動いたくらいだから、まぁ人出が増えるのも当然といえば当然だろう。

結果、メディア恒例のGW明けの振り返り記事は、以下のような書き出しで始まることになった。

「2022年のゴールデンウイーク(GW)は3年ぶりに新型コロナウイルスの緊急事態宣言が発令されない連休となり、各地で人出が前年を大幅に上回った。」(日本経済新聞2022年5月10日付朝刊・第2面、強調筆者、以下同じ。)

出てくる数字を並べてみても、

・都心から近い行楽地や商業地、沖縄や北海道のいずれも前年に比べて3割~2倍人出が増えた。
・大阪の心斎橋と東京・銀座はいずれも前年比で約2倍の人出となった。
パレスホテル東京(東京・千代田)では客室の稼働率前年比16ポイント高まった。
JR東日本などJR旅客6社が9日発表した4月28日~5月8日の輸送人員は前年同期比2.5倍の約907万人だった。
(同上)

と、「前年比」ではまぁかなり景気の良い話になっているのではあるが・・・。


19年のGWとの比較でも大幅増となったことが報じられた箱根や軽井沢、三越銀座店、といったところは、これでよいのだろうと思う。

新型コロナ禍下で長く強いられた耐久生活のリバウンドで、ここぞとばかりに飛び出した人々が殺到してお金を落としてくれたのであれば、これまでしのいできた関係者も報われる、というものである。

だが、それ以外はあくまで”参考記録”。

「対前年比」では大幅に増えているように見えても、19年比、18年比といった数字を出すと途端にお祝いムードも盛り下がってしまう。

GWの後半に、行き帰り「指定席は満席です」のアナウンスが繰り返し流されていた新幹線に乗って出かけた者としては、あれでもまだ「コロナ前」に戻っていないのか・・・と愕然とさせられるのだが、冷静に考えれば、指定席を予約したのは4月も終盤に差し掛かる頃で、コロナ前ならとっくにもう乗れる列車など亡くなっていたタイミングである。

臨時列車がそれほど走っていたわけでなく、それでも直前に予約が取れてしまった、という時点でやはりまだ「平年」には程遠い、ということを感じなければならなかったのだろう。

おそらく、この先、今の政権下では、これまでのように「新型コロナ対策」でドラスティックな措置が講じられる可能性は低いから、感染者数の数字が少々盛り返そうが、賑わいはより増していくばかりだろうし、そうなると「対前年比」は常に100%超、という数字が刻まれ続けて、関係者も読者も何となくハッピーな気持ちになれるのかもしれない。

ただ、それはあくまで”見かけ”だけの話。

ちょっとでも危機感を抱いている人なら「対前年」の数字など相手にせず、対18年、19年比の数字と対予算、対目標の進捗だけをシビアに追っていくはずだが、その意識が適切に共有されているのかどうかは、何ともいえないところがあったりもして・・・。

どれほど「コロナ前」に近づいても、決して元通りになることはないだろうな、と感じられるのが今の状況だけに、最後に残ってしまうギャップをどう埋めていくか、というところで経営の知恵が試される。そして、そこで適切な知恵を出せなければコロナ禍下よりもっとひどいところに堕ちていくおそれがある、ということは改めてここで強調しておきたいと思っている。

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