「数」が示す残酷な現状をここから超えていくために。

終わったものは一瞬にして忘却の彼方に押しやってしまうのが自分の性格。

世の中には自らが合格してもなお、後進に熱いエールを送り続けている方も結構いらっしゃるようなのだが、自分の場合、まだ試験を受け続けていた頃から、論文試験が終わった次の日には、自分が解いたはずの問題をすっかり忘れてしまっていたような人間だから*1、後進に、しかも、制度も試験の体裁もがらりと変わってしまった今の試験の受験生やら合格者やらにかけられる言葉など、持ち合わせているはずもない。

そうはいっても、このブログでは何だかんだと毎年報じられる試験結果を伝えていたりもするが、今年もその季節になって、「あれ、何で去年エントリー書かなかったんだろう?」と小一時間考え込んでしまうようなレベル*2だから、感覚としては、身近なところに関係者がいない巷の一般人とほとんど変わらない。

ただ、今年の合格発表を伝える記事には、やはり衝撃を抱かざるを得なかった

法務省は7日、2021年の司法試験に1421人が合格したと発表した。前年より29人少なく、政府目標の「1500人以上」を2年連続で下回った。合格者の減少は6年連続。受験者数は前年比279人減の3424人で、「法曹離れ」が進んでいる。」(日本経済新聞2021年9月8日付朝刊・第39面)

法務省前の掲示板での発表がなくなったのは、見に行った自分の記憶と照らすとちょっと寂しい気もするが、このご時世では致し方ないところだろう。

合格者数についても「1500人」の数字との関係でいろいろ言う人はいるだろうが、今の数字では誤差の範囲内だし、自分の経験上「1421人」が少ない、という感覚は全くないので、これも大したことではない。

だが、受験者数が3500人を割り込んだ、というのは・・・。

思えば、昨年の試験でも受験者が4,000人を割り込んだ、というのはちょっとしたニュースだったとは思うのだが*3、自分は、新型コロナの影響で受験回避の動き等もあったのでは?と思っていたところもあった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

しかし、通常日程に戻った今年の数字は、昨年の試験に輪をかけてひどい*4

出願者数 3,754名(前年比 472名減)
受験者数 3,424名(前年比 279名減)
合格者数 1,421名(前年比 29名減)

思えば、自分が受けていた時も、毎年6,000~7,000名くらいの短答通過者が論文試験会場に押しかけていた”バブル”が去り、「論文試験受験者が3,000人台に激減した!」と話題になった時期があった*5

だが当時の「3,000人」は、25,000人以上の不合格者の上に積み重ねられた数字今の数字とはそこに至るまでの厚みが違い過ぎる

結果的に合格率は41.5%となり、「初回ボーナス」と揶揄された2006年の第1回の合格率(48.3%)にあと一歩のところまで迫ってきた*6

そしてそれをもって、「原点回帰」「法科大学院創設当初の理想に近づいた」等々と本気で評価している人も、もしかしたらどこかにいらっしゃるのかもしれないが、それは木を見て森を見ぬ、あまりに危機感が欠如した発想ではないかと自分は思うし、様々なものを犠牲にして、多くの方々の無念の思いの上に築き上げられてきたこの制度の20年先の到達点が、「シュリンクした沼の中の合格率7~8割」なのだとしたら*7、あまりに悲しすぎる・・・。


「人数」の話は難しい。

つい先日も、某団体が理事長声明、と称して公表した「合格者数増加アピール」が物議をかもしたばかりだが、今、法科大学院に在籍して、あるいは予備試験をクリアしてこれからチャレンジする、という方々や、今まさに法科大学院に進学しようかどうか迷っている方々にとっては、あれは”渡りに船”のような話なわけで、

「自分以外の受験者は少なければ少ないほどいい。合格者は多ければ多いほどいい。」

というのは、受験生にとっては当然の心理で、決して責められるようなことではない。

自分だって、かつてはもちろんそうだった。

針の穴を通すような確率に変わりはなくても、短答試験前に公表される受験予定者数が毎年数千人単位で減り続けるのを見れば少しは勇気が出たし、短答の結果発表の時は、自分の合否の前に「通過者」が何人いるかの方が気になった。

最終合格者の数に関しては、「増やさなくていいから、せめて前年並みに枠を残してほしい」という思いさえ一度も届くことはなかったのだが、「率」がどんなに下がっても競り合う相手の数が減れば何とかなる・・・みたいな宗教染みたものに取りつかれていたのもあの頃のことだ*8

だから、そういう受験生、潜在的受験生に接している方々が、制度の根幹に影響を与えている間は、そう状況が変わることもないだろうな、ということも理解はしている。

ただ、もっと広い視点からこの社会の法文化の担い手を、よりシンプルに言えば「法を扱う仕事に関心を持つ人々」を、増やそうと思うなら、やはりそれ相応の”すそ野”は必要になってくる、と自分は思う。

そして、10代、20代で決めた進路だけが全てではなく、むしろ世の中に出てから磨かれた問題意識こそが「法」を作り、動かす原動力になったりもすることを考えれば、「まず法科大学院入学ありき」の制度だけでは、全てのニーズを取り込めないのも自明の理であるはず。

不幸中の幸い、というべきか、昨年減少に転じていた予備試験の受験者が、今年は1000人以上増加し「11,717人」と一昨年の規模を取り戻している*9

この数字を「本番」の司法試験の受験者数に加算すると15,141人。

それでもなお、黄昏時だった2009年の旧試験の受験者数(15,221人)に及ばないのだが*10、それでも毎年コンスタントに10000人以上の挑戦者を迎え入れている予備試験が「裾野」の下支えに辛うじて成功していることは疑いようもない事実である。

予備試験に対しては、法科大学院に(諸事情により)「行けない」人のための試験ではなく、「行かない」奴らのための試験になってしまっているではないか、という批判がされるようになってから久しいのだが、いつの時代だって社会人受験生が司法試験の主役になったことなんてないのだからそれは仕方あるまい。

そんなことを気にするよりは、予備試験を目指す層をさらに厚くすることの方が今は大事。

司法試験の合格者を増やすのは一向に構わないけど*11、それならその増える人数分だけは予備試験の合格者数も増やせ、あるいは、法科大学院ルートで減った受験者の分は、予備試験合格者を増やすことで補え・・・等々、できることはいくらでもあるのだから、何とかそろそろ流れを変えよ、そして、今、法にかかわるすべての者が裾野を広げるための努力を惜しむな・・・ 今言えることはそれだけ、である。

*1:当時のカレンダー的に、試験の翌日は3連休明けでフルスロットルで仕事に戻らないといけない、という状況で受け続けていたゆえ、とはいえ、仮に専業受験生だったとしても「再現答案」とかそういう類のものには興味を示すことはなかったような気がする。試験なんて、その場で起きたことが全てで、それ以上でもそれ以下のものでもないのだから・・・。

*2:オチとしては、「昨年は新型コロナの影響で試験のカレンダーが大きく変わって合格発表が今年の1月になっていた」ということなのだが、要はそんな大きな変化すら記憶に残っていなかったほどの関心度合い、ということである。

*3:平成19年の第2回新司法試験を4607人が受験して以来、長らく割り込んだことのなかった大台だったから・・・。

*4:https://www.moj.go.jp/content/001355253.pdf参照。

*5:法務省のページで過去を紐解いてみると、まさに第1回の司法試験が始まり「旧試験大虐殺」が始まった2006年の話であった。

*6:日経紙はなぜか「現在の司法試験制度が始まった06年以降最高となり、初めて4割を超えた。」という記事を書いているのだが、これは2006年当時の合格率を新旧の両試験を通算してカウントしているから、ということなのだろうか?(だとすると合格率4.8%。次元の違う数字になる)さすがにそれは当時の試験主催者のスタンスを考えても、当事者感情からしてもおかしな数値操作だと思うのだが・・・。

*7:受験者数がこのペースで減少して、かつ今の合格者数が維持されれば、3年後には合格率約7割の水準に到達する可能性は十分にある。

*8:最終的には、そういったことを一切気にせず、自分の答案を書くことだけに徹する、という境地に達した時にようやく運がめぐってきたので、そういうものなのだと思っているが・・・。

*9:https://www.moj.go.jp/content/001349716.pdf参照。

*10:旧試験の最後の方の状況はhttps://www.moj.go.jp/content/000057098.pdf参照。

*11:実際、「企業内」でのニーズがあるかどうかはともかく、「企業法務」の細かいニーズを拾ってフォローできる弁護士の数は今でも圧倒的に足りていない、というのが現状なので。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html