何度見てもぬぐえない「被害者救済新法」というフレーズへの違和感

本来なら政権与党が盤石の基盤に支えられて悠々と乗り切れるはずだったのに、身内の様々な問題が噴出した結果、会期末ギリギリまで対応を余儀なくされた今年の臨時国会

最後まで「政治」に振り回された結果、最大の目玉法案の参院本会議での採決がまさかの土曜日(予備日)になる、という異例の展開となってしまった。

自分自身、この臨時国会の会期のほとんどが、何かと慌ただしい時期に重なっていたこともあって、各種報道もチラチラと横目で見るだけだったのだが、そんな中でもずっと違和感を持ち続けていたのが、メディアでよく使われる「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者の救済に向けた新法案」という表現。

なぜなら、この「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律案」という名の法案は、そのタイトルからして分かるとおり、「旧統一教会」にフォーカスしたものでもなければ、「宗教法人」にフォーカスしたものですらない。

一部、与野党協議で修正されたという報道もあるが、成立した法律の内容は、↓に公表されたものが基本になっている。
https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/consumer_system_cms101_221201_03.pdf

そして、その目的規定は、

第1条 この法律は、法人等(法人又は法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めがあるものをいう。以下同じ。)による不当な寄附の勧誘を禁止するとともに、当該勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めることにより、消費者契約法(平成十二年法律第六十一号)とあいまって、法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図ることを目的とする。(強調筆者、以下同じ)

となっており、この法律に書かれている内容が、特定の宗教法人を対象としたものではなく、ありとあらゆる「法人等」を対象とした汎用的な民事的規律であることを明確に示している。

第4条で定められた「寄附の勧誘に関する禁止行為」の名宛人は「法人等」だし、審議中大きな争点となった第3条の「寄附の勧誘を行うに当たっての配慮義務」)名宛人も「法人等」

同時に審議されて可決成立した消費者契約法については、第4条3項6号が

「当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として」

という枕を置いているから、それでもまだ「宗教」ないしそれに類するものが対象だ、と言い切ることも可能だったのだが、新設の法律は「法人等」というフレーズ以外に規制行為の主体を限定する要素がないだけに、適用範囲が無限に広がってしまう可能性も秘めている。

もちろん、「目下の被害者救済」という側面を重視すれば、これまで他の各消費者保護法が取り込めていなかった「寄附」の概念とその問題性を条文化しただけで十分意味があると言えばそれまで。

ただ、そのメリットを考慮しても、世の中の「寄附」全般に広く網をかける新法がこの先もたらすハレーションの方がやっぱり心配だったりもするわけで・・・。


多くの関係者が「一つの方向」だけを意識して突貫工事で作った法案とはいえ、ひとたび「法律」になれば、立案担当者の思惑を超えて、関係する当事者が思い思いの解釈を展開することになる*1。だからこそ、当初、政府・与党側が示していた意向のとおり、この新規立法にあたっては十分時間をとって影響を吟味する方が良かったように思われるし、それが叶わなかった今となっては、立法者の本来の意図から離れたところでこの新法が濫用されないよう、裁判所が謙抑的な解釈をしてくれることを期待するしかない。

そして、本当に考えるべきは、(この立法の契機となった行為も含めて)エキセントリックな政治の渦に巻き込まれる前に、既存の法律で対処できたはずのことに対処していなかった、という問題ではなかろうか。

立法者の思惑通りに事が進めば、これまで繰り返されてきた「詭弁」は、新法の施行とともに封じられ、あるべき姿に近づくことになるのだろうが、同時に新たな法とともに生まれてくる「詭弁」も必ずある。それに振り回されていたら、結局これまでと何ら変わらない。

そうならないように、湧き出てくる有象無象を正義と衡平の感覚で的確にジャッジして、真に救うべきものを救う。

それが、法を執行する or 法に基づき判断する機関と、自分も含め、そこに対してアクションを起こす者たちに求められるものだと思っている。

*1:そして、その答えが正しいかどうかは、裁判所が判決を書くまでは確定しない。

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