久々に見た「ストライキ」のフレーズに思うこと。

春闘」という言葉を聞かなくなって久しい昨今だが、今年の春季労使交渉の結果は、実に衝撃的なものだった。

日本を代表する大企業が提示する回答は、金額も賃金改定率も自分が気にし始めてからは見たことのないような数字で、会社によっては満額どころか労組の要求水準まで上回る結果に・・・。

ここ数年一貫して業績好調だった会社や、コロナ禍下で凹んだ分を急激に取り戻している航空業界等がこのタイミングで大盤振る舞いするのは分かるのだが、そうではない、これ以上コストが上昇するとコロナ禍下で傷んだ財務基盤をより悪化させかねないような企業まで”右へ倣え”の如く大幅な賃上げに追従している。

昨年来の急激な物価上昇に加え、政府自身が旗を振って賃上げのプレッシャーをかけている、という事情があるのは分かるのだが、物価が上昇している中で賃金までそれに合わせて引き上げれば、よりインフレがエスカレートするだけ、という理屈もある中で、だからこそ、高度成長期に激しい労使交渉が繰り返されていた、ということを考えると、「使用者」側も随分と弱気になったものだなぁ・・・と思わずにはいられなかった*1

しかし、そんな中、”労使”が団体交渉で一歩も譲らず、とうとうこの週末には、ストライキ決行」となってしまったのが中央競馬の世界。

メディア等によるざっくりした報道によると、今世紀に入ってからしばらく競馬人気の低迷が続き、馬券売り上げも減少する中で改訂された厩務員の賃金表を元に戻すかどうか、という話のようで、確かにここ数年のブーム到来と新型コロナ禍下のDX化の効果で中央競馬が大幅な増収増益となっていることを考えると、「労」側の厩務員組合が強硬なスタンスになるのもやむを得ないところではあると思う。

もっとも、難しいのはここで「使用者」の側に立つのが、胴元のJRAではなく「日本調教師会」である、ということ。

確かに、厩務員の雇い主はJRAではなく各厩舎の調教師、という建前がある以上そういう構図になるのはやむを得ないとしても、配分する収入の原資をレース主催者であるJRAに大きく依存している調教師が「当事者」として交渉の矢面に立ったところで、建設的な話し合いになりにくいのは容易に想像がつくところ*2

それゆえ、合理的な落ち着きどころを見いだせないまま、最終手段、ということになってしまったわけだが・・・。


全レース開催中止、という事態こそ免れたものの、何頭かの馬はストライキ絡みで出走取消となった。

労働組合すら存在しないのに、天から大幅な賃上げが降ってくる世界があることを考えれば、他方でファンの恨みを買い、手塩にかけた馬たちと自らの身を削ってまでストを打たなければならない*3労働者がいる、というのはずいぶんと理不尽な話だが、前者が健全な世界かといえば、それは絶対に違うと自分は思う。

明暗を分けたパラレルワールドが、今後それぞれどうなっていくのか、今予想することは難しいのだけれど、時流に乗らなかった後者の世界こそが、5年後、10年後、幸福に存続している世界になるような気がするし、その結果が目に見えてきたときに、2023年のこの奇妙な春をまた思い出すことになるのだろうな、と今は思っているところである。

*1:そして、こういった経営の根幹にかかわるような事柄ですら自律的な判断ができない企業が多いように見える、というところに、今のこの国の最大の病理があらわになっている、と言わざるを得ないような気がする。

*2:この辺は、かつて国鉄が置かれていた状況と共通する面も多いような気がする。

*3:しかもそこまでやっても状況は大きく改善されなかった・・・。

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