その読みにくい馬の名をこれから何度叫ぶのか・・・

サートゥルナーリア。

キーボードで打ち込む分には、最近になってようやくスムーズにローマ字入力ができるようになったが、声に出して読もうとすると未だに噛む。
しかも短く略そうにも、どう縮めたらよいのか分からない・・・。

そんな馬が、秋初戦の神戸新聞杯で、「直線持ったまま、上がり3ハロン32秒3で後続を突き放して優勝」というなかなか派手なスタートを切った。

少頭数の超スローペースな展開だったから、勝ちタイムこそ平凡。
ダービーの時のような超ハイペースに巻き込まれた時にどう立ち回れるかは、もう一度やってみないと分からないところはあるとはいえ、あのダービー以外は「無敗」というほぼ完ぺきな戦績でGⅠ戦線に向かっていくことになる。

同じ角居厩舎にいた半兄(エピファネイア)は、同じようなローテーションで菊花賞に向かって見事に勝ったし、この馬も、これだけスローペースで折り合いが付く(そして直線で爆発的な脚を繰り出せる)のであれば、3000mくらいの距離は楽々クリアできてしまいそうだが、一方で、この日の中山のオールカマ―の惨状や、古馬の有力馬がこぞって凱旋門賞に参戦しそうな状況を見ると、天皇賞・秋ジャパンカップ、というルートでも偉業達成は成し遂げられそうな気がする。

本来なら世代を代表するはずだったロジャーバローズが早々と引退し、単なる「一冠馬」以上の輝きを放っているこの馬が名実ともに引っ張るのが今の3歳牡馬陣。

もう少し呼びやすい名前だったらよかったのに・・・ということ以外の欠点は今のところ見えない馬ではあるのだけど*1、たった3か月の間でも、いい意味でも悪い意味でも予想を裏切られることが常な世界だけに、ここはもう少し見守っていくことにしたい。

*1:母・シーザリオほど分かりやすくなくてよいのだけど、古代欧州のお祭りの名前からとるにしても(同じく読みにくかったエピファネイアも似たような語源)、もう少し考えろよキャロット・・・。

注目されるべきは「性別」などではなく・・・

知る人ぞ知る、だった元法務省人権擁護局長、前消費者庁長官が遂に・・・と思ったら、何か感慨深かった。

「政府は20日閣議で、山本庸幸最高裁判事が9月25日で定年退官するのに伴い、後任に消費者庁長官の岡村和美氏を任命することを決めた。」(日本経済新聞2019年9月21日付朝刊・第5面。強調筆者)

このニュースのどこに食いつくかは人それぞれで、一番メジャーな反応は「女性」という点への食いつき(今の最高裁判事の中では、宮崎裕子判事に続く2人目)だろう。

それに次いで、「元検事(&法務省官僚)」という肩書に注目する人もいれば、「ハーバード・ロースクールという経歴に着目する人もいるし、「長島・大野法律事務所出身」というところに目を付ける人もいる*1

で、自分の立場、というか思いからすれば、当然、「元モルガン・スタンレー証券法務部長」というところに目が向くし、おそらくは「初の民間企業法務部(長)出身の最高裁判事誕生」となるであろう事実を感慨深く受け止めているところもあるわけだが・・・

*1:長島・大野出身者もこれで宮崎判事に続き2人目、ということで、偶然とはいえ重なるものだな、と。

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盛り上がりに水を差したくはないのだけど・・・

ラグビーのワールドカップが始まった。

4年前の英国W杯での大躍進、そして、その流れを受けての自国開催、ということもあり、世の中的にはまぁまぁ盛り上がってはいるのかな、という雰囲気はある。

ただ、開幕戦となったロシア戦、試合そのものにはボーナスポイント付きで勝った(30-10)ものの、そこまで揺さぶられるものはなかった。

自国での晴れ舞台&開幕戦の独特の雰囲気にのまれたか、ミスから先制を許す、という最悪の形での試合への入りを目撃することになってしまったことも理由の一つ。

これまでのW杯とは異なり、対戦相手の組み合わせにも、日程的にも非常に恵まれている、というのが今大会の日本代表なのだが、初戦の戦いぶりを見る限り、POOL A最上位のアイルランドにはもちろん、スコットランド相手にも勝てそうな雰囲気は感じられなかった*1

もちろん、冷静に考えれば、後半の最後の10分、20分を、これだけ安心して見ていられた試合、というのは、2011年以前のW杯はもちろんのこと、前回の大会でもほとんどなかったから、PNCで見せた圧倒的な強さとか、大会前の「好調」という報道に煽られて期待感が高まり過ぎているのでは、と言われればそれまで。

むしろとびぬけたスリルや興奮を観戦者に与えることなく、「白星」という結果を出せるようになったことに、「チームの進化」がある、というべきなのかもしれない。

だがもう一点自分が気になったことがあって、それは、日本代表としての「連続性」である。

いろんな縁があって、前回のW杯の翌年くらいから、年2試合くらいのペースで秩父宮に試合観戦に行くようになったこともあり、代表チームも、そこに選手を送り出す国内のトップリーグのチームの歴史もそれなりに追いかけてきたつもりなのだけど、スーパーラグビーの日程等との兼ね合いで”ベストメンバー”の日本代表をなかなか見られないうちに、蓋を開けてみたら、2015年からの流れで”代表の顔”だろう、と思っていた何人かの選手が、W杯本番のメンバーに入っていない、という事態になっていた。

この点に関して言えば、サッカーの世界でもW杯の間の4年間でメンバーが大幅に入れ替わることは当然にあるし、一次予選、二次予選くらいまでチームの主力を担っていた選手が、負傷や移籍等をきっかけに、ある時期から急に招集されなくなってW杯や五輪の舞台に立てない、ということだって時々ある話で、「最強のメンバーで本番に臨む」という精神からすれば、コンディション等々の状況に応じてその大会でベストのパフォーマンスを発揮できる選手を選ぶ、というのが正しい選択なのだろうとは思うのだけれど、誰もが「次のW杯では絶対主役になる」と思っていた立川理道選手が名を連ねていない代表って何なのだろう・・・という気はする*2

自分とて、ラグビーの世界特有の”ダイバーシティ”を否定するつもりは全くないし*3、生きのいい若手選手を積極起用する、というのも決しておかしなことではない。

ただ、南アフリカ戦のメンバーが、ロシア戦の先発に5人しか名を連ねておらず、しかも、代わりに先発に入っているのは、キャップ数がようやく2桁に達するか達しないかくらいの、ここ2,3年の間で、初めて代表に選ばれたような選手たちばかり、ということになると、やっぱり寂しい気持ちにはなる。

ラグビーの場合、サッカーのように国内リーグ戦での活躍が大々的に報じられる機会が少ないし、サンウルヴスにしてもチームの勝ち負けを超えて、選手一人ひとりにスポットライトが当たる機会はそうあるわけではない。そして、どんなに弱小チーム相手の親善試合でも世界中からメンバーを揃えられるサッカーとは異なり、「代表戦」の位置づけがまたちょっと微妙なものになっていたりもする*4

だから、トップリーグに始まってスーパーラグビーから代表戦まで、本当に熱心に張り付いてみてきたコアなファンなら納得できるのかもしれない今回のメンバー選考も、時々試合を見に行ってその時々のメンバーをチェックする程度のライトなファンには、今一つ意図が伝わってこないわけで・・・。

*1:松島幸太朗選手のキレキレの個人技は際立っていたけど、一流国のバックス陣が彼にあそこまで自由を与えてくれるとは到底思えないわけで・・・。

*2:メディアで騒がれている五郎丸選手に関して言えば、年齢に加えてケガもあり、前回のW杯が事実上代引退試合になってしまっていたところはあったからやむを得ないとは思うのだが、同じような理由で今回代表メンバーから消えてしまった”千両役者”山田章仁選手に関しては、福岡堅樹選手を負傷で欠いている今となってはメンバーに入れておいてほしかった、という思いがどうしても湧いてきてしまう。

*3:そもそも、リーチ・マイケル主将にしても、トンプソン・ルーク選手にしても、単に日本国籍を取得している、という以上に生粋の日本人気質を備えているように感じられることは多いし、他の選手の中にも、高校、大学から日本の環境でもまれて育ってきた選手は多いから、その意味では「人種の違い」だけに着目して「ダイバーシティ」と言ってしまうこと自体が失礼な気がする。

*4:この4年近くの間見ていて、スーパーラグビーと代表戦の間の優先順位の付け方には最後まで理解できないところはあった。W杯に先駆けて早々と撤退を決めたのも、単なる金銭面の問題だけではないいろんなしがらみがあったような気がしてならない。

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「個人」の刑事責任を追及することの難しさと虚しさ、そして模索すべき第三の道。

検察審査会ルートで強制起訴され、東京地裁で審理されていた東京電力福島第一原発事故に関する業務上過失致死傷被告事件の判決が出た。

2015年7月の起訴議決に始まり、在宅起訴を経て、行われた公判は、2017年6月の第1回公判を皮切りに実に37回*1

事故からは8年半、起訴からも約4年。当事者でなくても気が遠くなりそうな時間の経過を経て、東京地裁が出した結論は、被告人3名、全員無罪、というものだった。

福島第1原子力発電所事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東京電力旧経営陣3人の判決が19日、東京地裁であった。永渕健一裁判長は勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)に対し無罪(求刑禁錮5年)を言い渡した。3人は公判で無罪を主張していた。」(日本経済新聞2019年9月19日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ)

現時点の報道ではあくまで「判決要旨」のレベルの中身しか出てきていないのだが、自分が見た限りではもっとも詳細かつ信頼性が高そうなNHKのニュースによると、おおむね以下のような内容のようである。

「判決で、東京地方裁判所の永渕健一裁判長は、裁判の大きな争点となった原発事故を引き起こすような巨大津波を予測できたかについて津波が来る可能性を指摘する意見があることは認識していて、予測できる可能性が全くなかったとは言いがたい。しかし、原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」と指摘しました。」
「そのうえで、原発事故の結果は重大で取り返しがつかないことは言うまでもなく、何よりも安全性を最優先し、事故発生の可能性がゼロか限りなくゼロに近くなるように必要な措置を直ちに取ることも社会の選択肢として考えられないわけではない。しかし、当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを前提としておらず、3人が東京電力の取締役という責任を伴う立場にあったからといって刑事責任を負うことにはならない」として無罪を言い渡しました。」
NHK NEWS WEB 2019年9月19日 17時30分配信)*2

これまでにも強制起訴された業務上過失致死傷事件で、似たような構図で組織のトップクラスの幹部が訴追された事件はあったし、それらの事件でも結果回避義務とその前提となる予見可能性の有無が主要な争点になってはいたのだが、本件の特徴としては以下のような点が挙げられるだろう。

事故による被害がこれまでにないタイプのもので、その広がりも非常に大きいこと*3
・事故の原因となった大震災とそれによる津波の襲来が、客観的に見れば極端に発生確率が低い事象であること*4
・一方で、(信頼性には争いがあるものの)津波の襲来の可能性を指摘する政府委員会の評価結果があり東電側でもそれに基づく対応要否の検討を行っていたこと。

裁判所が指摘したとおり、結果は極めて重大、だが、事故の原因もまた極めて特異、という極端な事件であることから、「被告人らが『東電の幹部』という業務上の地位にあった」ということをもって生じた結果への責任を帰責できるか、という判断もまた難しいものとなった(それゆえに検察官も起訴を見送った)のは間違いないところである。

そして、その悩ましさを見事なまでに投影した(特に予見可能性の「程度」のくだり)上で導かれたのが、今回の無罪判決なのだと自分は理解している。

*1:公判の概要等はNHKのWebサイトに詳細に記録されている。詳報 東電 刑事裁判「原発事故の真相は」|NHK NEWS WEB

*2:原発事故 東電旧経営陣に無罪判決「津波の予測可能性なし」 | NHKニュース

*3:おそらく公訴事実として記載された死者、負傷者の数だけで言えば、他の事件の方が多くなっている可能性はあるのだが、原発事故の場合、それ以上に有形無形の被害が生じており、かつ、それが現在に至るまで続いている、という点が大きい(そういった要素が公訴事実の中にどこまで含まれているのかは、今確認できる資料だけでははっきりとは分からないところではあるのだが・・・)。

*4:現に大震災が起き、事故も起きているからこそ、「予測できたはず」という議論になびきやすいのだが、2011年2月の時点ですら、「来月、M9.0の地震が起きて福島県沖から高さ14~15mの津波が襲来する」と聞いて、それを信じて回避行動をとる通常人はほとんどいなかっただろうと思われる。たとえ、その後に「政府の地震調査委員会がそういう評価結果を出している」という説明を付け加えたとしても。

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上り坂?下り坂?あるいはまさか・・・?

日本が3連休に浸っている間に、サウジアラビアの油田がドローン攻撃を受け、産油量の日量半分が出荷不能になった、ということで原油価格は急上昇。
先週まで根拠なき9連騰に沸き立っていた東証日経平均も早々に下げに転じる・・・はずが、昨日もわずかながらプラスでまさかの10日続伸。

さすがに今日は石油銘柄の反落とか、”そろそろ・・・”の空気を察した人たちが売りに転じたこともあってか、ようやく一息、という感じになったのだが、それでも8月の中頃に比べれば、どの銘柄も随分と跳ね上がったままで、下値を拾おうと待ち構えていた者にとってはなかなかツライ展開に。

国内で一大事があったわけでもないのに、5カ月も22,000円台から遠ざかっていた、という話を改めて聞くと、それまでがおかしかっただけかな? と思う一方で、どの指数を見ても、足元の景気は確実に悪い方向に向かっていて、しかも来月には消費増税が待ち構えている。

だから、10月末から11月にかけて四半期決算で下方修正が相次ぐタイミングと、10月の小売・BtoCサービス各社の月次の数字が出てくるタイミングが重なったところで再び大暴落、と読むのが正しい筋だと思うのだけど、果たしてどうなるか・・・。

ちなみに、今年の初めに立てた予測がこれ。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ちょっとずつ微妙にいろんなものがずれてはいるのだけど、「春先まで上昇で5月、6月に調整局面、再び7,8月以降で上昇に」というトレンドだけは当たっていて(再度の上昇に転じるタイミングは半月~1月くらいはズレたけど)、この「運」がまだ生きているならば、今月末~来月くらいから一気にまた下り坂ということになって、(当たってほしくはないけど)先ほどの話とも見事に符合する。

マクロなトレンドが結果的に当たっていたとしても、日々の値動きを追う余裕がなくて、結局いいタイミングで売り買いができていないんだったら意味ないじゃん・・・と自分に突っ込みを入れるほかない状況ではあるのだけど、まずは明日からの「一歩」がどちらに動くのか、心の中で読みを決めて*1、ちょっとした運試しをしてみることにしたい。

*1:どちらを予測したかは非公表(笑)。今のNY市場の値動きを見れば、ば下がると予測する人が多数派なのだろうが・・・。

「松坂世代」最終章の逆転劇

今、中日ドラゴンズに在籍している松坂大輔投手の今シーズン後の去就が微妙な状況にある、ということもあって、最近「松坂世代」にまつわる話題が盛り上がっている。

何かと比較され、注目され、すぐにプロに行った選手から、大学経由、社会人経由でプロに行った選手まで、100名近くの選手が「プロ野球選手」というステータスを手に入れたこの世代も、2020年度には皆「40歳」の大台を迎える、ということで、今年もシーズン閉幕を迎える前に、長らく選手名鑑に名を連ねていた選手たち(広島・永川投手、ヤクルト・館山投手、日本ハム・実松捕手)が次々と引退。

そして、デイリースポーツ電子版によると、

日本野球機構NPB)所属で残る“松坂世代”の選手は松坂以外に阪神藤川球児投手、ソフトバンク和田毅投手、楽天久保裕也投手と渡辺直人内野手の5人となった。」
(デイリースポーツ2019年9月17日22時11分配信、強調筆者、以下同じ)*1

ということである。

この5選手のこれまでの公式戦での成績を並べてみると、ざっと以下のような感じになる。

松坂大輔投手 
NPB(実働11年)218試合 114勝65敗1セーブ 1464.1イニング 防御率3.04 
MLB(実働8年)158試合 56勝43敗1セーブ(3ホールド) 790.1イニング 防御率4.45
和田毅投手
NPB(実働12年)253試合 130勝70敗 1708.1イニング 防御率3.13
MLB(実働2年)21試合 5勝5敗 101.2イニング 防御率3.36
藤川球児投手
NPB(実働16年)760試合 59勝35敗237セーブ(162ホールド)916イニング 防御率2.00
MLB(実働3年)29試合 1勝1敗2セーブ(1ホールド)26.2イニング 防御率5.74
久保裕也投手
NPB(実働15年)500試合 53勝37敗37セーブ(112ホールド)764.2イニング 防御率3.43
渡辺直人選手
NPB(実働13年)1134試合 打率.259 853安打 7本塁打 229打点 115盗塁 184犠打

日米通算の実働年数で言えば、松坂選手と藤川選手が互角。
成績的にも先発陣では松坂投手が、リリーフ陣では藤川投手が、既に引退した同期と比べてもずば抜けた成績を残している。

一方、他の3選手に関しては、成績だけみれば、プロでそれ以上の実績を残した選手はいるわけで、先発陣では実働14年で引退した杉内俊哉投手の方が通算勝利数(142勝)、防御率ともに和田選手を上回っているし、リリーフ陣でも今年引退する永川勝浩選手が165セーブ、79ホールドを記録しているし、実働11年、実質的には10年にも満たないような選手生活の中で「太く短く」一時代を築いた久保田智之投手も、47セーブ、117ホールドを記録している。

そして、野手に至っては、1865安打、360本塁打、1123打点の村田修一選手を筆頭に、東出輝裕選手(1366安打)、小谷野栄一選手(1260安打)、梵英心選手(990安打)と、「世代」の主役というにはよりふさわしい選手たちがいた。

それでも、「夏の甲子園横浜高校と延長17回の死闘を繰り広げた末に敗れたPL学園の主将」(平石洋介氏)が、今や一球団の監督になってしまっているような歳月の流れ*2の中では、今でも存在意義を認められて現役で選手生活を続けている、というだけで十分喝采を送るにふさわしいわけで・・・。

前記デイリーの記事にもあるとおり、上記5選手の中で、今一番勢いがあるのは、間違いなく藤川球児選手だろう。

何がすごいって、寿命が短い、とされる速球派、それも中継ぎ、救援という立場で毎年のように酷使されながら、この年になって更に成績を上げてきている、ということだ。

NPB復帰後の4シーズンの成績を比較すると以下のとおり。

2016 防御率4.60 43試合 5勝6敗10ホールド 3セーブ 奪三振70  奪三振率10.05 被打率.247
2017 防御率2.22 52試合 3勝0敗6ホールド 00 奪三振71  奪三振率11.28 被打率.209
2018 防御率2.32 53試合 5勝3敗21ホールド 2セーブ 奪三振67  奪三振率11.10 被打率.158
2019 防御率1.44 50試合 4勝1敗23ホールド 12セーブ 奪三振73  奪三振率13.14 被打率.138

年齢を考慮した首脳陣の思惑もあり、当初先発でスタートした2016年シーズンこと不安定な成績だったが、馴染みのあるブルペンに戻り、誰も投げたくないような嫌な場面で使われているうちに息を吹き返してシーズンごとに被打率は低下、安定感も増す。

そして、今シーズンに至っては、39歳にして火の球ストレートが完全復活、奪三振率も一段と上昇し、シーズン途中からはとうとう7年ぶりにクローザーに返り咲き
他の同期の選手たちが”ベテランの味”で何とかしのいでいる、という印象を与えている中、人類の歴史に逆らうかのような別次元の活躍を見せている。

振り返れば、彼の20代前半までは、

・高校2年生で高知商で甲子園に出場を果たしたものの、最後の夏に県代表を勝ち取ったのは明徳義塾(最後は「松坂の引き立て役」になってしまったが・・・)。
・ドラフト1位でタイガースに入団したのに、話題になるのは元同級生の広末涼子のほう。
・しばらくは一軍の登板機会にも恵まれず、松坂投手が華やかに白星を積み重ねる中、初勝利は入団4年目
・ようやく先発ローテに入っても、球は早いが単調、と揶揄され、シーズン通しての定着がなかなかかなわない。

といった感じで、プロ入り後6シーズン登板イニング数は150イニング程度。松坂投手の1年目のイニング数にすら届かない。
そして、この間、松坂投手は、新人時代から3年連続最多勝、故障で離脱したシーズンもありながら通算で77勝を挙げていたから、同じ「松坂世代」というには、あまりに差が付きすぎていた。

それが、中継ぎに定着して「JFK」に、そして、「K」も「J」も故障で苦しむ中、押しも押されもせぬリリーフエースに成長を遂げたのだから、人生どこから運命が開けるか分からない。

加えて、藤川選手の場合、タイガースの守護神の座を勝ち取りながらもメジャー志向を隠さず(この辺は元レッドソックスの上原投手とも似たところはある)、球団に度々慰留された末にようやく2012年のオフにメジャー入り、骨をうずめるつもりで渡米したものの、早々に故障して満足のいくシーズンを過ごせず、2015年のシーズン途中でメジャーの選手枠から外されて、日本に復帰したと思ったら所属球団はなんと「四国アイランドリーグ高知!」というドラマもあった。

2015年の電撃日本復帰の時も、その翌年タイガースに戻って迷走しかかっていた時も、30代半ば、という年齢も相まって、さすがの藤川ももう終わりか・・・と思ったのは、自分だけではなかったはず。

それでも、「遅咲き」の火の球速球王は不死鳥のように蘇り、引退間際の「看板」選手を横目に、まだまだセーブ&ホールド記録を積み重ねようとしている。

*1:注目集まる“松坂世代”の去就 日本ハム実松引退で最大94人→5人に(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース

*2:梨田監督退任後の緊急リリーフからの昇格とはいえ、生え抜きで育成コーチから昇進を遂げての人事だったから、それだけ指導力が見込まれていた、ということだったのだろう。

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「混同を生じさせる行為」をめぐる逆転判決

不正競争防止法2条1項1号該当性をめぐって争われた事件の知財高裁判決。

ちょっと前に見つけたものではあるのだが、不競法絡みの事件としてはこれまでにあまりないジャンルの商品で、しかも原審(東京地裁)の判断が完全にひっくり返っている、という点でなかなか興味深いので、簡単に取り上げてみることにしたい。

知財高判令和元年8月29日(平成31年(ネ)10002号)*1


控訴人(一審原告):住友ベークライト株式会社
被控訴人(一審被告):日本コヴィディエン株式会社

本件は、被控訴人の商品が、「控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原告商品の形態と類似する形態を有する」もので、被控訴人による被告商品の販売が,「原告商品と混同を生じさせる行為である」として、不正競争防止法2条1項1号の不正競争該当性が争われたものである。

不正競争防止法上、商品形態を保護しようと思ったら、まず「2条1項3号」というのが出てくるから、その要件の枠外で「2条1項1号」によって保護を求める、というのはそれなりにハードルの高い話ではあるのだが、それだけならこれまで全く例のない話、というわけではない。

ただ、興味深いのは、本件で控訴人、被控訴人の販売する商品が「携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器のうち排液ボトル及び吸引ボトルで構成されているもの。」という「(業務用)医療機器」であったこと。

これが家庭用の医療機器であれば、需要者が「周知性のある商品形態」に惹かれて商品を購入する、という場面は容易に想定できるのだが、「業務用医療機器」の取引の場面で同じような事態が想定しうるのか、という疑問は当然生じうる。そして、原審である東京地判平成30年12月26日(平成30(ワ)13381)*2は、原告商品の商品形態の周知表示性を認めつつも、まさにその疑問を投影する形で、以下のように述べて原告の請求を退けたのである。

「原告商品及び被告商品の取引態様については,専門家である医療従事者が,医療機器の製造販売業者や販売業者の担当者から,当該医療機器の特色,機能,使用方法等に関する説明を受けて,当該医療機器の購入を決め,医療機器専門の販売業者に対して当該医療機器を発注するというプロセスをたどって取引されているのであり,しかも,多くの医療機関においては,医療機器の使用について,医療機関が医療機器を採用するにあたっては,同種の医療機器については,一種類のみを採用するという原則的な取扱いであるいわゆる一増一減のルールが採用されているというのである。そして,原告商品と被告商品には商品自体には商品名及び会社名が記載され,それぞれ別々のパンフレット(略)が作成されて別々に販売される上,需要者である医療従事者も医療機器に関する専門知識を有する者なのであるから,被告商品の販売行為によって需要者である医療従事者において原告商品と被告商品の出所が同一であると誤認するおそれがあるとは認められない。また,原告及び被告は,医療機器の分野において,相当程度のシェアを有する競合会社であり,ポータブル低圧持続吸引器国内市場における原告のシェアは約30ないし40%,被告のシェアは約5ないし15%である。上記の取引形態等からすると,需要者である医療従事者において原告と被告が競合関係にあることを十分に認識している状況であり,原告商品の形態と被告商品の形態が類似していることのみから,原告と被告との間に親会社,子会社の関係や系列関係等の緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信するおそれがあるとは認められない。そうすると,被告による被告商品の製造販売行為が,不競法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に当たると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。」(一審判決・20~21頁、強調筆者、以下同じ)

不競法2条1項1号の事件では、「商品等表示の周知性」とその「類似性」が認められれば、積極的な「打消し表示」等が付されていない限り(仮に付されていたとしても)、あっさり「混同を生じさせる」と認められることが多いから、「混同を生じさせる」という要件に該当しない、というだけで請求を棄却する、というパターンは珍しいのだが、自分自身、最初に本件で争われている「商品」の種類を見た時に冒頭で述べたような疑問を抱いたこともあり、上記の説示だけ読めば、まぁそうだろうな、と納得するところはあった。

だが、知財高裁は、以下のように述べて、原審の判断を180度覆した。

「原告商品の形態は,控訴人が昭和59年に「SBバック」の商品名で原告商品の販売を開始した当時から,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものであり,その後被告商品の販売が開始された平成30年1月頃までの約34間の長期間にわたり,他の同種の商品には見られない形態として,控訴人によって継続的・独占的に使用されてきたことにより,少なくとも被告商品の販売が開始された同月頃の時点には,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていたこと,原告商品と被告商品は,同一の形態に近いといえるほど形態が極めて酷似し,被告商品の形態は,原告商品の形態と類似することは,前記2(2)ア及び3(1)ウ認定のとおりである。そして,前記1の認定事実によれば,医療機器の取引プロセス等に係る取引の実情として医療機関が医療機器を新規に購入する場合,医療従事者が,医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者から,商品説明会等で当該医療機器の特色,機能,使用方法等に関する説明を受けた後,臨床現場で当該医療機器を1週間ないし1か月程度試行的に使用し,使い勝手,機能性等の評価を経た上で新規採用を決定し,医療機器メーカー又は販売代理店に対して当該医療機器を発注することが一般的であり,一定の病床数を有する医療機関にあっては,医師,看護師その他の医療スタッフから構成される「材料委員会」が開催され,その構成メンバーによる協議を経て,当該医療機器の新規採用が決定されているが,一方で,個人病院や病床数が少ない医療機関にあっては,材料委員会が開催されることなく,医師の意向により新規採用が決定される場合も少なくないこと医療機関が従前から使用している医療機器を継続的に購入する場合,各種医療機器の画像,品番,仕様,価格等が記載された医療カタログに基づいて,医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者に対して品番等を伝えて発注し,また,インターネット上のオンラインショップで購入する場合があること,③消耗品等の比較的安価な医療機器については,医療機関が新規に購入する場合においても,医療カタログに基づいて医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者に対して品番等を伝えて購入したり,オンラインショップで購入することもあること,④医療機関においては,用途が同じであり,容量等が同様の医療機器については,一種類のみを採用し,新たな医療機器を一つ導入する際には同種同効の医療機器を一つ減らすという「一増一減ルール」が存在するが,「一増一減ルール」は,主に大学病院,総合病院等の大規模な医療機関において採用されており,小規模の医療機関においては,各医師がそれぞれ使いやすい医療機器を使用する傾向が強いため,そもそも「一増一減ルール」が採用されていない場合があり,また,「一増一減ルール」を採用している医療機関においても,徹底されずに,医師の治療方針から特定の医師が別の医療機器を指定して使用したり,新規の医療機器が採用された後も旧医療機器が併存する期間があるなど,同種同効の医療機器が複数同時に並行して使用される場合があり得ること,⑤バーコードで医療機器を特定して発注や在庫管理を行い,また,医療機関で使用される物品の発注,在庫管理,病棟への搬送などのサービス(SPD)を事業者に委託している医療機関もあるが,全ての医療機関において,このようなバーコードを利用した医療機器の発注,在庫管理やSPDの委託を行われているわけではなく,SPDの委託率も決して高いものではないこと,⑥原告商品及び被告商品は,消耗品に属する医療機器であり,カタログ販売のほかに,商品画像とともに,品番,型番,価格等掲載されたオンラインショップ(「アスクル」のウェブサイト)による販売が行われていることなど,両商品の販売形態は共通していることが認められる。以上を総合すると,原告商品の形態が,控訴人によって約34年間の長期間にわたり継続的・独占的に使用されてきたことにより,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていた状況下において,被控訴人によって原告商品の形態と極めて酷似する形態を有する被告商品の販売が開始されたものであり,しかも,両商品は,消耗品に属する医療機器であり,販売形態が共通していることに鑑みると,医療従事者が,医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じて原告商品の形態と極めて酷似する被告商品の形態に接した場合には,商品の出所が同一であると誤認するおそれがあるものと認められるから,被控訴人による被告商品の販売は,原告商品と混同を生じさせる行為に該当するものと認められる。」(39~41頁)

まさかここで「アスクル」が出てくるとは思わなかったが、知財高裁は、控訴人(原告)側の猛烈な主張に応える形で、「医療機器の取引プロセス等に係る取引の実情」を詳細に認定し、「業務用医療機器に係る取引の特殊性」を強調していた被控訴人(被告)の主張をことごとく退けている。

ただそれ以上に自分がこの判決文から感じたのは、「周知性のある商品形態がこれだけ似ているんだから、混同するに決まってるだろう!」という雰囲気・・・。

原審判決が比較的拾い上げていた「医療従事者の認識」にほとんど立ち入っていないこと*3、そして「形態が極めて酷似し」というフレーズが最初と最後に二度も出てくる、というところからも、それは何となく見てとれる。

だとすると、被控訴人(被告)側としては、原告商品の形態が「商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する」とか、「ありふれた形態の組み合わせに過ぎない」といった反論や、「そもそもこの種の商品で、商品形態が自他識別機能及び出所表示機能を発揮することなどありえない」といった反論*4で押し切って、商品等表示性を否定することができなかった時点でこの結果が見えていた、ということになるのかもしれない。

不正競争防止法において、2条1項1号と2号が以下のように書き分けられ、しかも「需要者の間に広く認識されている」というレベルと「著名な」というレベルとの間には、それなりに高い「壁」がある以上*5「混同を生じさせる」という要件も大事だろう、というのが自分の考えではある*6

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

ただ、裁判所までもつれ込むケースは、「現に誤認混同されている」という背景がある場合も多いだろうから、そうなると「酷似」している以上、「混同」が生じるかどうかも、ある程度規範的に割り切ってさっくりと結論を出す方向に行きやすいのかもしれない。

・・・ということで、何となくモヤモヤは残っているのだが、「混同を生じさせる行為」かどうかにスポットライトが当たった貴重な判決、ということで、以上ご紹介した次第である。

*1:第4部・大鷹一郎裁判長、http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/902/088902_hanrei.pdf

*2:第29部・山田真紀裁判長、http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/259/088259_hanrei.pdf

*3:原審判決を受けて、控訴人は「医療従事者は,医療機器の使用場面や用途に関する専門知識は有していると考えられるが,他方で,同様の機能を有する複数の医療機器又は医療機器メーカーの関係(競合関係や提携関係,使用許諾関係の有無等)は,把握していないことが通常である。」(18頁)という”医者は機器ビジネスの素人”的な論まで展開していたのだが、知財高裁判決はそのような需要者の主観的認識に踏み込むことなく、取引プロセスを淡々と認定して結論を導いている。

*4:地裁判決はアンケート結果等も活用し、詳細な説示の下でこれらの反論を退けているが、自分もこの分野で「商品形態」がどこまで出所表示機能、ひいては顧客吸引力まで持つのか、ということに関しては、半信半疑なところではある。

*5:本件控訴審では控訴人側が2条1項2号に基づく主張も追加しているのだが、裁判所もそれに対する判断は一切下していない。

*6:ちなみに、紛争が生じて、任意交渉で解決を図ろうとする場面では、似てる似てない、の話より先に、「そもそも混同する、しない」という話の方が先に来ることも多く、訴訟まで持っていかずに踏みとどまる(いきり立った事業部門の人間を思いとどまらせる)決め手になるのも、「そうはいっても混同する人はほとんどいないからね」という説得だったりする(あるいは打消し表示等を付してもらうことで妥協するパターンもあり)

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