2023年12月&通年のまとめ

新型コロナ禍もすっかり明け、年跨ぎは国境をまたぐ、という自分の中のお約束が復活したこともあって、よく言えば厳かな、悪く言えば辛気臭い年末モードともすっかり無縁のまま、また一年を終えようとしている。

この2023年、ことこのブログに関して言えば、開設以来、歴史的なワースト記録を更新し続けた一年間だった。ページビューもユニークユーザー数もつけられたスターの数も・・・ 何より更新頻度が少なすぎてピーク時の2ヶ月分にも満たないレベル。書きたいネタを持て余したまま気が付けば数週間過ぎてそのまま腐らせる・・・そんなことの繰り返しで過ぎていった12ヶ月。

逆に言えばこの1年は、仕事をすること、もっとストレートに言えば「稼ぐこと」に振り切り過ぎた年だった、ということでもある。

諸々帳簿を締めて残ったのは、環境が変わって5年も経たないうちにここまで来るとは・・・という数字だから、その点に関しては支えてくださった方々への感謝と断崖から飛び立つかの如き当時の心境を振り返っての感慨、それ以外には何もない。

ただ、10年ぶりに眺めた「あまちゃん」の再放送から物故者の悲報まで、この一年かけめぐっていった様々な報に接し、読みたい本を読みたいときに読めない、書きたいことを書きたいときに書けない、そんな日々でも価値がある、といえるほど人生は長くない、という感情がわいてきたのもまた事実だったりする・・・。

ということで、大胆なペースチェンジを夢見つつ、ひとまずは12月&今年の締め、である。

月間のページビューは7,000弱、セッション5,000弱、ユニークユーザー2,700強。年間でもページビューは10万ちょっとだから堂々のワースト更新なわけだが、それでも100回に満たない更新頻度(しかも大抵はお目汚しの趣味ネタ)で何度も訪れてくださった長年の読者の皆さまには、ただただ感謝しかない。

<ユーザー別市区町村(12月)>
1.→ 大阪市 227
2.→ 千代田区 211
3.→ 港区 208
4.→ 新宿区 94
5.→ 横浜市 77
6.→ 渋谷区 64
7.→ 名古屋市 59
8.↓ さいたま市 50
9.→ 世田谷区 49
10.圏外札幌市 47

大きな順位変動はないが、気付けば上位3自治体とその下の差が大きく開いた。

そして通年のランキング。これは新型コロナ禍後の「都心回帰」が明確になったかな、と。

<ユーザー市区町村(通年)>
1.→ 大阪市 3065
2.↑ 千代田区 2525
3.↑ 港区 1948
4.→ 横浜市 1056
5.↑ 新宿区 925
6.↓ 渋谷区 789
7.→ 名古屋市 662
8.↑ 札幌市 590
9.圏外さいたま市 581
10.↓ 世田谷区 574

続いて検索ランキング。

<検索アナリティクス(12月分) 合計クリック数 1,251回>
1.→ 企業法務戦士 70
2.→ 学研のおばちゃん 現在 27
3.↑ 倉橋雄作 高校 26
4.↓ 倉橋雄作 法律事務所 25
5.↑ 倉橋雄作 20
6.圏外倉橋雄作 弁護士 10
7.圏外取扱説明書 著作権 10
8.圏外法務 ブログ 10
9.圏外八坂神社祇園祭ポスター事件 9
10.圏外裁判官 任官 最高齢 9

時節柄、弁護士ランキング上位常連となった某先生絡みの検索が上位を独占し、後は定番キーワードが入れ替わりで登場、という展開に。

興味深かったのは通年のランキングの方だろうか。

<検索アナリティクス(通年)合計クリック数 1.95万回>
1.→ 企業法務戦士 1,150
2.圏外知恵を出さないやつは助けないぞ 721
3.↑ 学研のおばちゃん 現在 434
4.↓ シャルマントサック 裁判 271
5.↑ 学研のおばちゃん 249
6.↓ 東急グループ 序列 213
7.圏外倉橋雄作 法律事務所 132
8.→ 企業法務 ブログ 128
9.↓ CRフィーバー 大ヤマト事件 122
10.圏外倉橋雄作 116

この2023年、という年に、「知恵を出さないやつは助けないぞ」という、今思えば「3・11」後のこの国の在り様を見事なまでに象徴していた一言が再浮上し、さらに「学研のおばちゃん」にスポットライトが当たることになるとは夢にも思わなかったことではあるが、これも時代だ

ということで、来年がどういう年になるか、今の時点では想像だに付かないが、今日よりは明日の方が間違いなく良い日になる、その心持ちで新しい年の瀬を静かに迎えたいと思っている。

今年もまた通り過ぎて行ったこの季節

法曹界にとっては長らく「年末の風物詩」となっている「企業法務税務・弁護士調査」

今年も12月初めくらいから電子版で記事が飛び、月曜日の日経法税務面を3週くらいにわたってジャックしてフィナーレを迎えようとしている。

恒例の「ランキング」自体は最初の時点で発表されていたものの、週を重ねるたびに「何か新しい切り口の記事が出るかな・・・」という期待でしばらく引っ張っていたのだが、いよいよ今年最後の法税務面も終わった・・・ということなので、ここでちょっと取り上げておくことにしたい。

<企業法務全般(会社法)>
1.太田洋(西村あさひ)20票
2.中村直人(中村)18票
3.倉橋雄作(倉橋)15票
4.柳田一宏(柳田国際)13票
5.武井一浩(西村あさひ)11票
6.野村晋右(野村綜合)10票
6.石綿学(森・濱田松本)10票
6.三浦亮太(三浦)10票

結果的には太田洋弁護士の2連覇、ということになっているのだが、やはりここで特筆すべきは、中村直人弁護士が昨年よりも得票を伸ばし、順位も3位から「2位」へと再び上げてきた、ということだろうか。

レジェンドはどこまで行ってもレジェンド。そんな言葉を今改めて反芻していたりもする。

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主なきグランプリでダービー馬が見せた意地。

今年もめぐってきた年末の大一番、第68回有馬記念

本来なら、新型コロナ禍も完全に明けた今年、3世代にわたるダービー馬をはじめとするGⅠ馬たちがずらりと顔を揃え、場内に詰めかけた大観衆の後押しも受けて、これぞシーズンの締めくくり、とも言うべき華やかな舞台となるはずだった。

だが、馬柱を見れば見るほど湧いてくる拭い去れない寂しさ。

単勝10倍を切る馬は実に7頭、上位馬の人気が拮抗すればするほど、イクイノックスの残像が頭をかすめた。

破竹のGⅠ6連勝、特に今年の秋、天皇賞(秋)ジャパンカップで完膚なきまで他馬を圧倒したままターフを去ったあの馬には、既に「2年連続年度代表馬の地位が約束されている。

それはすなわち、出走馬が今日のレースでどれほどのパフォーマンスを発揮しても「真のNo.1」にはなれない、ということを意味するし、それゆえ、どうしても純粋に勝負の行方を見届けることよりは、美味しい馬券を取りに行く方に目が行ってしまう、という方も多かったのではなかろうか。


蓋を開けてみれば、6番人気に甘んじていたかつての古馬の総大将・タイトルホルダーがこれまでにないくらいの絶妙な逃げで馬群を引っ張り、あわやそのまま・・・というところで、昨年のダービー馬・ドウデュースが見事に差し切る、という近年稀にみる好勝負。

鞍上の武豊騎手が、今日の中山の乗り鞍をこのレースだけに絞った、というニュースを聞いた時点で、これはドウデュース一発あるかもな、と思ったのは事実で、去年の皐月賞のレースぶりから中山競馬場で強くは推しづらかったものの、自分もこの馬に一応印をつけていた。だが、実際に見せたパフォーマンスはそんな中途半端なスタンスをあざ笑うような次元を超越したレベルのもの。

早めに前を追いかけてまくり、最後の直線では既に3番手に付けていながら、溜めた脚でさらにそこからもう一伸びし、最速上がりで決める・・・。

仕掛けどころも含めて鞍上の名手・武豊騎手の持ち味が最大限発揮されたようなレースだったし、それに応えた馬も実に見事だった。

そして再び蘇ってきたジャパンカップの残像・・・

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欲を言えば、もう少し余韻に浸りたかった。

何か凄いものを見て心が震えた時はすぐに書き残さなければだめだ、ということは、身に染みて分かっていたつもりなのだけど、またしても後悔。

先週末、「あの瞬間」を見終わった後、一つの勝利のあまりのスケールの大きさにぼんやりとし、我に返ったのち、慌ただしさにかまけて「今夜書こう」、「ダメだ明日にしよう」と引きずっている間に、余韻を一瞬にして打ち砕くようなニュースが現れて、全てが白紙に戻ってしまった。

ジャパンカップイクイノックスの完璧すぎた勝利。

そしてその数日後に訪れたファンにとっては残念過ぎる「引退」

自分も、昨日今日競馬を見始めた人間ではないから、「強い馬」の引き際がどういうものか、ということは理屈では分かっている。

有馬記念は昨年勝った。年明けのドバイも会心のレースで既に制している。あえてリスクを取ってその先の凱旋門賞に陣営が挑ませるとも思えないし、国内外で22億円超も稼いでしまった馬にとって、「賞金のために」どこかのレースを走らせる、などという選択肢はもはやない・・・となれば、このタイミングで引退発表、となるのは、これ以上ないくらい必然である。

これが個人馬主の馬だったら、それでも「ファン投票1位の有馬記念までは走らせて・・・」ということになったのかもしれないが、イクイノックスがノーザンファーム系のクラブ法人の馬である以上、何よりも優先されるのは経済合理性。

ジャパンカップを圧勝して、名実ともに「ナンバーワン」であることを世界に知らしめたその瞬間にスタッドインさせる、という判断を誰も責めることなどできないだろう*1

とはいえ、何度でも語りたいのは、

ハイペースで3番手先行の後の上がり33秒5。

である。

昨年とはうって変わって「オールスター」といえるだけのメンバーが揃った上に、これ以上ない逃げを打ったパンサラッサに始まって、番手で「単騎」先行の形を作ったタイトルホルダー、好位追走からしっかり直線で伸びた今年の三冠牝馬(リバティアイランド)と去年の二冠牝馬(スターズオンアース)、さらには溜めた脚を爆発させたドウデュースにダノンベルーガ、はたまた昨年の覇者、ヴェラアズールまで、注目された馬はほぼ全て例外なく「自分の競馬」ができていた。

にもかかわらず、最後の直線、余裕の手ごたえで先頭に立って、最後まで自然体で走り切ったイクイノックスが、後続に付けた着差は4馬身差。

感嘆の言葉しか出てこない、そんなレースのたった4日後「引退」という言葉は聞きたくなかった。


開催が変わり、前週までの静かな2場開催とはうって変わって、中山・阪神・中京、と慌ただしくレースが進んだこの週末。

メインの旧ジャパンカップダート*2は、今年のフェブラリーSまで(ほぼ)無敵を誇っていたレモンポップが、距離不安を跳ねのける形で見事な逃げ切り勝ちを飾り、その結果、自分のシンプルな馬券も的中したが、だからといってイクイノックスが開けた心の穴が埋まることはなかったし、仮にデビューから5連勝中だったセラフィックコールが無敗のままこのレースを制していたとしても、その感覚に大した変わりはなかっただろう(結果は10着。ダートの世界も決して甘くはない。戦力拮抗、という点ではむしろ芝以上に厳しい)。

開催週を重ね、次々と飛び込んでくる新しいレース、新しい馬の情報を大量に浴びていけば、一頭の馬がここで引退した、なんて記憶もいずれ薄れていくことは分かっている。

ただ、今この時点においては、走りを重ねれば重ねるほど「底」が見えなくなっていた稀代の名馬の「次」を想像する楽しみが失われた、という現実が全てだったりもするわけで、何とも言えない思いであと1ヶ月くらいは過ごすのだろうな、という思いで今はいる。

*1:三冠+有馬記念制覇で一度は「最強馬」の名をほしいままにしていたにもかかわらず、故障後の現役続行でボロボロになって引退したナリタブライアンの悲しい運命などを思い返すと、なおさらその思いを強くする。

*2:チャンピオンズカップの名称に変わって久しいが、自分はどうしても古いレース名で呼びたくなってしまう。

2023年11月のまとめ

本当に毎度毎度のことなのだけど、気が付けばまた月末。そして驚くべきことに、今年もとうとう残すところあと1ヶ月、となってしまった。

様々なところから飛んでくる仕事に忙殺され、週末に向けてため込んだあれこれを消化できぬまま、翌週へ、また翌週へ、と繰り越していくサイクル。

結果的に一番後回しになるのが、このブログの更新という作業なわけで、そもそもインプットすら後手後手だから、アウトプットにまで手が回るはずもなく・・・。

とはいえ、それでも今月は、歴史に残る「阪神優勝」とか、歴史的な知財訴訟の決着とか、インパクトに残る出来事が多々あったがゆえに、その辺をかろうじて拾いながら、何とか積み上げたエントリー7つ。

結果、ページビューは7,500弱、セッション5,500弱、ユーザー3,000強。

先月に続いて小回復の傾向は続いているだけに、ここから年末に向けてもうちょっと・・・と思っている。

<ユーザー別市区町村(11月)>
1.→ 大阪市 254
2.→ 千代田区 215
3.→ 港区 172
4.→ 新宿区 117
5.↓ 横浜市 93
6.↑ 渋谷区 83
7.↓ さいたま市 57
7.→ 名古屋市 57
9.圏外世田谷区 42
10.圏外福岡市 40

渋谷が浮上し、世田谷も圏内復帰、ということでますます都心回帰が進むアクセス元。新型コロナ禍でようやく定着したと思われた「リモートワーク」も既に幻に近づいているのだろうか・・・。

続いて検索ランキング。

<検索アナリティクス(11月分) 合計クリック数 1,530回>
1.→ 企業法務戦士 94
2.→ 学研のおばちゃん 現在 36
3.↑ 倉橋雄作 法律事務所 20
4.↑ 学研のおばちゃん 14
5.圏外倉橋雄作 高校 14
6.↑ 倉橋雄作 13
7.圏外シャルマントサック事件 12
8.↑ 企業法務 ブログ 11
9.↓ 東急グループ 序列 10
10.↓ 知恵を出さないやつは助けないぞ 11

大きな変動がない中で、倉橋弁護士絡みの検索が浮上してきているのを見ると、そろそろあの季節だなぁ・・・と思わずにはいられない*1

*1:そして、この言葉の本当の意味を本ブログの読者は来月のこのランキングで知ることになる・・・。

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藪の中で始まり、終わった戦いは何を残したのか。

今月初めに報じられたものの、詳細に不明な点が多かったためにしばらく寝かせていたのが↓のニュース。

www.nikkei.com

これが出る直前に「一部の事件で結審、損害論に入らなかったため日本製鉄側の敗訴濃厚」という趣旨の記事*1が掲載も出ていただけに、原告側が拳を下ろす形で終結した、というのはそんなに意外なことではなかったのだが、一般的に行われる和解(&訴え取下げ)ではなく、「請求放棄」という形で終結するのはやはり尋常なことではないし、それゆえ、個人的には様々な分析報道が飛び交うことも内心期待していたのだが、実際の報道としてはその週末に出された↓の記事も含めて真新しい内容は少なく、「藪の中」で始まった訴訟はそのまま藪の中に消えた・・・という状況になっている。

www.nikkei.com

一般的な常識に照らせば、形勢圧倒的不利と見た原告・日本製鉄側が判決をもらう前にタオルを投げた、と考えるのが穏当な推測、ということになるのだろう。

そうでなくても、本件は、権利の不安定さ(無効とされうる要素を常にはらんでいる、という意味で)ゆえに、いざ裁判所に行くとなると使い方が難しい*2、とされるパラメータ特許に基づく請求だったようだから、原告にとっては当初から苦しい展開になることを承知の上での戦いだったことは容易に想像がつくところ。

訴訟では当然、被告側が無効論を展開してくることは目に見えているし、例えば特許6497176号*3の審判情報を見れば明らかなように、特許庁でも重厚なトヨタ三井物産連合軍の請求による無効審判手続が進んでいる。

「敗訴判決をもらうくらいならさっさと降りて終わらせろ」というのは、多くのステークホルダーを抱える大企業にとっては当然の作法でもあるし、ましてや取引先である日本有数の超大企業との間での争いとなった本件で「敗訴」でもしようものならメディアの格好の餌食になることは目に見えていたから、報じられているような経緯を踏まえれば、今回の判断も十分合理的だったといえる。

唯一、違和感を抱かせる「請求放棄」という結末に関して言えば、訴えた相手が悪かった、というほかないのだろうが、仮に腰を据えて和解協議を行ったところで、実質的な内容はほとんど変わらない結果になっただろうし、これだけエスタブリッシュな企業同士の争いであれば、口外禁止条項などなくてもメディアに情報がダダ洩れする、ということにはならないだろうから、原告にとってはそれほどネガティブな選択ではなかったのかもしれない*4


ついでに言えば、一連の記事の中には「原告は負けたように見えて、ちゃんと実はとっている」というトーンの情報もある。

「提訴も引き金となり、日本の自動車大手の中には特許訴訟のリスクを警戒して、電磁鋼板の一部を中国製から日本製に切り替えたメーカーもあるという。」(日本経済新聞2023年11月5日付朝刊・第7面、強調筆者、以下同じ)

という情報が事実だとしたら、(実際には経済安保観点や地政学リスク回避の側面が大きかったとしても)あえて取引先を巻き込んだ訴訟をした目的も一部達成された、ということになりそうだし、引き続き行われる中国宝山鋼鉄との訴訟について、

「裁判所は10月上旬の段階で、東京地裁での裁判管轄は認めたもようだ。」(日本経済新聞2023年11月3日付朝刊)

という展開になっているのであれば、競合事業者との関係ではまだ一矢も二矢も報いることができる可能性は残っていることになる。

訴訟の目的は勝訴判決をもらうことだけにあるわけではない。

「訴訟の動向とは関係なく決断した」(日本経済新聞2023年11月3日付朝刊)というコメントをそのまま額面通り受け取ることはできないとしても、既に「実利」を得ている、と判断したゆえに、拡張した戦線での早目の撤退を決断した、というのは、まぁ十分あり得ることだろうと自分も思っている。

*1:日本経済新聞2023年11月2日付朝刊第15面

*2:逆に当事者間の任意交渉での牽制材料としては使いやすいところもあったりはするが。

*3:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6497176/0D934DA4A1AD7F22497425721E52A472B4056FF17EFA1D9A304844331A4E8858/15/ja

*4:先に紹介したような無効審判請求も、遅かれ早かれ取り下げられることになると思われる。

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「代打」が決めた美しい勝利。

今年の安田記念馬、ソングラインこそ不在だったものの、シュネルマイスター、セリフォス、ダノンザキッドといった常連馬たちに毎日王冠富士Sといった前哨戦の上位馬がずらっと顔を揃えて、豪華メンバーゆえの混戦模様となっていた今年のマイルチャンピオンシップ

オッズで見れば、人気を集めたのはGⅠタイトルを持っているシュネルマイスター、セリフォスの2頭で、それに続くのがいずれも前走重賞を制しているソウルラッシュ京成杯AH)、エルトンバローズ毎日王冠)、ナミュール富士S)と分かりやすい支持分布。

前日段階ではこの5頭までが単勝10倍以内ということで、「5強」の構図になるかな、と思っていたのだが・・・。

◆ ◆ ◆

日曜日、まだ朝早い京都の第2レース、ウィルソンウェイに騎乗したムーア騎手が落馬負傷したのがこの日のドラマの始まりだった。

それ以降のレースで次々と発生した「当日の乗り替わり」。

そしてその影響は、メインレースで人気の一角を占めていたナミュールにも及んだ。

決して有利とはいえない大外の8枠16番、しかもこのレースの紅一点、という存在ながら10倍を切る単勝人気を集めていた理由の一つが、「ライアン・ムーア」という鞍上のネームバリューにあったのは間違いなく、過去、同じ8枠16番のモーリスを快勝させた世界的名手が乗るからこそ集まった支持、という側面は間違いなくあった。

それが突如のアクシデントで乗れない・・・。

GI Dayでリーディング上位騎手が勢ぞろいしていたこの日の京都では、条件戦の代替騎手を探すのはそんなに難しいことではなかっただろうし、モレイラ、ルメール、川田といった当代一流の騎手たちが次々と代打騎乗した結果、4レースから6レースまで「ムーア騎手が乗るはずだった馬」が3連勝する、という椿事まで起きた*1

だが、有力馬が順当に本番に進んできていたメインレースではそうもいかない。

ラジオ中継で一瞬「代替騎手検討中」という報が流れた後に出てきたのは、キャリア17年目の34歳、藤岡康太騎手という名前だった。

秋の天皇賞武豊騎手のアクシデントで乗り替わりとなったドウデュースが見せ場なく敗れたことからも明らかなように*2、大舞台で一癖も二癖もある一線級の馬に急遽騎乗して乗りこなす、というのがいかに難しいか、ということは、素人にだって容易に想像がつく。

上位人気馬の鞍上にルメール、川田、モレイラ、というビッグネームが名を連ねる中、これまで堅実に800勝近い勝ち星を積み重ねてきたとはいえ、GⅠは14年前にジョーカプチーノで一度勝っただけ、重賞勝利からももう2年以上遠ざかっている「中堅」騎手しか確保できなかった、という報に最初に接したファンの落胆は如何ばかりだったか・・・。

見る見るうちにナミュール単勝オッズの数字は大きくなり、発走直前には「17.3倍」。人気だけで見れば、「5強」は既にナミュールを除く「4強」に変質を遂げていた。

それでも、救われたのは信じ続けた者だけ。

◆ ◆ ◆

久々に芝に戻ってきたバスラットレオンが引っ張り、コーナーから最後の直線まで主役が目まぐるしく入れ替わる慌ただしい展開となったこの日のレース。

前にいたセリフォスが伸び悩み、最後方にいたシュネルマイスターの姿も見失っている間に、巧みな位置取りから内を突いて抜け出したのがモレイラ騎手操るソウルラッシュ。続くジャスティンカフェとともに勝負決したか、と思った瞬間、大外から矢のように伸びてきたナミュールが全てを呑み込む・・・。

それは一瞬の出来事なれど、実に美しい追い込み大逆転劇。

そして、デビュー以来期待されながらも、ここまで度々GⅠタイトルに見放され続けた馬が7度目の挑戦でようやくマイル路線の頂点に立ったその時、鞍上の中堅騎手も14年半ぶりにGⅠ勝利騎手となった。

*1:まぁ各出走馬の厩舎も「ムーアを乗せる」という判断をした時点で「必勝態勢」を敷いていたことは容易に想像がつくだけに、意外とも言えない結果である。

*2:しかもあの名手・戸崎騎手をもってしても、だ。

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