今年の3月に出た、
H17(行ケ)第10177号・審決取消請求事件の判決。
(第3部・佐藤久夫裁判長)
この判決、一度最高裁の新・知財判例速報ページにアップされたのだが、
いつの間にか消されてしまった幻の判決で、
ゆえに判決日が分からなくなってしまったのだが、
とりあえず、3月に出されたものであるのは確かだと思う。
(口頭弁論終結日は平成18年3月14日)
この事件、原告(テルモ株式会社)が保有する「カテーテル」*1特許の
有効性をめぐって争われていたものなのだが、
被告(株式会社グッドテック)が特許無効審判を請求したのが
平成12年5月2日(無効2000-35241号)。
(おそらくは)事実上の最終決着になるであろう本判決まで、
足掛け6年かかっている。
「手続遅延の弊害」から、現状の審決取消訴訟の審理方法を批判される
大渕教授のご見解は、本ブログでも度々紹介しているが、
本件もご多分に漏れず、
特許権者たる原告が駆使したのは、「クレーム訂正」という定番手法。
これまで、一種の“クリンチ”として
特許訴訟という“格闘技”の舞台で使われてきた「クレーム訂正」、
181条2項という新たなサスペンデッドルールの解釈については、
いまだ統一された見解が出ていない、というのは既に触れたとおりであるが、
(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060211/1139662549)
本判決からは、さすがにレフェリーも厳しくなってきた(?)、
ということが何となく伺える。
時系列で追って見てみる*2。
平成12年8月21日 無効審判請求(無効2000-35241号)
平成13年7月18日 無効審決(第1次審決)
平成13年8月29日 無効審決取消訴訟提起(東京高裁H13(行ケ)第386号)
平成13年9月6日 第1次訂正審判請求(訂正2001-39153号)
平成13年11月2日 訂正認容審決
平成13年12月27日 東京高裁で審決取消判決(第1次判決)
平成15年5月26日 無効審決(第2次審決)
平成15年7月? 無効審決取消訴訟(本訴)提起
平成15年7月30日 第2次訂正審判請求(訂正2003-39151号)
平成15年11月7日 第3次訂正審判請求(訂正2003-39242号)
平成15年12月4日 第2次訂正審判請求取り下げ
平成16年7月21日 訂正不成立審決
平成16年8月? 訂正審決取消訴訟提起(東京高裁H16(行ケ)第382号)
平成17年9月14日 知財高裁で請求棄却判決
平成17年9月22日 第3次訂正審判請求取り下げ
第4次訂正審判請求(訂正2005-39167号)
平成17年9月26日 訂正審決取消訴訟取り下げ
平成17年12月5日 第4次訂正審判請求において訂正拒絶理由通知
4度にわたる訂正審判、しかも出したり下げたり、と、
原告も必死である(笑)*3。
手続遅延の元凶たる「キャッチボール」こそ、
最初の訂正認容審決→第1次判決の時だけだが、
その後、訂正審判とその取消訴訟で2年以上費やしたことが、
審理長期化の一因となっているのは間違いない。
確かこの事件、侵害訴訟も絡んでいたはずだから、
「ダブル・トラック」ならぬ「トリプル・トラック」状態である。
本判決の中で裁判所は、
本件特許の容易想到性を認定し、原告の請求棄却という結論を出した後に、
「なお、原告は、平成17年9月22日、訂正2003-39242号に係る訂正審判請求を取り下げるとともに、本件明細書を訂正する審判を新たに請求し(訂正2005-39167号)、上記新たな訂正審判請求についての審決があるまで本訴についての判断を待つよう求めたが、上記新たな訂正審判請求の内容及び原告の平成18年1月12日付上申書等を検討しても、本訴の完結をさらに遅延させてまで、当該審決を待つ必要があるものとは認められない」
特許法181条2項による裁量差戻しを要求することもできたはずなのに、
「お願い」レベルに留めたあたり、
原告側の“良心”の現れと言えなくもないのだが、
裁判所はこれを一蹴している。
以前のエントリーで触れた知財高判平成18年1月30日とは、
当事者間の利害状況もおそらく異なるだろうから*4、
一概に比較はできないのだが、
「1度はともかく2度までも・・・」という裁判所の“相場観”を反映しているようで、
なかなか興味深いものがある。