法律雑誌記事ダイジェスト(4月前半)

日頃、ゆっくりと法律雑誌に目を通す暇のない皆様に捧ぐ
ちょっとだけ有意義(?)かもしれない企画。
自分自身の備忘録でもあるのだが。

ジュリスト1309号(2006.4.1)

特集は「新たな労働法制への課題」。
以前にもご紹介した「今後の労働時間制度に関する研究会」報告書と、
「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告書をめぐる
公益(土田道夫教授)、使用者(和田一郎弁護士)、
労働者(水口洋介弁護士)それぞれの立場からの論稿あり。


ただ、行政側のコメントも含めて、
それぞれの立場の論稿が1本ずつしか載っていないのは少し不満がある。
論点が尽きないテーマだけに、
特集を組むからにはもう少し充実した陣容にしても良いのではないか、と*1


『季刊・労働法』の最新号でも特集が組まれているし、
充実した論戦は専門雑誌で、というのも分からないではないが、
あえて「ジュリスト」のような雑誌に載せることには
それなりの意義があると思うのだ。


※なお、本特集については追って別エントリーでコメント予定。


今号は、特集以外にも労働法関連の記事がいくつか。


連載『探究・労働法の現代的課題』(第7回)では、
「有期労働契約の更新拒絶(雇止め)」がテーマに*2
論点としては、契約期間中の中途解約をめぐる問題が、
民法628条の解釈との関係で興味深いところである*3


さらに、一読すべきは、大御所・花見忠名誉教授による
企業年金給付減額・打切りの法理」*4
「問題の視角」をウィットの効いたユーモアなたとえ話で概観したり、
労働法的アプローチ、制度的契約論からのアプローチを対比し、
後者の発想に敬意を評されつつも、

「「苦心の作」は「苦肉の策」と紙一重とも言えなくもない」
「法理論としては万全の説得力を持つものというのはやや躊躇を伴わないわけではない」

と、やんわりと内田説にシニカルな評価を下されていたり、
となかなか読み応えがある*5


『時の判例』では、
「商標の分割出願と原出願の補正の効果」に関する
最一小判平成17年7月14日の解説を森義之調査官が担当*6


『商事判例研究』では、
蛇の目ミシン事件高裁判決(東京高判平成15年3月27日)の評釈を
宮廻美明教授が担当されている(判旨反対)*7
あえて説明するまでもなく、
対象判決は本年4月10日に最高裁で破棄差戻を受けた判決。
この時期の掲載は、タイミングが良いのか悪いのか・・・。

NBL830号(2006.4.1)

今年に入って民商事系の話題を呼ぶ判決が相次いだせいもあるのだが、
最新の最高裁判決に対するコメントが目立つ。


『新判例紹介』では、
国税額控除をめぐる最一小判平成18年2月23日*8


『論説』では、
社内通達文書に対する文書提出命令をめぐる最二小決平成18年2月17日*9
そして、みなし弁済をめぐる最二小判平成18年1月13日ほか*10


みなし弁済の問題に関しては、これまでのエントリーでも触れているし、
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060215/1139933099
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060226/1140870427
新たな立法(上限利率の引き下げ)の動きも出てきているところ。


どの立場から論じるかで、様相を大きく異にする論点ではあるが、
茨木弁護士の論文では、第三小法廷の上田豊三裁判官の意見に対して
異がを唱えられていたりするから、どの立場からの論稿なのかは、
大体想像が付く。


連載『ヒューマン・リソース(HR)と法』は、
ジュリスト誌と軌を一にするかのように、「労働契約の期間」がテーマ*11
ここでも「有期契約の期間途中での解雇」の問題が、
最近のトピックとして取り上げられている*12
ジュリストとあわせて読むと面白いだろう。


連載『改正独占禁止法』は、「審判手続の改正」がテーマ*13


その他、マンション法の鎌野邦樹教授による
耐震強度偽装事件と法律問題」*14といった
イムリーな記事もあり。

Lexis判例速報6号(4月号)

今号から「立命館大学税法判例研究会」による
租税関係判例の解説が新たに加わっている。


第1回だけあって、
国税額控除事件(最二小判平成17年12月19日)、
オウブンシャホールディングス事件(最三小判平成18年1月24日)、
映画フィルムリース事件(最三小判平成18年1月24日)と、
華やかな事件が並ぶのであるが、
毎号連載だとじきにネタ切れになるんじゃないか、という心配も(笑)。


知財関連の判例は、
特許庁職員の過失が問われた最三小判平成18年1月24日、
天理教豊文教会事件(最二小判平成18年1月20日)、
医療用医薬品のカプセル事件(東京地判平成18年1月13日)の3件であった。


以上、4月前半ダイジェストこれにて終了。
次回があるかどうかは、現時点では明言できない・・・。


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*1:今回の特集に限らず、労働法関係の特集は他の法分野のそれに比べていつも“薄い”。

*2:ジュリスト1309号54頁(2006年)

*3:大阪地判H17.3.30(ネスレ事件)が、民法628条を解約権保障のための片面的強行規定を解したことが、議論を呼んでいるようである。奥田香子「労働法学の立場から」ジュリスト1309号58頁、山西克彦「使用者側の立場から」ジュリスト1309号64頁。後述中窪裕也・NBL830号52頁等も参照。

*4:ジュリスト1309号70頁(2006年)

*5:内田教授の制度的契約論の連載と並んで掲載されているところがまた面白いのだ(笑)。

*6:ジュリスト1309号122頁(2006年)。

*7:「脅迫に畏怖し会社に損害を与えた取締役の責任を否定した事例」ジュリスト1309号132頁(2006年)。

*8:杉本茂=中垣光博「外国税額控除制度を濫用する取引にかかる同制度の適用の可否」NBL830号7頁(2006年)。

*9:階猛「銀行本部担当部署から各営業店長等あての社内通達文書と文書提出命令」NBL830号23頁(2006年)

*10:茨木茂「みなし弁済否定の最高裁判決」NBL830号30頁(2006年)

*11:中窪裕也・NBL830号48頁(2006年)。

*12:前掲52-53頁。

*13:内藤潤=中島菜子=東貴裕・NBL830号54頁(2006年)。

*14:NBL830号15頁(2006年)。

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