今回は簡単に流す(つもり)だが・・・。
NBL833号(2006.5.15)
巻頭言に、高山佳奈子・京大教授のコメントが掲載されている*1。
不正競争防止法18条(外国公務員贈賄罪)を例に挙げて、
企業の違法行為抑止のための方策のあり方について
論じておられるのであるが、
「経済学的分析による罰則強化」がもたらす矛盾への鋭い指摘など、
コンパクトながら格調高い論稿である。
近年の知財法の刑事罰強化などは、
まさに上記の矛盾が露呈している状況といえるだけに*2、
是非とも今後の検討課題に加えていただきたいものだと思う*3。
◆◆
知財関連では、森・濱田松本法律事務所の斎藤浩貴弁護士が
IPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱いをテーマに
論文を書かれている*4。
この分野、自分は全く門外漢なので、
正確に理解できている自信はないが、
斎藤弁護士のご見解は、
①現行著作権法上、「自動公衆送信」に比べて「有線放送」に該当する、とした方が、事業者は有利な扱いを受けることができる。
②現行著作権法の有線放送の定義規定(2条1項9号の2)からは、IPマルチキャスト放送が有線放送に該当する、と解釈することも可能だが、他の規定と合わせて検討すると、「自動公衆送信」に該当すると判断せざるを得ない。
③事業者保護の観点からは、著作権法を改正して、IPマルチキャスト放送を「有線放送」と同じ扱いにすることが妥当であり、そうしたとしても、国際条約に違反することにはならない。
ということになるようだ。
斎藤弁護士も指摘されるように、
放送事業者にとって有利、ということは
反面、著作権者の不利益につながるわけで、
どのあたりで両者のバランスをとるか、
より深い議論の必要性が示唆されている。
もっとも、最近の報道等を見ていると、
議論が深まる前に、
政治的決着が付いてしまうような気がしないでもないのだが・・・。
◆◆
企業内弁護士の方による連載記事、
『企業法務の重要課題とインハウスローヤーによる取組み』では、
西和伸弁護士が、
法律事務所の選択にあたっての留意点を解説されており*5、
企業側の担当者としては大変興味深い。
西弁護士は、“opinion shopping”の危険などを指摘され、
法務部が主体となった“アウトサイドカウンセルポリシー”の
必要を説かれているのだが、
まぁ確かに、“見解漁り”の点については、
自分自身心当たりはあるのであって、
ここで書かれているようなことは、
常に心のどこかに戒めとして留めておかねばならないだろう、
と思っている*6。
もっとも、自分の置かれている環境では、
担当部署が勝手に弁護士に相談に行こう、と考えるほど、
法に親しんだ人材が社内に散らばっているわけでもないし、
“見解漁り”ができるほど、
幅広く先生方とのコネクションを持っているわけでもない。
また、西弁護士は、
「取引の代理を行った法律事務所」に
「当該取引に関する訴訟案件を依頼すること」を
「禁止する方がおそらく妥当」と述べられるが*7、
今の状況ではそんな余裕はとてもない*8。
せいぜい、うちにできることと言えば、
請求書の発行日付をずらしてもらうことくらいだ(笑)*9。
ゆえに、本稿の“理想論”には共感しつつも、
現実とのギャップを感じざるを得ないのが、
いささか残念なところである・・・。
◆◆
なお、本誌には、
仮定の仮定で書かれている奇妙な論稿が一本掲載されているが、
あえてここでは深入りはしない*10。
現代の日本では、
特定の嗜好品を「諸悪の根源」であるかのように
あげつらう風潮がまかり通っているが、
そういった風潮に乗っかる人々というのは、
必ず次のターゲットを探し出すものであって、
ヒステリックな衝動が、
この世から全ての“不健康な”嗜好品を絶滅させる日も近いであろう。
肉体的に健康な人々が世に溢れる社会が訪れるとすれば、
それは大いに結構、というほかないが、
そこに精神的な健全さが残っているのかどうか、
疑問なしとはしない*11。
Lexis企業法務5月号(No.5)
『企業法務部インタビュー』は、
三菱商事株式会社の法務部長・松木和道氏。
何号か前に住友商事の法務部も紹介されていたが、
同じ商社でも随分違うものだ、とあらためて感心。
一応は“同業者”である自分が、
“高見の見物”よろしく論評するのもいかがなものかと思うが、
本ブログの読者の皆さまの中にも
関心をお持ちの方がいらっしゃるようなので、
一度、各業種・企業ごとの法務部のあり方の分析に、
トライしてみたいと思っている。
『ローファームインタビュー』は、
あさひ・狛法律事務所パートナーの江尻隆弁護士。
ドン・キホーテのTOBの一件には、
まだこだわっていらっしゃる模様*12。
是非とも上村教授との対談を
セッティングしていただきたいものである(笑)。
あと、この事務所をめぐる目下最大の話題といえば、
「西村ときわ」との合併になるわけだが、
この点に関しては、以下のようなコメント。
「今、法律業界は戦国時代ですから、織田信長や徳川家康といった戦国武将と同じように、絶えず新しい分野を攻めていかないと誰もついてきませんし、生き残っていくことも難しい。我々も西村ときわも、新規分野を積極的に開拓していこうとするところにおいて、共通点があったので協議が始まったのだと思います」(14頁)
運営ポリシーには好感が持てるところ事務所だけに*13、
浅井長政にならないことを願うのみである。
その他、興味深い論稿として、
アンダーソン毛利友常の井上朗弁護士による
「企業法務におけるリーニエンシー」*14と、
同事務所の森脇章弁護士による
「中国ビジネスとコンプライアンス(中)」*15の
コンプライアンス・マニュアルの導入の話を挙げておく*16。
*2:犯罪そのものが顕出しにくく「侵害し得」という状況もあるがゆえに改正が繰り返されている状況ではあるが、他の刑罰規定との均衡(侵害性、非難可能性)がどこまで意識されているのか、疑問の残る状況といえる。
*3:ちなみに、本稿は執筆者の顔写真付き。高山先生がネット上で根強い人気を誇っている理由が多少なりとも理解できたような気がした次第・・・(笑)。
*4:斎藤浩貴「通信を利用した放送と著作権法上の課題」27頁。
*5:西和伸「法律事務所起用の留意点−アウトサイドカウンセルポリシーの勧め」43頁。
*6:何らかの案件を弁護士の先生のところに持っていくときに、「この先生ならこんな見解をくれるだろう」という大まかな予測を立てて足を運ぶのは、法務担当者なら多かれ少なかれやっていることだと思うが、「この先生なら確実にダメだしされそうだ」と感じたときに、あえて別の先生にお願いするという途を選択することもままある。また、ある先生にダメ出しされた時に、「別の先生に聞いてこい」という天の声が降ってきて、二度目の相談で“期待に答える”回答が得られるように、阿吽の呼吸で、先生に対して“誘導尋問”を仕掛けることもある。まぁ、どちらも褒められたことではないのは重々承知しているのであるが・・・。
*7:46-47頁。
*8:取引の代理を依頼した事務所がよほどへまをした場合は別だが。
*9:年度ごとの予算の関係で・・・。
*10:この論稿の筆者は、個々の原告の素因に関係なく因果関係を認めるかのような大胆な主張をなさっているにもかかわらず、「危険の引受」に関しては個々の原告の素因や属人的要素に執着なさっているようで、このあたりの整合性にも疑問が残る。
*11:これ以上の言及は本エントリーの趣旨から外れるので割愛する(笑)。
*12:11-12頁。
*13:・・・といっても知り合いの先生からの又聞きでしかないのだが・・・。
*14:17頁。
*15:34頁。
*16:「贈賄罪」と法的に許される「接待」との線引きをめぐる議論について、先に取り上げたNBLの高山教授の論稿と合わせて読むと面白い。