立ち読み亡国論

日経新聞月曜日の紙面に『領空侵犯』というコラムがある。


様々な分野の第一人者が、専門外の領域の話題について
一言物申す、というコーナーなのだが、
時々、“トンでも”系の恥ずかしいコメントも
堂々と掲載されていたりして、
門外漢が軽々しく他人の芝生に足を踏み入れることの浅ましさ
を読者に伝えてくれる、という点において
非常に意義深いものになっている(笑)*1


だが、そんな過去のコメントも、
この方の前ではかすむだろう、と思えてしまうような、
想像を絶するコメントが、
10月2日付け朝刊の同コラム(第5面)に掲載された。


湯川れい子氏(作詞家、音楽評論家)による
「立ち読みが国を滅ぼす」というお題のコメントである。


同氏は、

「書店やコンビニエンスストアで立ち読みして買わずに済ませたら万引きと同じ。それは『盗み読み』という立派な犯罪です。」

という持論をお持ちのようで、
それはそれで勝手に言っていただく分には結構なのであるが、
看過できないのは次のくだり。

「そもそも立ち読みは、本を書いた作家や本を売っている書店が損害を被るだけの話ではありません。これほど退任された小泉純一郎前首相は、国の戦略の一つとして知的財産の権利保護や利用拡大に取り組んできましたが、本や雑誌はまさに知的財産です。立ち読みは国家的な財産侵害になるのです
」(太字筆者。以下同じ。)

(笑)(笑)(笑)(笑)・・・・・・・(以下エンドレス)(爆)。


本コラムを最後まで読むと、

「結局は一人ひとりのモラルに訴えるとともに、知的財産や著作権がいかに重要であるかを教育を通じて徹底するしかないでしょうね。長い道のりですけど。」

などというご立派なことをおっしゃっておられるので、
おそらくこの方は、
「立ち読みが著作権侵害にあたる」とでも言いたいのだろうが、
著作権法に限らず、知的財産関連諸法のどこを読めば、
公表されている書籍や雑誌の「閲覧」が
権利侵害にあたると書かれているというのか、
根拠を示していただきたいものである。


知ったかぶった独善説を公共メディアで垂れ流すのは、
社会的害悪以外の何ものでもないのであって、
こういうことをのたまいたければ、
せいぜい独り言か、ご自分のブログに書く程度にとどめておくことを
推奨したい。


電器店に行って、店頭にある商品の機能や性能を確かめずに、
買う人はほとんどいないだろう。
本屋の店頭でパラパラと立ち読みをするのは、
まさにそれと同種の行為であって、
何ら禁止されるべき行為ではない。


立ち読みで満足して、買うのを止めてしまうようなレベルの本や雑誌には、
所詮はその程度の価値しかないものなのであって*2
それをもって売上が落ちると非難するなど、
消費者を馬鹿にするにもほどがある*3

「図書館で本を読む人たちと書店の立ち読みで済ませようとする人たちとは、本や雑誌に対する姿勢も認識もまったく異なると思います。図書館は活字文化に親しむために欠かせない施設です。立ち読みで済ませる人が行くとは思えません。

これまた根拠のない独りよがりな見解が続く。
もはや公害に近い。

「国を挙げて日本のマンガなどの文化を世界に売り込もうとしているときに、このまま立ち読みを許し続ければ、だれも良いものを出そうとしなくなる。次世代の才能は育たず、日本の文化は衰え、国の力が低下してしまいます。

この程度の次元のコラムが堂々と大新聞に掲載されてしまうことに、
「日本の文化の衰え」が如実に表れているといわざるを得ないのであるが、
もしこの方が「文化の衰え」を本当に憂いているのであれば、
ご自身が、ジュンク堂法律書コーナーに行って、
著作権法に関する一番薄いテキストを『立ち読み』することを
まずはお勧めしたい。話はそれからだw


まぁ、門外漢のたわごと、と思えば良い話なのかもしれないが、
実のところ、この湯川氏、本業の音楽の世界に関連して、
日本音楽著作権協会理事」なる肩書きもお持ちのようで、
こと知的財産(特に著作権)の分野に関しては、
「門外漢」などといっては失礼にあたる立場におられる方である。


リエーターとユーザーとの間のバランスの上に成り立つ
「知的財産」という繊細な権利に対して、
この程度の認識しか持ちえていない方が、
大きな発言権を持つ団体の要職に就かれていること、そのこと自体が、
この国の知財政策の先行きが危ういことを
裏付けているように思えてしまうのは筆者だけだろうか・・・。

*1:それを新聞社が意図しているかどうかはともかく(笑)。

*2:本当に興味を引く中身のものであれば、買って持ち帰ってじっくりと読もうと思うのが、通常の人の発想であろう。

*3:長時間の立ち読みによって、本屋の営業が妨害され、それによって書籍の売上が落ちるおそれがある、という理屈ならまだしも・・・。

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